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冒険者ギルド

「そうだ────そろそろ、お前の冒険者登録に行くぞ。ギルドカード……というか、身分証がないと色々不便だからな」


 『いい加減、そこら辺しっかりしておくべきだ』と語り、セオドアさんはスプーンを置いた。

お腹がいっぱいになったのか食後の紅茶を飲む彼の前で、アランさんは前髪を掻き上げる。


「あー、確かに。やむを得ない事情で街の外に出た場合、帰ってこられなくなる可能性があるもんな」


「初日みたいに門番に通行拒否されそうッスからね。まあ、あのときは不死鳥が身元を保証するってことで特別に許可されたッスけど」


 『いつまでも、そうする訳にはいかないし』と言い、キースさんは空になった食器をトレイの上に載せた。

そのままキッチンに引っ込む彼を前に、私は視線を上げる。


「それって、今からですか……」


「ああ」


 セオドアさんは間髪容れず首を横に振り、紅茶を飲み干した。

『昼時なら、ギルドも空いている筈だ』と述べる彼の前で、私はタブレットをギュッと抱き締める。

やっとアランさんから取り返したのに、と思案しながら。


「……も、もう少し後でもいいですか」


「ダメに決まっているだろう。本来であれば初日のうちに済ませたかったところを、長距離移動により疲弊したお前を気遣って今日まで保留にしてきたんだから」


 これでもかなり待ったことを強調し、セオドアさんは席を立つ。

『もう筋肉痛も治っているだろう』と話す彼を前に、私は


「分かりました……」


 半ば項垂れるようにして頷いた。

『これ以上のワガママは言えない』と腹を括る私の前で、アランさんが表情を明るくする。


「あっ!それじゃあ、その間タブレット借りてもいいか!」


「却下」


 そう言って、即座に断ったのは私────ではなく、セオドアさんだった。


「お前も一緒に来るんだ。不死鳥のリーダーとして、こいつの保証人(後ろ盾)になってもらわないといけないからな」


「マジかよ……」


 この世の終わりみたいな顔をして、アランさんは机に突っ伏した。

かと思えば、セオドアさんの方を見る。


「今だけ、セオドアにリーダー譲る」


「いらん」


「じゃあ、キースに……」


「遠慮しておくッス」


 キッチンから顔だけ出して、キースさんは拒否の意向を伝えた。

すると、アランさんがこちらに身を乗り出す。


「かくなる上はミレイに!」


「多分、ギルドのシステム的に無理だと思いますよ」


 個人の意思以前の問題だと主張する私に対し、アランさんは肩を落とす。


「はぁ……だよなぁ。仕方ない……大人しくついて行くかぁ」


 ────という訳で、私・セオドアさん・アランさんの三人は冒険者ギルドへ。

キースさんは食器の片付けや夕食の調理のため、お留守番してもらっている。

ちなみにタブレットを渡してあるので、また私の元居た世界の料理を食べられるかもしれない。

まあ、こちらとしては異世界飯でも全然構わないんだが。


「冒険者登録ですね。それでは、こちらの書類に必要事項を書き込んでください」


 冒険者ギルドの窓口にて、受付嬢がにこやかに書類を差し出す。

なので、一先ず受け取ってみるものの……案の定、文字が読めない。あと、書けない。


「あの、これ……」


「私が代筆しよう」


 セオドアさんは私の手から書類を取り、窓口のカウンターで書き始める。

その途端、周囲の人々がざわめく。


「お、おい……!あの“黒の殲滅者”が、他人の世話を焼いているぞ!」


「“赤の(つるぎ)”も居るし、あの嬢ちゃんは不死鳥の新メンバーなんじゃないのか……!」


「いや、“黒の殲滅者”の妹か娘じゃないか?だって、同じ黒髪で同じローブを羽織っているし……!」


 好き放題言いまくり、周囲の人々はこちらを凝視してきた。

先程までは、チラチラ見てくる程度だったのに。

気になってしょうがない様子の彼らを他所に、私はぼんやり天井を眺める。


 “黒の殲滅者”って、多分セオドアさんのことだよね。

それで、“赤の剣”はアランさん。

こんな二つ名がつくってことは、やっぱり不死鳥って有名なんだなぁ。

まあ、Aランクパーティーってライトノベルだと大抵上から二番目の大ベテランだもんね。

しかも、不死鳥には恐らく一番上の等級であるSランク冒険者(セオドアさん)が居るし。


 などと考える私の前で、セオドアさんがふと顔を上げた。


「お前、今いくつだ?」


 書類の必要事項に年齢が含まれているようで、セオドアさんはペンを止める。

と同時に、私はこう答えた。


「二十二です」


「「はっ?」」


 セオドアさんのみならずアランさんまで反応を示し、ピシッと固まる。


「……お前のようなチンチクリンが、私達と同い年だと?」


「あっ、そうなんですね」


「小柄で顔立ちも幼いから、てっきり十四くらいかと思っていたんだけど……」


「一応、もう立派なレディです」


 実年齢より若く……というか、幼く見られるのはもう慣れているので冷静に受け答えした。

『なんなら、つい最近まで新人社会人やっていました』と明かす私に、セオドアさんとアランさんは遠い目をする。


「「詐欺だろう……」」

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