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救出《アラン side》

◇◆◇◆


 ────翌日の深夜。

俺はキースに呼び戻され、救出作戦の打ち合わせを行ったあと、貧民街の廃墟までやってきた。

もちろん、セオドア達も一緒だ。


 やっとだ……やっと、ミレイを助けられる。


 灰や埃でくすんだ屋敷を前に、俺は強く手を握り締める。

ようやく手の届くところまで来たのかと思うと、色んな感情が溢れてきて。

『ここ二週間と少し、生きた心地がしなかったけど、それも今日で終わりだ』と思案し、俺は顔を上げた。


「出てきたな」


 定期連絡のため外出する一人の男を見やり、俺はキースに視線を向ける。

すると、彼は心得たように頷き、男のあとを追っていった。

────それから、十五分ほどしてキースは戻ってくる。


「ミレイちゃんは地下に居るらしいッス」


 気絶した……いや、気絶させた(・・・)男を引き摺ってキースは追加情報を口にした。

恐らく、そいつから聞き出したのだろう。

『戦闘不能にするだけで良かったのに、さすがだな』と考える中、セオドアが腰に手を当てる。


「そうか。では、予定通りアランが先行。我々は敵の無力化を行いつつ、後を追う」


「「了解」」


 俺とキースは迷わず首を縦に振り、廃虚の方を見据えた。

その刹那、セオドアが


「【雷よ、天すら突き破る一撃を放ちたまえ】」


 廃虚の扉を雷魔法で吹き飛ばす。

ミレイは地下に居ると判明したからか、一切手加減なしだ。

無惨に散らばる扉の残骸を前に、俺は廃虚の中へ入る。

セオドアとキースも、そのあとに続いた。


 地下への入り口は……あそこか。


 下に続いている階段を発見し、俺はそこに駆け寄る。

と同時に、先程とはまた別の男が身を乗り出した。


「おい、待て!何者だ!?」


「お前の相手はこっちだ」


 すかさず声を掛け、セオドアは手のひらを前に突き出す。

魔法の詠唱に入る彼を他所に、俺は手筈通り先に行った。

そして、地下に降りると────カーラに加え、男がもう一人居た。

ベネット男爵の情報が正しければ、実行犯はこれで全部である。


 ミレイはどこだ?


 薄暗いせいか直ぐに発見出来ず、俺は目を凝らした。

その刹那、男がこちらに気づき、武器を構える。

勇みよく斬り掛かってくる彼を前に、俺は小さく息を呑んだ。

別に男の攻撃に驚いた訳じゃない────檻の中で倒れているミレイを見つけて、衝撃を受けたのだ。


「ミレイ……」


 頭の中が真っ白になるような……体の芯まで凍るような感覚を覚えながら、俺はほぼ無意識に男を薙ぎ払う。

勢いよく頭を打ち付けて蹲る彼を他所に、俺は歩を進めた。

────と、ここでカーラが鉄格子越しにミレイを掴み寄せる。


「そ、それ以上近寄らないで……!」


 威嚇のつもりか声を張り上げ、カーラはミレイの首筋にナイフを宛てがった。

その瞬間、俺は自分でも抑え切れないほどの激情に駆られ、全身が熱くなる。


「今すぐ、ミレイから手を離せ!」


 殺気の籠った怒号を放つと、カーラは震え上がった。

その際、ナイフを取り落とす。


「ひっ……わ、たし……っ……」


 腰を抜かして座り込み、カーラは後ずさった。

すっかり怯え切っている彼女を前に、俺は怒りで頭がグラグラする。


 この場で、殺ってしまおうか……いや、ただ息の根を止めるだけでは生ぬるい。

せめて、ミレイと同じ苦しみを……


「────アラン、さん?」


 不意に名前を呼ばれ、俺は反射的にそちらの方へ視線を向けた。

すると、薄く目を開けたミレイが視界に入る。


「ミレイ……!」


 先程までの激情が嘘のように吹き飛んで、俺は一目散に彼女のところへ駆け寄った。

邪魔な鉄格子を素手でねじ曲げ、中に入る俺を前に、ミレイは小さく笑う。


「助けに来てくれたんですね」


「ああ!遅くなって、悪い!直ぐに安全なところまで、連れていくからな!」


 焦りつつも慎重な手つきでミレイのことを抱き上げ、俺は檻の中から出た。

そのタイミングで、セオドアとキースが合流する。


「「!」」


 二人とも俺の腕の中に居るミレイを見るなり、固まった。

ショックのあまり声も出ない彼らを前に、ミレイは目を細める。


「セオドアさんとキースさんも、一緒だったんですね。私のために不死鳥総出で、ありがとうございます」


 いつもの調子で喋り、ミレイは頭を下げた。

その瞬間、俺達は顔を歪める。


「お前に礼を言われる筋合いは、ない」


「だって、ミレイちゃん……全然無事じゃ(助かって)ないッスもん」


「むしろ、俺達のことを責めるべきだろ……!」


 こんな風になるまで、助けられなかった……いや、そもそも誘拐を防げなかった(守れなかった)ことを悔い、セオドア・キース・俺の三人は俯いた。

罪悪感に押し潰される俺達の前で、ミレイは少し考えるような素振りを見せる。


「正直、私は皆さんに感謝しかないんですけど……あっ」


 何か思いついたように顔を上げ、ミレイは────


「そんなに悪いと思ってくれているなら、お詫びに美味しいご飯をご馳走してくださいよ。それを皆で食べたいです、いつもみたいに」


 ────と、口にした。

罰と呼ぶにはあまりにも軽すぎる願い事に、俺達は一瞬呆気に取られる。

おかげで、暗い気持ちが吹き飛んだ。


「分かった」


「キースの手料理を腹いっぱい食べよう、いつもみたいに」


「腕によりを掛けて、作るッスね」


 淡々と了承するセオドア、明るく笑う俺、気合いを入れるキース。

そんな俺達を前に、ミレイはふわりと表情を和らげる。


「はい、楽しみにしています」


 僅かに声を弾ませ、ミレイは俺達のことを見つめた。

かと思えば、ゆっくりと目を閉じる。

安心感と疲労感がピークに達したのか、寝てしまったらしい。


「アラン、お前は予定通りミレイを連れて脱出しろ。私とキースは敵を捕縛して、大公家(実家)に引き渡す」


 セオドアは手短に指示を出し、蹲っている男とカーラに視線を向けた。

と同時に、俺は階段の方を見る。


「了解」


 そう言うが早いか、俺はこの場を後にした。

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