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色を足すもの  作者: TOMMY


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3/8

赤の必然

僕はシルンが色を足した場所を回った。

緑と茶色が酷く混ざり、大地は汚染されたように荒れていた。そこに育っていた植物にも生き物にも陰りが見えた。


植物の葉は茶色に染まり、枯れていく。

海の色も濁り、暗い色をしている。大きく育っていた魚たちは海面に浮かび、身体の崩壊をただただ待っているように見えた。


僕は海に青を、大地に緑を足した。

けれど、色は濁るばかりで、生命の崩落を止めることはできなかった。


思考の中の黒が濃くなる。

この星の生物はいとも簡単に滅びていく。

その色は僕の感覚を蝕んでいった。


視界が、明滅する。

意識が、薄くなる。

呼吸が、重い。


「……っ」


僕は何色とも言えない濁った大地に沈んだ。


……寒い。

薄れる意識の中、生物の絶滅を片目に、途方もない時間を、そこで過ごした。


──サク、サク。

近くを足音が過ぎ去った。


僕は久しぶりに立ち上がる。

なぜか身体は、少し軽かった。


そこには1匹のトカゲがいた。

大地を平然と歩いている。


すると、頭上から声が聞こえた。

「だめじゃないか。こんなに色を濃くしちゃ」


眼前に灰色が落ちた。


それは濁った色の境界を曖昧にしながら、ゆっくりと溶かしていく。


「シャキッとしなよ。もう一度やり直そうじゃないか」


僕は全身に力を込めた。

「あなたは、誰?」


その声はやさしく答えた。

「私はセキベム。君はカビスだね」


「なぜ僕の名前を?」


セキベムはおどけたように言った。

「さてね」


続けてセキベムは、声を張り上げた。

「さぁ、いくよ」


その瞬間、空は薄っすらと曇り、しんしんと灰色の雨が降り注いだ。


大地の濁りは消えていく。

海は静かに波の音を奏でた。

生き物たちは世界に溶け落ち、その色が薄れていった。


「何してるんだい、カビス。

ほら、君の出番だよ」


僕は慌てて、青と緑をそこに垂らした。

また、やり直しだ。けれど、今度は上手くいく気がした。


灰色の世界には、ゆっくりと色が戻っていった。決して無色な世界に色をつけるわけではない。そこには、シルンがつけた色も美しく調和しているように思えた。


──破壊と創造。

その果てに生き物は大きく育つのかもしれない。僕はそう記録した。


僕は途方もないときを過ごし、かつてよりも大きく育った森の中で生き物たちを眺めていた。


森林、昆虫、爬虫類。

セキベムは僕に色んな生物の名前を教えてくれた。生物が育つにつれて、セキベムはどこか寂しそうに見えた。


セキベムは色が濃くなるたびに灰色を足し、色を整えてくれる。そのたびに生き物たちは圧倒的に巨大化していく。


けれど、大きな生物はこの世界を埋め尽くそうとしていた。


木々は空を遮り、影が大地を埋め尽くした。その木々を昆虫たちは住処にして、羽根を広げた。


そして、ついに、空を羽ばたく種が現れた。

青々とした空を縦横無尽に羽ばたく昆虫。どんな原理で飛んでいるのか分からない。

けれど、僕の感覚は強い温かさを覚えていた。


「こいつの名前をつけてやりなよ」


セキベムは僕に言った。


半透明な羽が身体から生えている昆虫。空を美しく羽ばたくその姿に、僕は魅了されていた。


「この生き物は、トンボと呼ぼうかな」


「いい名前だね。

……最後まで生き残るといいね」


セキベムはそう言うと、どこかに飛び去って行った。


僕はこの世界を眺め続けた。

けれど、この温かさは突然終わりを迎えた。


「カビス。ちょっといいかい」


ある日、セキベムは僕の隣にやってきた。


「どうしたの?」


セキベムは悲しげに、けれど語彙を強めて言った。

「この世界は進化しなければならない。このままでは、いずれくる、破滅を乗り越えられない。だから、これは仕方ないことなんだ」


僕はセキベムをじっと見た。すると灰色だった身体は徐々に赤みを帯びているように見えた。

「どういうこと?」


セキベムは何も言わずに、彼方の山に飛んでいく。

山の頂上で燃え上がるように身体は赤く染めまっていく。


そして山頂に、赤を落とした。


僕は何か言おうとして、言葉を探した。

だが、どの色も、この瞬間には重すぎた。

青も、緑も、僕の中で沈黙していた。


腹の底から震えるような地響きが、大地を覆い尽くした。

生き物たちはピタリと動きを止めた。


そして一様に、山を見上げる。


その刹那、山が一瞬だけ膨れ、

その背が縮んだような気がした。


「っっ……」


空間が張り裂けるほどの轟音が耳に届いたと感じた瞬間、空気の壁が、すべてを薙ぎ倒した。


森の木々が、その衝撃でミシミシといななく。

トンボたちは否応なく、大地に叩きつけられた。


空が赤く染まった。

山の頂から、赤い岩石が吹き飛んでくる。

どろどろとした赤いマグマが、森を焼いていく。


山の麓の大地は、地響きとともに砕け、赤い煙を吐いた。


空気を焼く熱風が世界を覆う。

生き物たちの体皮は、ちりちりと焦げ落ちていく。


言葉が出なかった。

何をすればいいのか、分からなかった。


僕は青も緑も持っていた。

けれど、この赤の前では、

それらはただの色でしかなかった。


色を足すことも、

記録することも、

何もできず、ただ立ち尽くした。


海はぐつぐつと煮えたぎり、

魚たちは海面に浮かび上がった。


それは怒りではなかった。

けれど、慈悲とも呼べなかった。


セキベムは、真っ赤に染まり、山々を渡り歩いていた。


赤は、終わらせるための色だった。

次の色を迎えるために。

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