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アジト

◇◆◇◆


 ────アランさん達に保護されてから、早三日。

私は不死鳥のアジトにて、のんびり過ごしていた。


 家事は全部キースさんがやってくれるし、力仕事はアランさんが請け負ってくれるし、魔法はセオドアさんが教えてくれるし、まさに最高の待遇。

タブレットを貸さなきゃいけないのが玉に瑕だけど、一日一人三十分くらいだから苦ではない。


 『まあ、本当は一分だって貸したくないけど』と思いつつ、砂時計を眺める。

────間もなくして、上の砂が全て下に落ちた。


「アランさん、時間です」


 ダイニングのテーブルに手をついて立ち上がり、私はソファで寛ぐアランさんに声を掛けた。

が、彼は『んー』と適当に返事するだけ。


「タブレットを返してください」


 アランさんのところに向かい、私は手を伸ばす。

すると、彼はクルッとこちらに背を向けた。


「今いいところだから、もうちょっとだけ〜」


「ダメです」


「本当、あと数ページだから」


「却下」


 『延長は認められません』とハッキリ拒絶し、私は無理やりタブレットを取り返そうとする。

その途端、アランさんはソファから起き上がって近くの棚の上に飛び乗った。

あんなところに行かれては、手が出せない。


「延長料はしっかり払うから、今回だけ見逃してくれ」


「往生際が悪いですね。こうなったら、最終手段です────タブレット召喚解除」


 そう唱えれば、タブレットは瞬く間に姿を消す。

でも、


「タブレット召喚」


 この言葉を口にすると、今度はタブレットが現れた。

それも、私の手元に。


「あ〜〜〜!またその手か」


 アランさんは『めちゃくちゃいいところだったのに』と嘆き、ガックリ肩を落とす。

リーリエ様のつけてくれた便利機能で、強制終了されるのはこれで二度目である。


「なあ、やっぱり一日のレンタル時間増やしてもいいか?いや、増やしてくれ。頼むから」


 棚の上で土下座し、アランさんは縋るような目を向けてきた。


「漫画なんて面白い読みものを、一日三十分しか見れないなんてある意味拷問だ。最低でも、二時間は……」


「無理です、絶対無理」


 大事なことなので二回言う私に、アランさんは半泣きとなる。


「そ、そこを何とか……」


「無理なものは無理です。もし、どうしても時間を増やしたいならセオドアさんと交渉してください」


 彼は三十分の他に、私の寝ている間タブレットを使用している。

なので、後者の読書時間を分けてもらえるよう話をつければいい。


 『寝ている間の使用については、正直どうでもいいし』と考える私の前で、アランさんは表情を曇らせた。


「せ、セオドアか……う〜ん……説得出来るかな……」


「────私が、なんだ?」


 そう言って、この場に現れたのはセオドアさん本人だった。

買い物でもしてきたのか小袋を抱えている彼は、ローブのフードを取り払う。

と同時に、アランさんがおずおずと口を開いた。


「いやぁ……ミレイが寝ているときのタブレットの使用を、俺にも認めてほしいなぁって……」


「無理だな、諦めろ」


 一も二もなく断り、セオドアさんはダイニングのテーブルに掛ける。

『うぅ……そんなキッパリ……』と項垂れるアランさんを前に、彼は長い足を組んだ。


「ただでさえ少ない読書時間をやりくりしているんだ、これ以上減らされてなるものか」


「いや、『少ない』って……毎日、大体六時間は使っているだろ」


「それでも、足りないんだ。出来ることなら、一日中タブレットを使用したいくらいなんだからな」


 『そしたら、もっと効率的に魔法の研究を進められるんだが』と話し、セオドアさんは顎に手を当てる。


「特に今読んでいる書物はかなり古いもので独特の言い回しや単語が多く、それらを正しく理解するため別の本を参考にする必要があり、なかなか大変なんだ」


「セオドアさんでも、読むのが難しい本ってあるんですね。ちなみにどういう類いのものなんです?」


 ふと気になって問い掛けると、セオドアさんは こう答える。


「陰陽道や忍術といった種類の本だな」


「へぇー────ん?」


 元居た世界ではオカルトとか作り話とか呼ばれているものがセオドアさんの口から出て、私は目を瞬かせた。

『意外と、ああいうの信じるのかな?』と考える私の前で、彼は腕を組む。


「さすがにその技を習得するのは無理だが、概念と手法は魔法に取り入れることが出来そうなんだ」


 『まだ実験段階だから、確かなことは言えないが』と口にし、セオドアさんは不意に私の手元へ視線を向けた。

多分、研究のことを話していたら続きがやりたくなり、タブレットを借りたいのだろう。

『アランさんから、取り返したばかりなんだけどな……』と思う中、キースさんがキッチンから姿を現した。


「昼食、出来たッスよ〜。今回はなんと、親子丼!ミレイさんの元居た世界の料理ッス」


 『タブレットでレシピを見ました』と言って、キースさんはテーブルに料理とカトラリーを並べる。


「本当は箸という食器で食べるそうなんですが、ここにはないので一先ずスプーンでどうぞ」


 『箸はそのうち、特注して揃えるッス』と述べ、キースさんは空いている椅子に腰を下ろした。

私やアランさんも席につき、出来たてホカホカの親子丼を見下ろす。


「おお〜!本当に親子丼だ、ちゃんと卵で閉じてある」


「なんかよく分からないけど、美味そうだな」


 キラキラと目を輝かせ、私とアランさんは表情を和らげた。

その傍で、セオドアさんがさっさと親子丼に手をつける。


「!」


 ピクッと僅かに反応を示して、セオドアさんはまじまじと親子丼を見つめた。


「これはまた珍妙な……」


 初めて食べる味なのか、セオドアさんは戸惑いを見せる。

でも、幸いお口に合ったようで親子丼を口に運ぶ手は止まらなかった。

そんな彼を他所に、私達もいざ実食。


「美味しいです。出来たてホカホカだから、お肉も柔らかいし」


「ん〜!米とよく合うな〜。あと、肉料理なのにそこまで重くない」


「卵のおかげッスね。風味がマイルドになっているッス」


 『これなら、何杯でもいけそう』と頬を緩め、私達はあっという間に平らげる。

ついでに、セオドアさんも。

そして、すかさずおかわり。ただし、私以外。


 気持ち的にはもっと食べたいんだけど、さすがに胃がね。

これ以上食べたら、間違いなく吐く。

なので、大人しく食後の紅茶をいただいている。

緑茶や麦茶じゃないのがちょっと残念だけど、これはこれで良きかな。


 などと思いつつ、私はタブレットをいじる。

一先ず、端末の言語をこの国の言葉から日本語に戻して読みかけの本を開いた。

『しおり機能のおかげで、すぐ続きから読める〜』と浮かれる中、セオドアさんが顔を上げる。


「そうだ────そろそろ、お前の冒険者登録に行くぞ。ギルドカード……というか、身分証がないと色々不便だからな」

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― 新着の感想 ―
ひでぇな。 えーと、このセオドア達って詐欺師だよね。 アーティファクトレベルのタブレットを売れとか貸せとか、相手の無知に付け込んで取り込もうとする詐欺師そのもの。 エピソード3でうん?って感じだった…
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