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年下の小悪魔!?  作者: 水谷 順
本編
2/28

第2話  30女の宣言

 自宅から駅まで歩いて5分。

 いつも同じ時間に家を出るから、電車が来るタイミングもバッチリ。

 今日もいつもと同じ時間の電車に乗り込み、いつもの定位置に立ち、

 終点の駅まで向かう。

 すると途中の駅から、同僚で親友の林田希美が乗ってきた。

 

「おはよう」

 

私がいつものように声をかけると、希美はちょっとニヤッと笑いながら、

 

「そんな顔して、彼氏に振られた?」

 

何故分かる…。努めて明るい表情で挨拶したつもりだったのに。

 そして私がピクッと眉を顰めたのを彼女は見逃さなかった。

 

「図星だったかぁ〜」

 

そう言いながら私の顔を覗き込む。

 

「今日1日ぐらい優しく出来ないかなぁ…」

 

私がちょっと甘えてみると、

 

「私に甘えるな!」

 

ですよねぇ〜。希美はそんな事してくれないですよねぇ〜。

 分かってるけど今回はちょっと重症みたい。

 いつになく反応が鈍い私に気付いたのか、

 

「でも話くらいは聞いてあげるわ。今晩空けておいてあげるから」


「ありがとう」

 

ほんの少し気分が晴れた気がした。



 私の勤め先…とは言っても、ここは郊外にある大型ショッピングモール。

 1日に何万人ものお客様が買い物や趣味などを楽しめる『夢の国』をテーマに作られたらしい。

 私はそこの、食品売り場担当の商品管理チーフという立場。

 正社員も長くなると、そこそこの地位には上がれるってわけよ。

 ちなみに悪友希美は衣料品担当チーフ。

 お互いに何人もの部下や後輩をまとめなきゃいけないから、日々苦労が耐えないのよねぇ。

 従業員専用入り口から中に入り、管理室にいる守衛さんに挨拶を済ませると、

 

「じゃあ、また仕事の後に!」

 

と、手をヒラヒラと振りながら希美が自分のフロアへと移動していった。

 私もそれにつられて手を振り返し、すぐ近くにあるロッカールームへと急いだ。

 中に入ると、今年入社したばかりの女の子数人がキャーキャー言いながら談笑の真っ最中だ。

 それでなくても今日は朝から頭が痛いのに、彼女たちの甲高い声は脳天に響く。

 きっと私は(うるっさいなぁ…)って思ってたのが顔に出てたんだろう。

 私に気付いた1人が急に顔色を変えて他の子達に合図を送った。

 いきなり全員揃って、緊張した面持ちで、

 

「おはようございますっ!」


「おはよう」

 

私は頑張って笑顔を作り返事をした。

 だって今時の若い子って、ちょっと嫌な事があるだけで、サッと辞めてしまう。

 

  

 

 ついこの間も、お客様に対する態度を新入社員の女の子にちょっと注意したら、

 その彼女、目に涙いっぱい溜めて、


「私、接客したくってこの会社に入ったわけじゃありませ〜ん。

  それにパパやママにもこんなに怒られたことないですぅ〜」

 

だって……。

 その日のうちに辞めてしまったのよね。

 しかも食品部門総チーフ(私の直属の上司)には、

 

「花田、もう少し新人には優しくしてやれ」

 

なんて言われちゃうし……。

 でも、これには私も頭にきて、

 

「お言葉ですが坂牧チーフ、私、十分優しくしてるんですけど」


「じゃあ、顔が怖いのか!」

 

と言いながら大笑いしてるし。

 

「あほらしい…もういいです」


「悪い悪い。お前が悪いわけじゃないのは分かってるけど、もう少し笑顔で対応してやれ」


「はいはい、分かりました。総チーフ殿!」


 

 

と言うわけで、今日は朝から憂鬱な気分なのに笑顔で挨拶した訳です、はい。

 あ〜〜〜、私今日1日、何事もなく仕事を終われるだろうか……。

  

 

 無理でした。

 ミス連発の嵐。

 特に、在庫チェック中に自分の不注意で商品を棚から大量に落としてしまった。

 それをあろうことか、お客様に片付けを手伝ってもらうと言う大失態。

 一応その場でお礼はしたのだが、きちんとお詫び申し上げなくてはいけないと、

 事務所までと言おうと思った時には姿が見えなくなっていた。

 気が動転していた私は、お客様の顔をちゃんと見ていなかった。

 

「男性のお客様だったのは確かなんだけどなぁ」

 

 なんてブツブツ言いながら坂牧チーフに報告に行ったら、

 

「お前、何年この仕事してるんだよ!私情を仕事に持ち込むなっ!!」

 

 と、こってり怒られ、散々な1日はやっと終わりを告げた。


  

