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「「詐欺だろう……」」
額に手を当てて、二人は何とも言えない表情を浮かべた。
その刹那、アランさんがハッとしたように表情を引き締める。
「てか、その年齢なら俺達と一つ屋根の下というのはさすがに不味くないか?」
「大丈夫ですよ、私達に限って男女の仲へ発展するとは思えませんし。あと、今更引っ越しなんて面倒です」
「お前な……」
セオドアさんは呆れたように溜め息を零し、頭を振った。
その傍で、アランさんは前髪を掻き上げる。
「ミレイはもう少し女性として、危機感を持った方がいいぞ」
「善処します。でも、引っ越しはしません」
「意思固いな、おい」
『どんだけ面倒臭がっているんだ』とツッコミを入れ、アランさんは苦笑を漏らした。
────と、ここでセオドアさんがいつものポーカーフェイスに戻る。
「まあ、いい。確かにお前を異性として見ることは、一生なさそうだからな。間違いなんて、起きないだろう」
「ですよね」
「……お前はもう少し女性としてのプライドを持て」
「いや、そう言われても」
『事実ですし』と言い放つ私に対し、セオドアさん────ではなく、アランさんがフォローを入れようとする。
「あー……うん。俺の趣味じゃないけど、ミレイも充分綺麗だと思うぞ」
「お世辞どうもです」
人によってはトドメとなり得る慰めをサラリと受け流し、私は小さく肩を竦めた。
『“俺の趣味じゃないけど”って言っちゃうあたり、素直な人だなぁ』と思って。
「書き終わった」
セオドアさんは受付のカウンターにペンを置き、こちらに出来上がった書類を差し出す。
なので、私はソレを受け取って受付嬢に手渡した。
────間もなくして冒険者登録の手続きが終了し、ギルドカードをもらう。
そこで、軽く冒険者の心得やギルドの仕様を説明されたのだが……長いので、割愛。
「よし、これで万が一街の外に出ることになってもちゃんと帰って来れるな」
『安心安心』と言い、アランさんは表情を和らげる。
足取り軽やかにギルドを後にする彼の前で、私とセオドアさんも外へ出た。
「そうですね。まあ、街どころか家から出ることも滅多にないでしょうけど」
「いや、少しは出ろ。というか、運動しろ。じゃないと、いざ体を動かしたとき困るぞ」
『それこそ、初日みたいにな』と注意し、セオドアさんは少し圧を掛けてきた。
かと思えば、ある店の前で足を止める。
「せっかく外出したのだから、ついでに買い物もしていくぞ」
「はあ……どうぞ。私は先に帰りますので」
『それでは』と言って立ち去ろうとすると、セオドアさんが肩を掴んできた。
「お前の買い物だ、愚か者」
『勝手に帰ろうとするな』と叱るセオドアさんに対し、私は小さく肩を落とす。
「えぇ……?でも、特に買いたいものはないんですが」
「服とか、生活用品とか色々あるだろう」
「今のままで、私は構いませんけど」
「お前が良くても、私達が良くない。いい加減、お前専用のタオルやら食器やら買え」
『さすがにいい歳した女と諸々共有するのは、世間体が悪い』と指摘し、セオドアさんは圧を掛けてくる。
と同時に、少しばかり身を乗り出した。
「ちゃんと買い物するなら────後ほど、本屋の場所を教えてやる」
「!」
少しばかり目を見開き、私は紫の瞳を真っ直ぐ見つめ返す。
すると、セオドアさんはゆるりと口角を上げた。
「あと、三冊まで好きな本を買ってやろう」
『もちろん、私の自腹でだ』と言うセオドアさんに、私はすかさず首を縦に振る。
「行きましょう、買い物!」
「いや、何で!?」
アランさんは思わずといった様子で声を上げ、戸惑いを見せた。
「ミレイには、タブレットがあるだろ……!?」
わざわざ買わなくても読み放題であることを口にし、アランさんは小首を傾げた。
『何故、重複購入のような真似を?』と困惑する彼を前に、私は肩を竦める。
「確かにそうですが、タブレットを貸し出している間に読む本が欲しくて」
『ぶっちゃけ、暇なんですよ』と明かし、私は一つ息を吐いた。
『あぁ、そういうことか』と納得するアランさんの前で、私は店の方に向き直る。
────と、ここでセオドアさんが店の扉に手を掛けた。
「では、行くぞ」
────との号令が、掛かった三十分後。
私は雑貨屋と家具屋で、食器や机などを揃えた。
基本シンプルなデザインで、使い勝手のいいものを選んだつもりである。
『ちなみに大きな荷物は後日配達してもらう予定だ』と考える中、アランさんが私の方を見た。
「女子の買い物って長いイメージがあったけど、ミレイはポンポン決めていくなぁ」
「ゲンナリするほどダサかったり、普段使いするのに問題のある性能だったりしなければ正直何でもいいですからね」
「本以外は適当なんだな……」
『それはそれでどうなんだ』と言いたげな表情を浮かべつつ、アランさんは苦笑いする。
と同時に、先頭を歩いていたセオドアさんが立ち止まった。
「入るぞ」
そう言うが早いか、セオドアさんは服屋に足を踏み入れる。
馴染みのあるお店なのか、彼は『あいつは居るか』と声を掛けていた。
『女用の衣服を作りたい』と続けるセオドアさんを前に、私とアランさんも服屋へ入る。
おお〜!見事にファンタジー服ばっかり。
貴族令嬢が着そうなドレスや街娘っぽい衣装を眺め、私はちょっと感激する。
が、それはほんの一瞬ですぐ『ファンタジー服、面倒臭い』という感想に変わった。
何故なら、来店三十秒で試着室に連れて行かれて採寸を行う羽目になっため。
いや、別に採寸自体は構わないのだ。
ただ、一からデザインを考えて仕立てなきゃいけないのが億劫なだけ。
「ある程度予想はしていたけど、やっぱりこっちには既製服ないんですね……」
客室のソファに腰掛けながら、私は堪らずボヤいた。
すると、別の席に座っているアランさんやセオドアさん、お店の人が目を瞬かせる。
「「「既製服?」」」
「同じサイズ・デザインで、量産された服のことです」
ざっくり既製服のことを説明すると、三人は頭を捻った。
「そんなの売れるのか?」
「デザインはさておき、サイズの方で問題あるだろ」
「その人その人にピッタリ合ったサイズじゃないと、すぐダメになってしまうものね」
既製服に否定的な意見を持つ三人に、私はゆっくり相槌を打つ。
「そうなんですね、ウチでは既製服が主流だったんですけど……服の作りが、違うのかな」
最後の方だけ独り言のようにボソッと呟き、私はふと天井を見上げた。
その瞬間、お店の人が勢いよく身を乗り出してくる。
「別の製法があるの!?」




