最後の時
付き合うきっかけは、私がまさきに告白したことだった。もうその時には好きで好きで仕方なくなってしまっていた。
まさきがあさみの事好きなのも知っていた。それでも好きだった。
だからあさみだけがクラスが分かれた時まさきに告白した。まさきがあさみは振り向いてくれてないって考えてたのを知ってたから。
「あっ、あさみだ。」
まさきの目が遠くにいるあさみを捕える。どうしてあんなに遠くにいるのに気付くんだろう…。
あさみは一人で人混みから離れて立っていた。
美しい。
冬の風に吹かれてる彼女はその言葉がよくあった。
「ねぇっ!あさみと写真撮ろう!」
「まだ撮るのか?」
少し困ったようにまさきが笑った。
まさきは写真が嫌いだ。そしてあさみも写真が嫌い。
それだけじゃなくて二人の考え方は似ていて、すごく気が合うそうだ。
付き合う前二人で楽しそうに話してるのをよく見た。付き合ってからは回数が減ったとはいえ、時々二人で話してるところを見る。
そんな時私はすごく胸が痛くなった。本当に心臓が潰れちゃうんじゃないかって思うくらい。
まさきは多分私より、あさみの方が気が合うのだろう…。
「あさみっ!」
あさみの方にかけていく。まさきが少し後ろを歩いてついてくる。あさみがゆっくりとこちらに振り返る。私と違って、大人っぽい綺麗な顔。まさきはこんな人が好きだった。私とは全然違う。
「写真撮ろう☆」
断られるのは分かっていたが聞いた。どうしても写真を撮りたかった。
「いーよ。二人で撮ってあげるよ?」
やはりあさみは写真を嫌がった。二人で撮ると言われたが、私はあさみと写真を撮りたかった。
じゃないとあさみとの思い出が消えてしまいそうだったから。
あさみと撮ろうとだだこねている時、他の友達に名前を呼ばれた。
やった!
心の中で言った。
「ごめんね!ちょっと待ってて!」
本当は呼ばれる前から、どこかに行くつもりだった。この二人だけにしなきゃいけないと思っていた。
それは罪悪感からくるもの。
本当はあさみがまさきのことを好きってことも知っていた。
二人が実は両思いなのを知っていて、それでまさきに告白した。あさみが離れた時を選んで。
情けないと思う。正面きって戦えばよかったとも。
付き合った後もまさきはあさみを見ているように感じた。そんな二人の距離を私は離してしまったのだと、後悔が消えたことはなかった。
でもまさきが好きで、好きで仕方がなくて…
今の今まで二人が話し合うのが怖かった。
でもダメだよね…。
今を逃せば、あさみは違う大学に行く。
もしかしたら、私はフラれるかもしれない。
それは仕方ないこと…。
私はまさきだけでなく、あさみも失えなかった。
この機会がないと、3人はもう終わりな気がした。
それなら、まさきにふられても…
目の奥がつんとした。今泣いても卒業式の別れを惜しんでいるように見えるから便利でいい。
友達と会話をしながら、二人の方を見る。
静かに語り合っていた。顔は合わしていない。
ズキン…
もう現実を受けとめるしか私にはできないのだから。
友達と写真をとりあう。写真はずっとそのままで残るから、私は好きだ。
写真の中ではその撮った時のままだ。友情も笑顔も時間も。
だから3人で写真を撮りたかった。一人でも欠けたらいけなかった。
私はズルをしたのだから、その尻拭いは私がしなきゃいけない。
カメラのレンズ越しに二人を再び見る。もう終わったのだろうか?
シャッターはまだ押さない。
友達に別れをつげ二人の方にかけて行く。
「あさみ?泣いてるの?」
あさみの目は赤かった。どっちなんだろう…。分からないが私も辛くなってきた。
「寂しくてさ…。」
「じゃぁ、なおさら3人で写真撮ろう!!」
次はあさみも写真に写ってくれた。3人の写真。この写真では私達は3人一緒に、ずっと今の関係でいられる。
写真みたいにこのまま3人でいれそうだ。なんとなくだが、そう思えた。
「あさみ…大学違う所だね…。」
あさみと別れた後も、彼女がいたという空気は残っていた。
3人ですごした高校生活が終わってしまう。
…寂しい…。
目の前がぼやけた。
ホロリと涙が伝う。
「そうだな…。」
「あのさ…、まさきってあさみの事……。」
まさきが黙って私の手を握る。
それがあまりに力強くて、私の不安が伝わってしまうんじゃないかと心配になる。
まさきが好きだ。
愛してる。
やっぱりあさみにとられたくない。
そんな思いが溢れて、胸がパンクしてしまいそうだ。
「俺、やっぱりみかが好きだ。どうしようもなく好き。」
もう溢れる涙は止められ無かった。
息もできないくらい、涙と鼻水が溢れる。
「まさき…、好きだよ…。」
「うん。」
「好き…。」
「うん。」
「大好き。」
「…うん。」
まさきの顔が近づく。
唇と唇が触れ合うだけの優しいキス。
愛してるその気持に潰されそうだった。
後で二人でも写真を撮ろう。
卒業式終了のチャイムが鳴った。