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年下の小悪魔!?  作者: 水谷 順
本編
13/28

第13話  温かい場所



 あの後の私たちというと……。

 見つめあったり笑いあったりキスしあったりと、やっぱり寝ることは出来なかった。

 しかし、蕩けてしまうような甘いひとときだった。

 

 そろそろ起きなくては朝食の時間に間に合わない。

 この時間になってウトウトとし始める彼に声をかけた。


 「翔平くん、もうすぐ8時だよ。用意しなくっちゃ」


 「うぅ〜ん……何?また抱っこ?」


 ゴンッ!!!彼の頭をグーで叩いた。


 「痛たっ……!?」


 「早く起きる!」


 私に叩かれた頭をさすりながら「は〜い」と情けない声を出して返事をし、のそのそと起きあがった。

 下着一枚しかつけてない彼の上半身は、とても引き締まった身体をしている。

 急に明け方までのことを思い出し、カーっと顔を赤くして彼の身体から目を逸した。


 「咲さん、やらしいなぁ〜」


 「やらしくないっ!早く服着てよ」


 「はいはい」


 そう言いながら荷持がおいてある場所まで行き服を着はじめる。

 私も勝手にニヤけてしまう顔を見られないように、ささっと身支度を整えた。


 朝食は別棟でとることになっていた。

 二人で手をつないで言われた場所まで行くと、美味しそうな匂いが部屋中に立ち込めていた。

 

 「わあ〜朝から豪華だね」


 色気より食い気のほうが勝っている私は、もう食べる気満々だ。

 さっと席に座り箸を持った。


 「咲さん、慌てない。まだ全部揃ってないよ」


 「そう?」


 そう言ったのと同時に襖が開き、女将さんが入ってきた。


 「失礼致しま……あら、ごめんなさいね。はい、お味噌汁」


 わちゃ〜っ!翔平くんの言ったとおりだ。カッコ悪い……。


 「すみません。待ちきれなくて……」


 「いいえ、全然かまいませんよ。さっ、ご飯よそいますね」


 なんだか女将さん、暖かい人だなぁ。ちょっとお母さんに似てるかも。

 私はお茶碗を渡しながら、そんなことを考えていた。


 「あっ野口様。先程、車の修理工場の方から連絡があって、修理にお昼ごろまでかかるそうです」


 「そうですか……分かりました。ありがとうございます」


 そういった後、私の顔を見て「どっかで時間潰さなくちゃね」と言った。

 ここのチェックアウトの時間は確か10時だったはず。どこか近くに時間つぶしできる場所あっただろうか。

 私も彼に「そうだね」と答えると、女将さんが口を開いた。


 「もしお二人がよろしければ、修理が終わるまで私の部屋にいらっしゃいませんか?」


 二人で顔を見合わせてから女将さんの方を向き、どういうことか聞き返した。


 「いえね、咲さん……でしたよね?私の娘によく似てるの。歳も背格好もね。

  だからか、とても気になってしまって。ごめんなさいね」


 「いいえ。逆になんだか嬉しいです。こんな事言うのは失礼かもしれないですけど、

  私も母に似てるなぁって思っていたんですよ」


 「まぁ嬉しい。じゃあ尚の事、来てもらわなくっちゃ。旦那様もいいですよね?」


 そう言って彼に、ぱちんとウィンクをしてみせる。

 きっと女将さん、私達が夫婦じゃないこと分かっている。さすがは女将さんだ。

 彼もやさしく微笑みながら「じゃあ、お言葉に甘えて」と言い、女将さんも嬉しそうに笑った。


 朝食を終え部屋に戻ると、急に彼が後ろから抱きしめてきた。

 びっくりしてそのまま顔だけ振り返えると、ふわっと唇を合わせてきた。

 そして、すぐにそれを離すと、私をぎゅっと抱きしめ直した。


 「女将さん、すごくいい人だね。僕、気に入っちゃったよ。女将さんもこの旅館も」


 「うん、私もそう思ってる。素敵な人だよね、女将さん」


 「また一緒に来よう。何度でも」


 うんと頷き、今度は自分から彼にキスをした。

 


 帰り支度ができるとフロントまで行き、精算を済ませた。

 すると女将さんは、待ってましたと言わんばかりの勢いで私達を自分の部屋に連れ込み、話をしだした。

 まずは、これからは女将さんじゃなく『あきこさん』と呼ぶように言われた。

 それから、旅館のこと、女将業のこと、そして娘さんのこと……。

 次から次へと話していき、私達を驚かせた。

 しかし、決して悪い気分ではなく、どの話しひとつとっても、心のあたたまる話ばかりだった。

 そうしていると、従業員の女の子がやってきて、修理が終わったと伝えてくれた。


 「なんだか、あっという間に時間経っちゃったのね」


 あきこさんはとても残念そうな顔をした。

 

 「あきこさん。昨日といい今日といい、本当にお世話になりました。もう少しここに居たいけど、

  明日から仕事なので。またすぐに彼女と一緒に来ます。僕も彼女もこの旅館が、あきこさんが

  大好きになったから」


 彼がそう言うと、少し前まで曇った顔をしていたあきこさんが、パーッと明るい表情に変わった。


 「必ずですよ!約束」


 そう言って小指を差し出した。私達もその小指に小指を絡ませ、三人で指切りをした。

 

 車に荷物を積み終えると二人で女将さんに向き直った。

 女将さんは目にうっすらと涙を浮かべている。それを見て私も涙が出てしまった。


 「まあまあ咲さん、泣かないの。綺麗なお顔が台無しになっちゃうわよ……」


 「あ…あきこさん…だって……泣いてるじゃ……ないですか」


 そんな二人を見て微笑ましく笑っている彼。


 「またすぐに会いに来ますね……あきこさん」


 私がそう言うと、あきこさんも笑顔になった。


 「待ってます。翔平さん、咲さん、必ず二人一緒に来ること。いい?」


 「「はいっ」」


 二人一緒にそう返事をして、車に乗り込んだ。

 あきこさんは、私達の車が見えなくなるまで、手を振り続けてくれていた。


 「ほんとに素敵な二日間だった。ありがとね、翔平くん」


 「あきこさんにも出会えたし、咲さん……綺麗で色っぽかったし」


 「また叩くよっ」


 「なーんでホントの事言って怒られるかなぁ」


 またいつもの調子に戻ってる彼だけど、きっと私をしんみりさせない為にわざとやってるんだろう。

 なんだか、ようやく彼がわかったような気がした。

 そんな彼だから好きになったんだ。今頃気づくなんて……。


 「明日から仕事なのに思ったより遅くなっちゃって、ごめん」


 「翔平くんが悪いわけじゃないから、気にしないで」


 なんだかんだ言っても、最後はいつも優しい彼。


 「大好き……」


 「な、何?急に!?」


 目をぱちくりさせて、本当に驚いている彼。

 たまには私から彼をドキドキさせなきゃね。


 そして二人、幸せな気持ちいっぱいで帰路についた。

  

 

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