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年下の小悪魔!?  作者: 水谷 順
本編
18/28

第18話  思いがけない告白


 次の日会社に着くと、すぐにシフト表に目を通した。


 「あ〜やっぱり……」


 今日の私は、店内の商品チェックをする予定になっていた。

 もしかしたら彼が現れるかもしれない。今、彼と出くわしてしまえば仕事に何らかの影響が出てしまう。それだけは避けたかった。

 出来れば会社では問題を起こしたくはない。

 後輩たちには申し訳なかったけれど、私の商品担当チーフという立場を悪用してシフト変更をした。


 始業時間が近づくと、控え室に続々と社員たちが集まってくる。


 「あれ?花田先輩ー。今日僕って店内担当でしたっけ?」


 「藤原くん、ごめん。私今日、業者さんと納品の打ち合わせがあるの忘れてて」


 そう言って舌をぺろっと出し、申し訳なさそうにして見せる。 


 「先輩ドジっすねぇ。分かりました、いいっすよ」


 「悪いね。今度ランチ奢るね」


 これでよしっ。裏方に徹していれば彼に出くわすことはまずない。

 心の中でもう一度藤原に謝罪し、在庫センターに向かった。


 在庫センターの脇にある小部屋に入ると、パイプ椅子に座り机に突っ伏した。


 「かと言って、仕事する気にもならないしなぁ」


 突っ伏したまま顔を左に向けると、週刊誌が置いてあった。

 誰かが忘れていったのだろう。それを手に取りパラパラとめくってみる。

 特に面白そうな記事もないなぁと思っていたその時、バンッと勢い良く扉が開いた。

 びっくりして顔をお越し、ドアの方を見た。


 「おっ……なんだ花田か。誰もいないと思ったから驚いた」


 「坂牧チーフ……。驚いたのはこっちですよ」


 坂牧は「悪い悪い」と片手を上げ、手に持っていた資料をバサッと机に置くと、自分も椅子に座った。


 「お前今日は、店内担当じゃなかったか?」


 流石はチーフ。よく把握してらっしゃる。ウンウンと一人感心していると頭をこつかれた。


 「おいっ、聞いてるのか」


 「あ……聞いてます聞いてます」


 そう慌てて答えると、坂牧は右の口角を少しだけ上げニヤリと笑い、私にジリジリと寄ってきた。

 お互いの距離がかなり近づくと、私の目をじっと見つめた。


 「なあ、お前。また男のことで何かあっただろう」


 「はぁ!?」


 急に近づいたと思ったら、何を言い出すんだ、この男はっ!


 「お前、すぐ顔に出るからなぁ」


 そう言って私の肩をバシバシ叩き、豪快に笑っている。

 でも私はいつもみたいに反論出来なくなっていた。


 (……すぐ顔に出るからなぁ……)


 その言葉で、私の思考は止まってしまっていた。

 彼にもよくそう言われ、からかわれていたのを思い出したからだ。

 最初は、何だこいつ……なんて思っていたが、最近は、私のことをよく見ていてくれてるんだと嬉しかった。

 同じ言葉を坂牧にも言われるなんて……。


 「花田。おいっ花田っ!!」


 大きな声でそう呼ばれて、我に返る。


 「もうチーフ、声が大きい。耳痛いじゃないですか」


 「お前がどっか行ってるからだろう」


 「どっか行ってるって……」


 当たっているだけになんと答えていいかわからなくなる。

 ハァーと息を吐き、坂牧の顔を見た。


 「林田から聞いたけど、お前、年下と付き合ってるんだって?」


 希美のヤツ……。

 坂牧と希美は飲み仲間だった。

 私の親友ということもあって、この部署によく来ていた希美は、坂牧と顔を合わす機会が多かった。

 性格も似ていたため、すぐに意気投合。

 男同士の仲、という感じだ。

 坂牧と希美の飲むペースについていけず、最近は一緒に飲みに行ってなかった。

 その隙に希美は、酔った勢いで話してしまったのだろう。


 「チーフには関係ありませんから」


 何でそんなこと、私に言うのか分からない。


 「関係なくもないんだよな、それが……」


 いつもポンポンとものを言う坂牧が、何か言いにくそうにしている。

 

