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年下の小悪魔!?  作者: 水谷 順
本編
5/28

第5話  自分らしく……



 翌週の月曜日、いつも同じ時間に家を出て、いつもと同じ時間の電車に乗り込んだ。

 しかし、先週までとは明らかに気分が違う。顔が勝手にニヤニヤしてしまう。

 なんとかピシッと気持ちを整えて、顔を引き締める。

 すると、いつもと同じ駅から希美が乗ってきた。


 「おはよう」


 いつものようにそう声をかけた。


 「そんな顔して、彼氏でも出来た?」


 やっぱり何故分かる……。努めて普通の表情で挨拶したつもりだったのに。

 でも彼氏と言う言葉を聞いて、顔がニタ〜と崩れてしまう。


 「図星だったかぁ〜」


 何ヶ月か前に、同じようなやりとりしたのを思い出した。

 あの時は彼氏と別れた後だったんだけど……。


 「じゃあ話聞かせてもらおうかな。今晩空けておいてあげるから」


 「はい。分かりました」


 希美には逆らえないからね。それに、彼女にはちゃんと報告しておかなくちゃ。

 初めて出来た年下の彼氏……。

 嬉しい気持ちとは裏腹に多少の不安があるのだ。

 その辺りの気持ちを希美に聞いてほしかった。


 とは言うものの私も現金なもので、スキップしそうな雰囲気で仕事をしていたらしい。

 自分ではまったく気付かなかった。仕事仲間達が訝しげに私を見ていたことを。


 「花田っ!不気味っ!」


 坂牧チーフにそう言われるまでは。


 「え…えっ?不気味って…」


 「どっちかって言うと、いつも怖い顔して仕事してるお前が、今日はどういう訳かニタニタしてる。不気味以外の何ものでもないだろ」


 「いつもは怖い顔って……そんなにニタニタしてましたか?」


 自分の顔を両掌で触って確認する仕草をしてみた。


 「何?新しい彼氏でも出来たか?」


 「そのセリフ、オッサン上司みたいですよ。私と2歳しか違わないのに」


 「ほっとけっ!」


 「でも、正解。彼氏、出来た…かな」


 そう言うと一瞬、チーフの顔が曇った…ような気がした。


 「そ、そうか。良かったじゃないか」


 「まぁ、前途多難な気もするんだけど」


 「何か問題があるのか?」


 「いろいろと……」


 こうやって話し出すと考えてしまう。素直に喜べば良いのに。


 「そんな前途多難な彼氏なんかやめて、俺にしとく?」


 「冗談も大概にして下さい」


 「だよなぁ〜」


 ハハッと笑いながら、事務所に戻っていくチーフ。

 そのうしろ姿を見ながらため息をついた。

 坂牧が悲しそうな顔をしていたなんて知る由も無く……。



 

 いつもの店に到着すると、やはり希美は先に定位置に座りビールを飲んでいた。


 「少しくらい待てないかなぁ」


 「うん、待てないね。喉渇いてたし」


 「私より喉の渇きの方が優先なのね」


 「当たり前っ!」


 なんて軽く笑いながら言ってくれちゃう。「はいはい」と言いながら席に着くと、

 私もやっぱりビールを頼んだ。

 店員がすぐにビールを持ってきてくれる。私は一気にそれを飲み干した。


 「う〜〜ん、美味しいっ!」


 「咲、あんたって本当に分かりやすい」


 「え?何が?」


 「まぁ、いいや。で、彼氏は例のよくレジに来てたとかいう子?」


 「う、うん」


 何か照れる……。

 あまりに頻繁に通って来てくれてたから、希美に少し話はしてあった。

 でもその時は、まさか彼氏になるとは思ってもなかったから……。


 「で、彼氏が出来たのに何を悩んでるんだか」


 「分かる?彼ね、あっ翔平くんって言うんだけど……8つも年下だった」


 「8つ…そりゃまた若いねぇ。でも今どき年の差なんて気にしなくていいんじゃないの」


 「彼もそう言ってた。けど1つや2つならまだしも、8つだよ!お姉さん過ぎて甘えられないと言うか、しっかりしなきゃって、なかなか素直になれなくて」


 「まぁ咲の気持ちも分からなくはないけど。でもさ、恋人同士って気を使いすぎると長続きしないよ。

きっと咲が今のままの気持ちでいたら彼、どう思うかなぁ?」


 「うん、それも何となく分かってはいるんだけど。身体が勝手にブレーキかけちゃうんだよなぁ」


 「Hしちゃえば?」


 ブーーッと勢いよくビールを噴いてしまった。


 「ご、ごめん。いきなり変な事言うから!びっくりだよ」


 土曜日の夜の事が鮮明に脳裏に甦ってきて顔が赤くなる。


 「何、赤くなってんの。もしかして、もうしちゃったとか?」


 「してなーいっ!!」


 「初体験じゃあるまいし、何を照れてるんだか。咲、可愛いね〜」


 完璧にからかわれてる……。

 私って、からかわれやすい体質なのかしら?そんな事を考えていると、ふと自分に変化がある事に気付いた。

 

