第三話
夜眠る時は、リアンナにせがまれ、寝物語を語り聞かせる。
娘が好むのは、御伽噺、冒険活劇、恐い化け物や魔物との戦記だったりといろいろだ。しかし、中でも一番好んで聞くのは、セレンも昔、老婆から何度となく聞いた神話である。
・・・・遥か昔、世界は暗黒の世界から生まれた魔竜によってほろぼされかけており、その力を恐れた人間達は、神に仕えし優れた力を持つ、大変美しい清らかな娘を生贄にささげ、魔竜の力を鎮めようとした。
その聖女は世界を救うため、自らその役目を買って出て、やがて恐ろしい魔竜の住む塔へ連れ去られる。聖女に魅せられた魔竜は、聖女を自分の花嫁に迎えようと考えたのだ。
しかし、彼女がその魔竜とまさに結ばれんとしたその時、神々の力を携えた勇者とその仲間が現れ、魔竜を打ち倒した。
魔竜が倒された後、亡骸は封印され、世界は平和を取り戻す。
勇者は後、聖女を妻に迎え新たな王国を建国し、そして子を成し、世界は繁栄の一途を辿った。
そして、その功績を称えた神々は、二人を神として天上へ迎え、二人は光の中空へ帰っていった・・・
「おかあさん、そのせいじょさまは、ゆうしゃさまとかみさまになってもしあわせにくらしたのかな?」
するとセレンはまどろみつつ、娘に答える。
「そうね・・・今でも幸せに暮らしているでしょ。」
リアンナは眠くなったのか、しきりに目をこすリはじめている。セレンはその手を優しく握りながら、頭をなで、目を瞑らせた。
「そうかあ・・・」
「さ、もう寝るわよ。お話はおしまい。おやすみ。」
「うん、おやすみなさい・・・」
しばらくすると、娘の寝息が聞こえてくる。
傍らの少し自分より高い体温を愛しく思いながら、セレンはかつて、自分もこの娘と同じようにして眠った者がいることを思い出した。
その時は、自分がリアンナの立場だった。もう一人は、リアンナによく似た面差し、さらりとした銀髪、とても美しい人。共にいる自分より、ずっと傍から見たら女性らしさすら感じた人。その人は、それを告げると、決まって苦笑いし、抱き寄せて、自分が今娘にしているように頭を撫でてくれたものだ。
時折、まどろみの中で、かつての情景がよみがえる。しかし、それは今のセレンにとっては夢物語に過ぎない・・・。