表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

蘆屋先生は青春が見たいだけ

作者: 神田長十郎
掲載日:2026/03/24


桜が風に舞い、歩道をピンクに染めている。

穏やかな日。


俺、安倍晴人は高校の入学式を迎えていた。


「今日から俺も、ここの一年か…」

新しい生活への期待もあったが、

俺にはある不安を抱えていた、

それはーー


「おう!晴人。制服似合うじゃねーか」

突然声をかけられ振り返ると

「賀茂先輩!」

賀茂保忠ーー

今日から通う高校の3年の先輩だ。

「なんか、いつもは狩衣姿だからブレザー姿だと違和感があるな!」


「賀茂先輩!ちょっと声が大きいです!

俺は入学早々変な人だと思われたくないんですよ!」

慌てて賀茂先輩に駆け寄り小声で話す

「まだ早い時間だし人もそんなにいないだろうが、そんなに嫌なら俺が人払いの結界を張ってやろうか?」

「バカ言わないでください!術式をそんな使い方しちゃダメですよ!」

「あー後輩君は真面目だねー」


俺の名前からも薄々勘付いている人もいるだろうが、俺は安倍晴明の子孫で現代で祓屋をしている。

賀茂先輩は学校の先輩でもあるが、小さい頃から一緒に陰陽術を習った兄弟子でもある。


「晴人君!」「入学早々、騒がしい奴らだな」

「藤原!大津先輩!」

手を振るこいつは

藤原千歳ーー

俺と同い年で今日から一緒にこの学校に入学する

1年だ。


そして気だるそうに歩くこの人は

大津大友ーー

この人も同じ学校の2年の先輩。

そして二人とも祓屋だ。


「よう!お前らも早いな!」

賀茂先輩が二人に手を挙げ軽く挨拶をする


「ここ最近、変に怪異が多いからな。

今日の様な人が多く集まる場所に湧いていないか見回りも兼ねてる」


ーーそう、ここ最近になって学校の周りで急に怪異の発生率が上がっていた。

まるで誰かが意図的に起こしている様な…

そのこともあって、俺はこの高校に入学することにした。原因を突き止めるために…


「やっぱ大友はだらけている様に見えて真面目だよなー」

「ッな!そういう賀茂さんだって!なんでこんな早くから来るんすか?」

「俺?俺は可愛い弟弟子の入学式だから気合い入ってるだけだぜ」

「わー!相変わらず仲がいいんですねー」

「もちろん!なー晴人?」

賀茂先輩が肩に手を回してくる

「ちょっと、やめてくれますか。暑苦しいです」

「照れんなよー」

「照れてません!」


そんなやりとりをしているとあっという間に入学式が始まる時間が近づき、人が集まってくる。


「おっと、人も集まってきたしそろそろ講堂に行くか。晴人、千歳。こっちだ」

賀茂先輩に案内され、俺たちは入学式に挑んだ。


そしてーー今日からこの高校で新生活を始めるのは生徒だけではなかった



一人の新任の先生


「生徒たちが集まってきましたね。緊張していますか?蘆屋先生?」

教頭先生が声をかけた彼は


蘆屋道幸ーー


「いえ、今日から僕もここで生徒たちをーー

"青春"を見守れると思うと、期待で胸が高鳴っております…」

そう言うと、胸に手を当て口角だけがゆっくりと持ち上が笑った。

細められた目からはギラリとした思惑が隠れている様に見えた。


「そうですか…」

(この新任の先生…言動もそうだが笑顔がほんと怖いんだよな…あと)


教頭先生は眼鏡を外しメガネ拭きを使って拭き

掛け直すと、蘆屋先生を見つめ直す


蘆屋先生は入学式に集まった新入生を瞬きもせず見つめなが何かぶつぶつ呟いている


(なーんか行動も怖く見えるんだよな。なんでかわからんが…)


教頭先生の不安をよそに、

安倍晴人

蘆屋道幸

2名はそれぞ期待と不安が入り混じる新生活が始まろうとしていた。


ーーー

ーー


入学式も終わり、クラス分けされたそれぞれの教室に向かった。

「晴人君!同じクラスで嬉しいよ」

「そうだな。これから一年よろしくな」

俺は千歳と同じクラスになった。

怪異のこともあり不安は多いが、

知り合いと同じクラスというだけで少し安心感が湧く。


「そういえば担任の先生の名前。見ました?」

「あぁ、"蘆屋道幸"先生だろ?」

「うん…この名前…もしかして"蘆屋道満"と関係してたりするのかな…」

「わからない……まぁ有名だから親が悪ふざけでつけた可能性もあるな」

「晴人君もどっちかっていうとそっち寄りな気もするけど」

「まぁ、いずれにしても名前だけで関係者だとは判断できないだろう?」

「それはそうだけど…」


千歳は周りを見渡すと、クラスメイトたちは慌てた様に視線を逸らす

(クラス名簿に"蘆屋道幸"と"安倍晴人"が揃ってるからクラスメイトにすごく意識されてる…

晴人君は気づいてるのかな…?)