 「言ってる意味がよく分からないんですけど」


 「だから……。あぁー、分かんないかなぁ」


 頭をボリボリ掻きながら、でもすぐに姿勢を正し意を決したように話しだした。


 「花田、俺、お前のことが好きなんだよ」


 「へぇっ!?」


 いきなり突拍子もないこと言うから、変な声が出てしまった。

 私のことが好き?

 聞き間違いじゃないよね?

 いやいや、有り得ない有り得ない。

 坂牧は私の2歳年上。入社当時から仕事のノウハウを教えてもらった信頼できる上司だ。

 がっちりした体格で豪快な感じだが、その反面、優しく思いやりも持ち合わせている。

 でも私は一度だって、恋愛対象に見たことはなかった。 

 坂牧だって同じだ。今まで一度たりともそんな素振り私に見せたことない。

 なんで急にそんなことを言うのか分からず一人混乱していると、坂牧が近寄ってくる気配がした。

 とっさに両手をぐっと伸ばし坂牧の胸にあて、それを阻止する。


 「な…何しようとしてるのっ!」


 もう敬語など使ってる場合じゃなかった。

 とにかくこの危機的状況を何とかしなければ……。


 「何にもしないから落ち着け。驚かせて悪かったな」


 いつもの威勢のいい坂牧からは、想像もつかないような優しい声だった。

 それ以上近寄ってこないのが分かり、強張っていた手を緩める。 


 「お前が精神的に弱ってる時に言うのは卑怯だけど、これって一つのチャンスだと思ってな」


 顔を少しだけ赤く染めてそう言う坂牧が、一瞬可愛く見えてしまった。

 きっと思った以上に弱ってるんだ、私……。じゃなきゃ坂牧が可愛いなんて思うはずがない。

 言い訳がましく自分にそう言い聞かせてみる。

 

 「わ…私、まだ彼と別れたわけじゃないし……。こういう場合、どうしたもんかと……」


 訳がわからなくなり、しどろもどろしながら立っていたら、いきなり坂牧が抱きついてきた。


 「ちょっ……ちょっと、何もしないって言ったじゃないっ!?」


 「あいつがお前を大切にしないなら、俺が大切にしてやる」


 あいつ?彼のことを言っているのだろうか?

 私が誰と付き合ってるのかは知らないはずのに、“あいつ”呼ばわりするなんて、

何を言ってるんだろう。

 って、今はそんなことを考えているときじゃないっ!!

  

 「チーーーフッ!離れてーーーっ!!」


 あるったけの力を出して、坂牧を押し退けようとした。

 坂牧も自分のしていることに気がついたのか、ハッとして私から離れる。


 「悪い……」


 また頭を掻いて、バツの悪そうな顔をする。

  

 「今すぐ付き合ってくれって言ってるんじゃない。だから、あんまり気にするな」


 「気にするなって言っても、気になるんですけど……」


 「だよな」


 クスクス笑いながら坂牧がそう言った。

 何笑ってんだか……。私は呆れたような顔をして、何も言わないまま坂牧の顔を見ていた。


 「ま、とにかくだ。告白した以上、俺も遠慮しないから。精々、お前も頑張れ」


 坂牧はそう言いたいことだけ言って、さっさと部屋から出て行ってしまった。


 「頑張れって……何を頑張れって言うのよぉーっ!!!」


 坂牧が出たいった方を向いて大きな声で叫んだ。

 それと同時に力が抜けてしまったのか、床にぺたんとしゃがみ込んでしまう。

 

 (彼とのことを考えるだけでも頭が痛いのに……)


 また一つ厄介なことが増えたと、頭を抱える私がいた。 


  

 

 




 

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