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色を足すもの  作者: TOMMY


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緑の模倣

斜面は僕の足を埋もれさせた。進んでいるのか、沈んでいるのかわからない。

歩くことがこんなに疲れるとは、思っても見なかった。


息が切れる。

身体が熱い。

足が痛い。


僕はようやく、斜面を登りきった。

身体の内部に不快な何かを感じる。透明な液体が全身から噴出して、体温を下げようとしていた。


「……何だ、これは」


はじめての感覚にどうすればいいのか分からない。

この透明な液体はなんなのだろう。

僕は両手を前に伸ばした。


……


色を出すことができない。

透明な液体が顔から滴り落ちる。


「僕はいったい──なんなのだ」


すると、心地よい風が僕の頬を撫でた。

風に導かれて登ってきた斜面を振り返る。

そこには、遥か彼方まで続く半円状のくぼみが大地をえぐっていた。


衝突によって白に染まった大地。

森も山も粉々に砕けちり、細かな砂と化した。きっと空気すら消滅した時間は生き物たちの生命を一瞬のうちに奪っていった。


……見渡す限り、生き物の痕跡すらなかった。


そのときの記憶を思い出し、僕は心を撫で下ろした。


──よかった。

恐竜もマンモスも絶滅した。

弱肉強食の世界は幕を閉じた。


サジュラが創り上げた絶対強者の世界。

それを僕は望んでいなかった。

けれど、進化には死が必要なことは知っていた。


だから僕は、この星に生き物たちが”共生”するべきなのかを委ねた。

その結果は……分からない。

けれど、少なくとも、恐竜がそれまでの生き物たちを駆逐する世界ではないと願いたい。


「もう一度、やり直そうよ」

頭の中に聞き覚えのある声が響いた気がした。


左腕は熱を持った。

透明な液体は白い湯気になって蒸発していく。

薄っすらとした赤色が左腕を覆っていった。


「さぁ、カビス。いこう」

思い出した。セキベムの声だ。

僕はゆっくりと腕を動かす。


そして、淡い赤色を一滴、大地に垂らした。

その色はしっとりと大地に染み込んでいった。


僕は大地のくぼみを離れ、各地に色を足しながら歩き続けた。


日照りが続く砂原にクリーム色を。

短時間に強烈な雨が降る湿地帯に若草色を。

凍りつく豪雪地帯には水色を


その地域の特色がある色を選んだ。


そして大地には、焦げ茶色や深緑など、様々な色を足していった。


僕が歩いた場所がどうなったかは、分からない。

振り返ることは、したくなかった。

けれど肌で、感じていた。


……この星は今、生き物を拒絶しているということを。


見渡す限り、白い世界はずっと続いている。

衝突の影響は、長い年月を経ても世界を白く犯し続けていた。


争いや弱肉強食の世界ではない。

何もない世界へと。


けれど、僕はこの星に同調するように色を足さなければならないと感じていた。


──途方もない時間が流れた。

僕の色は、白いキャンバスのような大地に、少しづつ馴染んでいった。


岩の上に苔が生えた。

僕は飛び上がった。


海にプランクトンが浮かんだ。

僕は海岸を走り回った。


そして空に、トンボが舞った。

僕の心は空を飛ぶように跳ね上がった。


生き物が世界に戻ってきた。

彩り豊かな花が大地に咲き、小さな動物たちは大地を駆けている。


でも、草食動物の誕生と同時に、それを捕食する肉食動物も現れた。

しかし、恐竜のような絶対強者ではなかった。


生きるために必要な分を狩る。

そこには凛とした食物連鎖が形成されていた。


「やっぱり衝突は、正しかったんだ。色は適切に使わなくちゃならない」


決して黒を作らないように、僕は世界の色を確かめた。


──ある日、僕は、淡い緑を足そうとした。

その前に、小さな影が動いた。


その生き物は、石を拾い、叩き、形を変えた。


偶然じゃない。

僕は、そう理解してしまった。

その瞬間、背中を冷たいものが走った。


「……色を、見ている」


その日の夜。

ぞり、ぞり、と大地を削る音がかすかに耳に届いた。


──次の日の朝、その場所を見ると、僕が色を足した大地が、わずかに削り取られていた。


僕は削られた場所に色を足そうと、無意識に手を伸ばしていた。


ふと、周囲を見渡す。

すると色が抜け落ちたような影が、ふっと、森の中に消えた。


僕は何もできぬまま、その森を見つめた。


木々の隙間からは、じっと身構えた視線を感じる。

その得難い違和感は、僕に手を動かすより先に、足を動かさせた。


各地に色を足すたびに、色が削られていく感覚が頭から離れない。

僕は色を足すたびに周囲を見渡し、その影が現れないことに安堵する。


しかし、ぞり、ぞり、という音が耳に響く気がして、何度も振り返った。


けれどそれ以降、その影が現れることはなかった。


この星が森に覆われてきたある日。

僕は目を疑った。


そこには大きな葉がすり潰され、緑に染まった小石が集められていた。


……意図して色が作られている。


僕はその小石の横を真っ直ぐに進んだ。

決して気に留めないように。

これ以上悩まないように。


けれど、僕の足は、止まってしまった。


木が削り取られ、茶色の樹皮が集まっている。

青い花がもぎ取られ、枝が青く染まっている。

トンボが押しつぶされ、赤黒い体液が岩に塗られている。


明らかにこの場所は、僕を模倣していた。

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