「俺は大丈夫だぞ」

「…え?」

「もうこの雰囲気も慣れてる、気にするな」

「流石…晴人君は冷静だね」

「あぁ……どこに座ればいいのかわからない時はとりあえず適当なとこに座れば大丈夫だ」

(あ、ダメだこの人全然わかってない)


その時ーー

ガラガラと扉を開ける音が聞こえ

一人の男性が教室に入ってきた

クラスが一斉に静まり返る。


男性は気にするそぶりもなく教壇にまっすぐ進むと持っていた資料を机に置く

「皆さん、入学おめでとうございます。

僕は今日から君たちの担任になる蘆屋道幸です。

よろしくお願いします」

先生は目を細め口角を少しあげ笑う。

笑っているのに、目はまったく笑っていないように見えた。


蘆屋先生は生徒たちをゆっくりと見渡すと

優しく、されど冷たさを感じる声で話し始める。

「みんな緊張しているみたいだね…みんなの自己紹介を聞く前に、僕から何か話そうか…」


そう言うと手で口元を隠し、視線だけが鋭く動いた

「みんな気になっていると思うけど…僕は…」


静まり返った教室で、

誰かがごくりと息を呑む音が聞こえた。


「27歳で君たちと一緒に今年新任でここに来た。

言わば同じ新入生みたいなものだよ」

先生はそう言うとわざとらしく手を広げる


みんなの絶句する声が聞こえた気がした。


「君たちと同じ気持ちだ。緊張はするだろうが一年ともに過ごすんだ。仲良くしようじゃあないか」


誰も何も言わない。いや、言えなかった。

言える雰囲気じゃなかった。

先生の異様な雰囲気にクラス全体が完全に飲まれてしまっていた。


教室の空気が張りつめていた。

誰もが息を潜める中、蘆屋先生の指先がゆっくりと俺を指す。

「出席番号順に自己紹介を始めよう…

"安倍"くん。君からだ」


ざわ……と、クラスの空気が揺れた。

名前を聞いた瞬間、何人かが小さく息を呑む。


(……やっぱり反応するよな)


俺は立ち上がり、前を向く。


「安倍晴人です。えっと……よろしくお願いします」

できるだけ普通に、淡々と。


だが――


「安倍晴人……君、か」


蘆屋先生が、口元に手を当てた。

その指先が唇に触れたまま、目だけが細くなる。


(……なんだ?)


先生の視線が、俺の制服の襟元から足元まで、ゆっくりと舐めるように動く。


「それだけかい?他にはないのかい?例えばーー

普段どんなことをしてる…とか?」


(!!!??こいつ……まさか俺のことを知っている…??いや…冷静になれ)


「えっと…普段は…家で本を読んだり…してます」

(祓屋として陰陽術を修行してるなんて言えないからな…)


「本…か。今度どんな本を読んでいるのか…聞かせてくれると嬉しいよ…では次に…井ノ原君」


俺は静かに席に座り直した

(なんだ…この…全身が逆立つ様な寒気は…まるで全て見透かされている様な…)


その後もクラス全員分の自己紹介が続いた。

その間、蘆屋先生は満足そうに…笑顔を見せていたが、その笑顔はどこか不気味さを感じさせた。



あっという間に1日目が終わり放課後になる。

俺と千歳は二人教室に残っていた。


「晴人君…」

「あぁ、わかってる。蘆屋先生…あの人から異様な気配を感じた…」

「うん…あの人に見つめられると全身に寒気が走る様な…全て見透かされている様な感覚になったよ…」

千歳はそう言うと思い出したのか、

不安を押し殺す様に自分を抱きしめた。


「あの人…どこまで俺たちのことを知っているんだろう…自己紹介の時、俺のことを知っている様に見えた」


二人の間に沈黙が広がる。

その時ーー

ガラリと扉が開き、先輩たちが顔を出した。

「おーいたいた。二人ともどうだった?新しいクラスは……って…何かあったのか?」


二人の険しい顔に賀茂先輩が怪訝そうな顔をする。

「それがーー」

と、俺と千歳の二人で蘆屋先生について話した。


大津先輩が顎に手をつき考える様にすると

ゆっくり話し出す。


「……確かに、入学式の時に見た時から、普通の人間じゃない“何か”を感じた。

賀茂さん……彼、“蘆屋道満”と関係がありそうですね」

「そうだな…調べてみるか……っと、そうだ。

晴人、千歳。今晩あたり"来る"と思う」


「…ッ、場所は?」

「学校の校庭だ」

「やっぱり…入学式の人の気配で集まってきたんだと思う」

「そう言うことで、今晩学校の校門前に集合だ」


ーーー

ーー


夜の校庭は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。

風が止まり、空気が張りつめる。


「人払いの結界は貼り終わったな……来るぞ」


賀茂先輩の声に、俺と千歳、大津先輩が一斉に構える。


次の瞬間、

校庭の中央に黒い影が“じゅるり”と滲み出た。


「……っ、出た!」


人の形をしているようで、していない。

歪んだ腕が地面を這い、口のような裂け目が開く。


「大友!敵の足を止めろ!