 振られたぐらいたいした事ないって思ってたんけど、

 想像以上にダメージ受けてたのかしら、私……。

 そんな事を考えながらトボトボと歩いていたら、希美と待ち合わせしていた店に到着していた。

 店の中に入ると、先に着いていた希美が朝と同様、個室から手をヒラヒラ振って所在を知らせた。

 

「ごめん、待たせたね」


「ううん、私もいまさっき来たばかりだから」

 

 と言うわりには、もう飲んでるんですけど(笑)

 私もまずはビールと大好きなポテトフライをオーダーし、一息ついた。


「今日はいろいろミスったんだって?こっちのフロアーにまでうわさ話回ってきたよ」


「えぇ〜〜!!それって、ありえないでしょうっ!」


「咲って結構有名人だったんだ」


 そんな事ないっつ〜の……。

 なんで関係ないフロアーにまで私の失態話が回っちゃってるのよ!!

 死語かもしれないけど、トホホッて言いたい気分だよ。

 ハァ〜ッとため息をつき、明日仕事休んじゃおうかなぁ〜なんて考えてたら、

 希美がそれを見透かしたように言い放った。

 

「仕事は休まないように」


 あんたはエスパーか!?

 私の心の中はお見通しなんですか?

 

「まったく希美には敵わないね」


「咲は思ったことが顔に出るから分かりやすいんだよ。それに何年親友やってると思ってるの?」


 希美とは大学のゼミで一緒になり、すぐに意気投合。

 それ以来、何をするのも、どこに行くのも、いつも一緒。

 青春時代を共に過ごした仲だ。

 同じ年なのに何故か頼りにしてしまう、お姉ちゃんみたいな存在。

 口はちょっと悪いけど、なんだかんだ言っても私を必ず助けてくれる。

 今現在、彼女には徹さんと言う素敵な旦那様がいて、いつも一緒と言う訳にはいかないけど、

 私に何かあると、こうして会う時間を作ってくれる。


「徹さん、今日は大丈夫だったの?」


「うん、ちゃんと連絡したし、大人なんだから心配することもないでしょ」


「いつも突然、申し訳ありません」


「そう思うんなら、もう少ししっかりしてくんないと。咲は見た目と違って甘えだからね。

  で、恵介さんとは本当に別れたの?」


 そうだった……。今日はその話を聞いてもらうんだった。

 久しぶりに希美と飲めると思ったら、恵介との事、忘れかけてた。


「私、仕事が忙しいのを言い訳にして、恵介に2カ月近く連絡してなかったの。

  それで昨日久しぶりに連絡したんだけど……」


「他に好きな子が出来た。別れよう……って言われたんじゃないの?」


「正解……」


「で本当はすっごく甘えなくせにプライドだけは高い咲の事だから、すんなり別れちゃったわけだ」


「大正解……」


 俯いて小さい声で答えた。

 何故だろう。希美が何もかも分かってくれてると思ったら、急に泣けてきちゃった。

 肩を僅かに震わせながら鼻をグズグズ鳴らしていると、優しい声が頭上から降ってきた。


「自分が思ってたよりも、かなりショックだったんだ。そんなに泣くぐらいだったら

  どうして別れたくないって言わなかったの?」


「5年も付き合ってきたのに恵介、私は強いから一人でも生きていけるだろうって……

  そんな事言われたら、30過ぎてる私みたいな女は大丈夫よって言うしかないじゃない!」


「咲は本当にバカだね……」


 そう言いながら私が泣きやむまで、そっと肩を抱いていてくれた。

 希美の言うとおりだ。私はなんてバカな事しちゃったんだろう。

 5年も付き合ったんだからこそ、もっとわがまま言っても良かったんだ。

 そんな事に今更気付くなんて……私って本当に大バカだ。


 その後、しばらくして落ち着いてきた私は希美に、


『一生、仕事一筋で生きていく宣言』


 をし、家で可愛い奥様の帰りを待っている徹さんのところに希美を帰し、私も帰宅の途についた。 

 

 家に着くと、すぐにお風呂に入り、身も心もキレイさっぱり流した。

 お気に入りのお店で買った新しいパジャマに袖を通し、明日からは心機一転、

 気持ち切り替えて頑張るぞっ!と気合を入れてからベットに身体を沈めた。


 (私にも本当の幸せって来るんだろうか……)


 ベットに入ってすぐ、ふとそんな事考えてみる。

 ダメだ、ダメッ! 仕事一筋に生きるって宣言したんじゃない!

 

 (でも、やっぱり愛する人にギュって抱きしめてもらいたいなぁ……)


 私、かなりの重症患者?

 心と頭が別々の気持ちを語っていた。

 私はその甘い期待をする心に蓋をするように、目を強く瞑って眠ることにした。

 もう、こんな傷つくのは嫌だ。

 なら、一生恋なんてしないほうがいい……………。

 


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