第5話 剣術道場
今回はシャーシェスの仕事場です。
―ミシューカ家・玄関―
数日後、シャーシェスは仕事場でもある剣術道場に向かう為の準備をしていた。腰には剣が納めている鞘、服装は武道服であった。すると、リンナが包みを持って、玄関に見送りに来た。
「あ、あの、シャーシェス様……」
「どうしたんだ?」
「これ、お弁当です……」
顔を赤らめながらそっと、包みを渡す。シャーシェスは微笑み、その弁当を手に取る。
「ありがとう、リンナ……行ってくる」
シャーシェスはリンナの綺麗な髪に口づけし、リンナはさらに顔を赤らめる。
「はい、お仕事、頑張ってください」
「ああ、じゃあ、二人共、リンナを頼む」
「かしこまりました」
「リンナ様はお任せください」
そう言って、シャーシェスは包みを持って、剣術道場に向かったのであった。
―『フェリン』郊外・王国剣術学校―
城下町中心部に位置する、その場所にシャーシェスが働いている剣術道場があった。シャーシェスは門をくぐると、そこには少年少女達が必死に鍛錬していた。
「あ、シャーシェス師範代だ!」
「本当だ!師範代、今日はよろしくお願いします!」
「おう、後でな、爺様に会わないといけないから」
「「はい!」」
相変わらずの雰囲気にシャーシェスはホッと一安心した。すると、目の前に一人の老人がいた。
「爺様!」
「ん、おお、シャーシェス、来たか……どうじゃ、久々の休暇は……」
「ええ、それなりに充実しましたよ」
「うむ、それとファンナから聞いたぞ、何でも結婚したそうじゃな」
「ええ、まぁ」
「とはいえ、お主も大変じゃな」
爺様と呼ばれた老人、グロウド・マッチスは長めの髭を撫でながら、シャーシェスを心配する言葉を発する。
「これが今の俺の仕事です、爺様が心配なさる事はありません」
シャーシェスはそのまま、生徒達の下に向かった。
「シャーシェス……」
その後、シャーシェスは生徒達に稽古をつけると、昼食の時間となっていた為、剣術道場内にある食堂でリンナから貰った弁当を広げた。中はサンドイッチだった。とても美味しそうなサンドイッチをシャーシェスは一口いただく。
「ん、これは中々……」
シンプルなエッグサンドイッチだったが、かなり美味しかった。すると、シャーシェスが座っている席に、二人の生徒がやって来る。一人は青髪のショートで元気な印象を与える少年で、もう一人は赤髪のポニーテールをした強気な少女だった。
「師範代!ここ、良いっすか?」
「おう、誰かと思えば、セルとルシュカじゃないか、いいぞ、座れ座れ」
シャーシェスはセル・アラカルトとルシュカ・リエントを招きすると、二人はシャーシェスの向かい側の席に座る。
「わぁ、美味しそうなサンドイッチ……師範代が?」
「いいや、俺は料理はからっきしダメでね、これはリンナが作ってくれたんだ」
「リンナ……?あ、ファレン様の妹様ですね!」
「もしかして、ご結婚を?」
「ああ、式は挙げなかったが、妻として迎え入れてな」
シャーシェスは若干照れながら喋る。
「それはおめでとうございます」
「素敵です!ああ、私もいつか素敵な人に出会えるかしら?」
「騎士を目指す女性ってあまり結婚するイメージがないような……」
セルは定食を食べながら思っていた事を呟く。
「そ、そんな事ないわよ!ないですよね!?」
「……ごめん、俺もイメージがない」
「ええ!?」
「いるかもしれないが……俺の身近にいる女騎士で結婚した人はいないな」
「それって……」
「サラ様の事……?」
「ああ……あいつ、結婚には憧れているが……いかせん、女騎士って事で結婚が難しいんだよ、性格も相まって」
シャーシェスはサンドイッチを食べながら、そう言うと、セルとルシュカは苦笑いをした。
「とは言え、女騎士でも結婚は出来るからな、諦めるな」
「は、はい!と言っても、まずは騎士になって見せます」
「俺だって、騎士になって見せるさ!」
「その意気だ……と、そろそろ時間か、お前らも飯食って、少し休んだら、鍛錬だからな、遅れるなよ」
「「はい!!」」
セルとルシュカは元気良く、返事をすると、シャーシェスは微笑み、残りサンドイッチを食べきった。
午後の鍛錬も終わり、シャーシェスは生徒達に明日の事を伝えると、解散させ、一人、道場に残った。すると入れ替わりでグロウドが入ってくる。
「爺様……」
「うむ、今日もお疲れ様だな、シャーシェス」
「あはは、もう慣れましたよ」
「そうか……しかし、やはり勿体ないの」
グロウドがそう言うと、シャーシェスは頭を傾げる。
「お前ほどの剣士がここに居ていいはずがないのだがな……」
「……」
その言葉にシャーシェスは困ったような顔をする。
「儂には騎士団に推薦する権利を有しておる。本人の許可があれば……すぐにでも……」
「爺様」
シャーシェスはグロウドの言葉を遮る。グロウドはシャーシェスの顔を見ると、すぐに俯く。
「うむ、分かった……今はこの話をなかったことにしよう。だが、お前はいずれか騎士に戻るべきだ。それだけは分かってくれ」
そう言って、グロウドは道場を出ていく。その背中を見たシャーシェスはおじきをした。
「すみません、爺様、俺はもう……騎士には戻れません」
少し悲しそうな声を出しながら、シャーシェスは謝ったのであった。
―ミシューカ家・シャーシェスとリンナの部屋―
夜、剣術学校から戻ってきたシャーシェスはシャワーを浴びて、夕飯まで寝転がっていた。そこにリンナがやって来た。
「リンナ」
「シャーシェス様、夕飯の時間ですよ」
「そうか、すぐ行く」
シャーシェスは立ち上がり、リンナと共に部屋を出る。
「今日はお勤めご苦労様でした」
「ん、久々で少し疲れたよ」
シャーシェスは首を少し回し、苦笑する。
「ふふっ……あ、後……」
「ん?」
「きょ、今日も弁当はどうでしたか?」
少し恥ずかしながら、リンナは聞いてくる。
「ああ、美味しかったよ。また、作ってくれるか?」
その言葉にリンナは笑顔になる。
「はい、シャーシェス様!」
可愛い笑顔に思わずシャーシェスも微笑むのであった。