千歳、後ろから結界でサポートを!

晴人、正面から牽制しろ!」


「了解!」


俺は札を構え、息を吸う。


「――“破ッ!!”」


札が光を放ち、怪異の動きを一瞬止める。

その隙に大津先輩が飛び込み、杖で地面を叩いた。


「“封陣・縛”!」


地面に走る光の線が怪異の足元を絡め取る。


「晴人、今だ!」


「はいっ!」


俺は札を重ね、怪異に向けて投げ放つ。


「“祓ッ!!”」


光が弾け、怪異が悲鳴を上げる。

黒い影が裂け、霧のように散っていく――


「意外と呆気なかったですね」

千歳がほっとした様に呟く。

「まぁ、怪異として生まれたてってとこだったんだろう」

そう言うと、大津さんがゆっくりと立ち上がる。


「油断はするな。一応見回ってから撤収しよう」

賀茂さんが声をかけ、全員で見回りに行こうとした

その瞬間だった。


晴人は全身震えるような悪寒がした


ーー視線?


ゆっくり振り返ると、校舎の窓にいつのまにか人影が立っていた。


月明かりに照らされ、

口元だけがゆっくりと、にやりと歪む。


その笑い方に晴人は見覚えがあった


(蘆屋……先生??)


「おい晴人、どうした!」

賀茂先輩が駆け寄るが、俺は窓から目を離せなかった。


影は、まるでこちらを観察するように微動だにしない。


(なんで……こんな時間に……

しかも、人払いの結界の中に……?)


怪異よりも、あの笑みの方が背筋を冷やした。


ーーー

ーー


カツ、カツ、と廊下に足音だけが響く。


この高校には寮がある。

そのため、夜に寮生が校内に残っていないか確認し、教室を施錠して回る必要がある。


今日は僕、蘆屋道幸と先輩先生の智徳先生と一緒に見回り当番をしていた。


「赴任して早々に見回り当番に立候補するなんて…初めから飛ばしますねー蘆屋先生?」

智徳先生は揶揄う様に笑いかける


気を遣ってくれてるのがわかり、思わず笑みがこぼれてしまった。


「フフッ僕も早く、この学校を"知りたい"んですよ…智徳先生」

僕が"穏やか"に笑いかけると智徳先生は

「…ハハ、そうですかー」

と眼鏡を指で押し上げるとそそくさと先へ行ってしまった。


「……待っていただけますか。智徳先生」

僕は智徳先生の背を"ゆっくり"追った


順調に見回りが進み

二階を終え、一階へ降りようとしたその時――


プツン。


突然、廊下の電気が落ちた。

「ん……停電ですね?これは驚いてしまいました」

隣にいた智徳先生に"和やか"に話しかけるも返事がない

「…智徳先生?」

気づくと智徳先生の姿は見えなくなっていた。


一人取り残された廊下は月明かりだけが差し込み、影が濃く伸びる。


(夜の学校で明かりなしは怖いですね……)


自然と明るい窓際へ歩くと、校庭がよく見えた。


「おや?……あれは……?」


四つの影が激しく動き回っている。


刀のようなものを振り回し、跳び、転がり、ぶつかり合う。


「……おやおや?もしかして」


道幸の目が輝いた。


「夜の学校に忍び込んでチャンバラごっこをしているんでしょうか……

おやおやおや!恥ずかしいほどの青春ですねぇ!!」


頬が熱くなる。


「えぇえぇ!僕はわかっています。

お年頃なら一度は夜の学校に忍び込み、

そして男の子ならばチャンバラもしたい……

それを4人で!!あの子たちは今!!

全力で夢を叶えているんですねぇ!」


窓に近づき、食い入る様に4人を観察する。

月の明かりだけでは暗くてよく見えないが、

楽しそうに走り回っているようだ。

何か叫んでいるのも聞こえた。


「おやおや!どうしましょうか!

この学校の先生としては、

夜中の学校に忍び込むことに対して注意すべきなんでしょうが…あぁでも!!

こんな青春を一瞬たりとも目が離せません!!」」


だからこそ――


「僕はあえて注意しません!!

決して、ずっと青春を見ていたいわけではありません!!

犯罪じゃない……これは…そう…

ただのチャンバラ……むしろ良い!!

これぞ"青春"です!」


腕を組み、ニヤニヤしながら見守る。


「この学校に来てよかった……今日この光景を見れただけで僕は幸せです」


蘆屋道幸。

数学教師。

呪術ゼロ、怪異も見えない

そして――


無類の“青春フェチ”であった。


何か急にやってみたくなり短編を作ってしまいました。

楽しんでいただけたのであれば幸いです。

もし需要があれば続きも書いてみたいなと思うので、

良ければご意見いただければ嬉しいです。


あともしお時間があれば長編も読んでいただければ嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