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魔法の講義

◇◆◇◆


 ────買い物に行った数週間後。

私は既製服の情報収集と言語の習得を終え、ジェシカさんのところへ足を運んだ。

そこで調査報告書を提出し、ついでに情報源(私の存在)については非公開とするようお願いする。

『もちろん、構わないわ』と快く応じてくれたジェシカさんに礼を言い、私はさっさと帰宅。

既製服の完成を楽しみにしつつ、この前セオドアさんに買ってもらった本を開いた。


 まだ分からない単語はちょくちょくあるけど、文法はマスターしたから問題なく読める。


 などと考えていると、自室の扉をノックされた。


「今から、魔法の講義をする。さっさと出てこい」


 扉越しに声を掛けてくるセオドアさんに、私は思わず『えぇ……』と言いたくなる。

だって、ここ数週間は既製服の情報収集と言語の習得で忙しく、あまり読書時間を取れなかったため。

『いや、まあ……情報収集の一貫でたくさん資料は読んだけど』と思いながら、私は大きく息を吐いた。


「分かりました」


 一応魔法の講義を頼んでいるのはこちらなので、『嫌だ』とは言えなかった。

『実際問題、教えてもらえるのは有り難いし』と気を取り直して、私は本を閉じる。

おもむろにベッドから立ち上がって扉に向かい、廊下へ出た。

そこに居たセオドアさんと合流し、一階のダイニングに足を運ぶ。

すると、ソファでタブレットをいじっていたキースさんが顔を上げた。


「もしかして、今から講義ッスか?」


「はい」


「タブレットのレンタル時間を延長しても、いいッスか?」


 『もちろん、講義が終わったらすぐ返却するッス』と話すキースさんに対し、私は小さく頷く。


「ええ、構いませんよ」


「助かるッス。今のうちに(・・・・・)色んなレシピを頭に叩き込んでおきたかったんで」


 パァッと表情を明るくして、キースさんは再びタブレットに視線を落とした。

『これは野営先でも出来そうだな〜』と呟く彼を前に、私は内心小首を傾げる。

ちょっとキースさんの言い回しに、引っ掛かってしまって。

でも────


「おい、早く席につけ。講義を始めるぞ」


 ────セオドアさんに『ボーッとするな』と叱られ、直ぐに違和感のことなど忘れた。


「はい、先生」


 冗談半分で呼び方をちょっと変え、私は椅子に腰を下ろす。

と同時に、セオドアさんは足を組んだ。


「まず、これまでのおさらいから行う」


 そう前置きして、セオドアさんはテーブルの上に資料を広げる。


「魔法とは、何か簡潔に答えろ」


「自然の理に干渉し、引き起こされた現象のことです」


「じゃあ、魔力は?」


「魔法の動力となるエネルギーで、空気中のマナを体内に取り込み、分解・再構成することで誕生します」


「正解だ。しっかり覚えているな」


 『復習させる必要は、なさそうだ』と言って、セオドアさんは資料の一文を指さした。


「魔力について、何点か補足しておこう。基本的に魔力の質が良いほど強い魔法を扱え、魔力の量が多いほど魔法を連発出来る。また、魔力には気というものがあって水の気を纏っていれば水魔法が、火の気を纏っていれば火魔法が使える」


 『気の種類は他にもあるからな』と述べるセオドアさんに、私は小さく相槌を打つ。


「ちなみに、先生の魔力は何の気を纏っているんですか?」


「火、水、土、風。あと、雷や氷も」


「おお〜!たくさんですね。そうやって、複数の気を纏っている方は結構居るんですか?」


「いや、あまり居ないな。基本一人一つだから」


 あっ、やっぱりそうなんだ。


 ライトノベルだとテンプレの設定なので、私は『なるほど』と応じた。

『セオドアさんがSランク冒険者たる理由はそこにあるのかもしれない』と考える中、彼は横髪を耳に掛ける。


「では、そろそろ本格的に魔法を教える」


「よろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げると、セオドアさんは首を縦に振った。


「魔法の行使において、最も重要なのは想像力だ。呪文やら魔法陣やらは、それを補助するものでしかない」


「ほう」


 どこかで聞いたことありそうな基礎だったため、私はすんなり受け入れた。

と同時に、セオドアさんは腕を組む。


「極端な話、想像力さえあれば予備動作や詠唱をしなくても魔法を発動出来る。まあ、大抵は思ったような効果を得られなかったりコントロールが上手くいかなかったりして失敗するが」


 かなりの高等技術であることを伝え、セオドアさんは資料を片付けた。


「さて、説明はこのくらいにして実践へ移ろう。そうだな……最初は生産系統の魔法にしよう。『土よ、来たれ』と唱えてみろ」


「はい────【土よ、来たれ】」


 促されるがままに、呪文を唱えるものの……特に何も起こらなかった。

『土の気はないみたい』と冷静に分析する私の前で、セオドアさんは顎を撫でる。


「次は『水よ、来たれ』だ」


 ────と言われ、あれこれ試してみた結果……私は光の気を持っていることが、判明。

その証拠である聖なる光(光魔法)を前に、私は『おお〜!』と感嘆の声を上げた。

と同時に、セオドアさんがスッと目を細める。


「光の気とは、珍しいな」


 『大体、千人に一人くらいしか居ないレアな気だぞ』と語り、セオドアさんはテーブルの上で手を組んだ。


「これで、またお前のカモっぷりに磨きが掛かったな」


「カモって……まあ、光魔法の使い手は確かに狙われやすいッスけど」


 キースさんは思わずといった様子でツッコミを入れつつ、苦笑を漏らす。

そんな彼を他所に、セオドアさんは真っ直ぐ目を見つめ返してきた。


「とりあえず、人前で極力魔法は使うな。光魔法はなまじ有用性が高い故に使いたくなるだろうが、我慢しろ」


「分かりました」


 素直に応じると、セオドアさんは小さく首を縦に振る。


「よろしい。では、簡単に光魔法のことについて教える」


 そう言って、セオドアさんは分かりやすく解説してくれた。


 光魔法の効果は、辺りを照らす他に治癒と浄化があるらしい。

うん、イメージ通りだ。


 ファンタジー作品を読みまくっている私としては想定内なので、『ですよね〜』くらいの温度感で受け止める。

────と、ここでセオドアさんが懐から小瓶を取り出した。


「ここからは、ひたすら実践を行う。魔力が尽きたら、マナポーションを飲め。直ぐに回復する」

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