買い物
「別の製法があるの!?」
勢いよく詰め寄ってくるお店の人に対し、私は少しばかり目を見開く。
「えっと……恐らく」
「その詳細について、何か知っている!?」
「いいえ」
「じゃあ、調べてもらうことって出来るかしら!?」
『もちろん、報酬は出すわ!』と断言し、お店の人は期待の籠った眼差しを向けてくる。
既製服の作り方の調査か。
タブレットを使えば、きっとある程度の情報は集まるよね。
『既製服の歴史』とか『既製服の作り方』とかで検索すれば何かしらヒットしそうなので、私は
「一応、可能です」
と、答えた。
『情報をまとめるのは大変そうだけど』と考える私を前に、お店の人は満面の笑みを浮かべる。
「是非お願いしたいわ!」
「分かりました」
既製服が作れるようになれば、こちらとしても嬉しいので快諾した。
『採寸やデザイン決めの作業から、解放される』と喜ぶ中、お店の人が私の手を握ってくる。
「既製服を作れるようになったら、一番に貴方……」
「ミレイです」
「ミレイちゃんね!私はジェシカよ!このお店のオーナー兼デザイナーをしているわ!気合いを入れて、ミレイちゃん用の既製服を作るから楽しみにしていて!」
「はい、よろしくお願いします」
お店の人────改めジェシカさんに、私は深々と頭を下げた。
その後、既製服が出来るまでの繋ぎとしてローブを購入し、退店。
ついに本屋へ向かうところだ。
「既製服の件だが、逐一私達に報告しろ」
セオドアさんは有無を言わせぬ物言いで指示し、腕を組む。
その横で、私は目を瞬かせた。
「興味あるんですか?」
「いや、特段ない。ただ、場合によってはお前に注目が集まってややこしい事になるかもしれないから予め情報を共有しておいてほしいだけだ」
『何かあっても動けるように』と主張するセオドアさんに、アランさんも頷く。
「まあ、服程度で狙われたりタブレットの存在がバレたりすることはないだろうけど、念のためな」
「『備えあれば憂いなし』って、ことですね。分かりました」
ビシッと敬礼して応じる私は、『じゃあ、ジェシカさんに口止めをお願いしよう』と考えた。
既製服の情報源は秘密という扱いにしてもらえば、ある程度安全は守られそうなので。
『調査報告書を渡しに行くときにでも、言おう』と思っていると、セオドアさんが足を止める。
「ここだ」
ちょっと年季の入った建物を手で示すセオドアさんに対し、私はパッと表情を明るくした。
「本屋!」
これでもかというほど目を輝かせ、私は足早に入店する。
と同時に、本独特の匂いが鼻を掠めた。
あ〜〜〜!これぞ、紙の本って感じするなぁ。
『なんか、落ち着く』と肩の力を抜きつつ、私は早速物色し始める。
セオドアさんも極自然に本を手に取り、吟味していた。
ただ、アランさんだけはちょっとつまらなさそうにしていたが。
多分、ここには彼好みの本がないのだろう。
それはそれとして────
「────読めない」
ある意味当然なのだが、ここの本は全てこちらの言語を使われているため解読不可能だった。
各本のジャンルすら分からない状況に、私は苦笑を漏らす。
────と、ここでセオドアさんが顔を上げた。
「これを機に、読み書きを覚えたらどうだ」
「平民なら出来なくても困らないけど、それでも覚えておいた方が何かと得だぞ」
アランさんも言語習得を勧め、『就職なんかに役立つ』と話した。
その傍で、私は小さく首を縦に振る。
「じゃあ、覚えます。どの道、先程の一件で調査報告書を作るとき読み書き出来ないと困りますし」
口頭で説明してもいいが、やはりこういうのは書類に残した方がいいだろう。
『情報量にもよるけど、きっと覚えられない』と思案しながら、私は適当に本を選んだ。
こうやって、ランダムに決めるのもたまにはいいかと思って。
『どんな内容かは、読んでからのお楽しみだ』と浮かれる中、セオドアさんは私の分も含めて会計。
異世界だと本は趣向品なのか、金貨をたくさん支払っていた。
セオドアさんには、もう足を向けて寝られないな。
私のお小遣いなんて一瞬で飛んでいく金額に戦々恐々しつつ、本屋を後にする。
そして、不死鳥のアジトに戻ると香ばしい匂いがした。
「────おっ?ナイスタイミングっスね」
キッチンからひょっこり顔を出すキースさんは、ニッコリ笑う。
「ちょうど、焼きたてッスよ〜」
フライパンの中を見せてくるキースさんに対し、私は少しばかり目を見開いた。
「おお〜!餃子だ」
「相変わらず見たこともない形状だけど、不思議と食欲を唆られるな」
「まあ、悪くはなさそうだな」
アランさんとセオドアさんはまじまじと餃子を見つめ、洗面台に引っ込む。
しっかり手を洗ってテーブルにつく彼らの前で、私もそれに倣った。
────間もなくして、キースさんが皿に盛り付けた餃子を持ってくる。
「さあ、どうぞ」
『召し上がれ』と促してくるキースさんに対し、私達は大きく頷いた。
と同時に、餃子を各自の小皿へ取り分けてパクッと一口。
「肉汁たっぷりですね、美味しいです」
「くぅ〜!酒が欲しくなる!」
「ニンニクがいいアクセントになっているな」
口々に餃子を絶賛し、私達はどんどんフォークを進めていく。
おかげで、あっという間に皿は空になり、キースさんが慌てておかわりを追加してくれた。