 (あれ?さっきまであった、肩にズッシリ圧し掛かっていた重荷が無くなってる)

 

 「分かった?咲はいろいろ考えすぎなんだよ。咲は咲らしく。いい?」


 やっぱり希美には敵わない。大した会話をしてる訳ではないのに、私の心を正常に戻してくれる。

 私は私らしく……か。

 すぐには難しいかもしれないけれど、私なりに頑張ってみよう。


 「希美、ありがとね。大好き!」


 「大好きって…言う相手、間違えてるでしょ」


 そう言いながらも嬉しそうに笑ってる。希美に、もっともっと良い報告が出来るといいなぁ。

 

 その後、気分の良くなった2人は、しこたま美味しいお酒を飲んで、恋愛話に花を咲かせた。

 


 ほろ酔い気分で家に帰ると、携帯のメール着信音が鳴った。

 ソファーに座り、鞄の中から携帯を取り出すと翔平くんからのメールだった。


 『もう家に帰ってきてる?また飲みすぎて記憶無くしてる…なんて事してないよね?

  直接話したい事があるから、帰ってたらメールして』


 昼間に『今晩は親友と飲みに行く』とメールしておいた。別に、毎日連絡しあう事もないのだけれど、

 何となくそうしたかった。彼からも『うん、分かった。気をつけてね』そうメールがきた。

 そんな些細な事も、今の私には幸せだった。

 でも私、何だか飲んだくれみたいな扱いされてる気がするんだけど……。


 『お酒は強いの!すぐに同じ過ちはしません(怒)今、家に帰ってきました。私から電話しようか?』


 メールを送るとキッチンまで移動して、冷蔵庫からよく冷えたミネラルウォーターを取り出した。

 一口飲んで喉を潤わせながら元の場所まで戻ると、すぐに携帯が鳴り出した。

 慌ててワンコールで出る。


 「もしもし」


 「出るの早っ。そんなに僕の声が聞きたかった?」


 そうなのか、私?


 「そんなことないけど……」


 うん…なんて素直に言えない。まだ無理。


 「そこは、うんって言わなきゃ」


 言いたいんだけどね。


 「以後、気をつけます」


 電話の向こうで少し呆れたように笑ってる彼。


 「じゃあ本題。咲さん、今週末は予定入ってる?」


 「ううん。何も入ってないけど、今のところは」


 「良かった。じゃあ僕が予約。ドライブしよ!ちょっと遠出になるけどいいかな?」


 ドライブは大好きだ。今でこそ少なくなったけど、若い頃は休みのたびに車を走らせていた。

 

 「うん、いいよ。嬉しいかも」


 「じゃあ、時間とかはまたメールする。本当は会って話ししたいんだけど、今週は内勤だから終わる時間が読めないんだ、ごめん。もしはやく終わりそうな日が出来たら連絡するね」


 「分かった。でも無理はしないでいいから。土曜日に会えるんだし」


 「そう?僕はもっともっと咲さんに会いたいんだけどなぁ」


 私だって会いたい……。

 彼のその素直さが羨ましい。

 ほらっ!頑張れ、私!


 「そ、それは私だって……」


 「私だって?何?」


 「……なんでもない……」


 やっぱりダメだぁ。この後がどうしても言えない。


 「はぁ…咲さん。本当の気持ち言ってくれないと、ちゃんと届かないよ」


 呆れてる?呆れてるよね……。嫌われたかな。好きだから嫌われたくない。

 何だか、すっごく悲しくなってきた。泣きそう……。

 あれ?私って、いつの間にこんなに彼のこと好きになっちゃってたんだろう。


 「嫌いにならないで……」


 勝手に口から零れ出た言葉。自分でも気付かないうちに出ていた。

 声が震えていた。


 「馬鹿だなぁ、なんで僕が咲さんを嫌いになるの?1日1日どんどん咲さんの事が好きになってるのに」


 きっといつもの私の大好きな笑顔でそう言ってくれてるんだろう。

 彼は、いつもいつも私の心を数秒で温めてくれる。心がポッと温かくなる。

 いいのかな、こんな私が甘えても。ほんとにもう、どっちが年上なんだか……。

 よしっ!今度の土曜日、本当の私で…素直になって、彼と一日を過ごそう。

 心にそう決め、彼に伝えた。


 「あ、ありがとう。私、頑張るね」


 言ってから、ちょっと笑ってしまった。(頑張るって…彼に宣言してどうするの!?)

 彼もクスクスと可笑しそうに笑っている。

 言ってしまったものは、しょうがない。当たって砕けろだ!

 そう思うと気持ちもだいぶん軽くなった。


 「楽しみだね。咲さん」


 「うん!」


 ……………早く土曜日になれっ!!……………


 そう願わずににはいられなかった。



 

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