憶劫
彼女の背中は前よりも少し小さく見えた。
もう二度と話すことはない、そう思ってもいつかまた機会があるのではないかとどこか期待をする。
どれだけ忘れようとしても、世界は俺に説得をしてくる。
一足、一足、と踏みしめる度に、彼女の成分をアスファルトから吸収してしまう。
永遠に満たすことのできなくなった成分、それは俺の涙腺を刺激するのに特化するのだ。
ああ、懐かしいな。
この道は彼女のお気に入りであった。
この道を走り回る姿が見えた。嬉しそうに、顔いっぱいに笑顔浮かべながら。
君は近所のお店で買ったソフトクリームを片手に、鼻歌を歌う。
最近ハマっている曲なんだ、と無理に聴かせようとしてくる。君の鬱陶しささえも、今思えばと都合よく思い出に変換してしまう。
ただでさえ暗く前が見えないのに、溺れそうになりながら足を引き摺る姿はなんとも滑稽であろう。
ふとぼやけた前を見ると、ソフトクリーム屋があることに気がついた。
それはまるで以前訪れた店のようにも見えたが、おそらく違う店であろう。
君の食べていたソフトクリームを購入し、口へ運ぶ。
その時今まで遮断されていた回路が繋ぎ直されたかのように、一気に全身が、特に歯が痛みに襲われた。
そうだった、知覚過敏なんだった。
涙腺を促進させるだけの痛みは、俺を目覚めさせようとするありがた迷惑であった。
俺の意思はそう変わらない、そう思い込んでいる。
この道を進めば、君に会える気がする。
君にもう一度会えたのなら何を話すのだろう。
あの曲聴いたよと報告をするのだろうか。
このソフトクリームをあげるのだろうか。
ふと通りかかった車に頭の中の雑音が踏みつぶされた。気がつくと、彼女の背中が遠く過ぎ去っていくのが見えた。




