準備は整った《キース side》
「す、全て正直に話します!ですから、どうか命だけは……!あなた方のお身内だとは、知らなかったんです!知っていたら、こんなことには協力しませんでした!」
ノワール大公家の本気を垣間見て完全に心が折れたらしく、ベネット男爵は白旗を上げた。
反抗する気力など残っていない様子の彼を前に、僕は内心ホッとする。
これで迅速かつ正確に情報を得られる、と。
ディラン様達のおかげだね。
ただ単にノワール大公家の名前を出すだけだったら、ここまですんなり行かなかった。
当主夫妻と側近が、直接この場に赴いたからこその結果。
『自分だけでは、もっと時間と手間が掛かっていた筈』と思案しながら、僕は後ろで手を組む。
「ベネット男爵の処遇は貴方が持つ情報の質や量、それから彼女の安否次第です」
『ミレイちゃんの心身に何かあれば、その代償を支払ってもらう』と主張し、僕は少し身を乗り出した。
「なので貴方の命を繋ぐためにも、彼女が無事に戻ってくるよう尽力してください」
「もちろんです……!」
コクコクと何度も頷き、ベネット男爵は協力を約束した。
と同時に、居住まいを正してこちらを見据える。
「まず、この誘拐事件を企てたのは私じゃありません!ある集団が、持ち掛けてきたもので……!」
「その集団というのは?」
「も、申し訳ございません……!そこまでは……!」
「そうですか。残念ですが、仕方ありません。話を続けてください」
とりあえず黒幕の正体は置いておいて、あちらの言葉に耳を傾けた。
すると、ベネット男爵はおずおずと顔を上げる。
「それで、えっと……彼らは私に実行犯との窓口になるよう、言ってきたんです!正直リスクのある役割でしたが、『相手は平民だから、大丈夫』と説得されて……!それに、『上手く行けば既製服の作り方を手に入れられるし、報酬も弾む』と……!つい、欲に目が眩んでしまいました……!」
『申し訳ございません……!』と何度目か分からない謝罪を行い、ベネット男爵は手を握り締めた。
「具体的な計画内容としては、カーラという女を味方につけてターゲットが不死鳥から離れるよう誘導……!その後、薬で眠らせ、雇った裏の人間三名に運ばせました!あとは既製服の作り方を聞き出しつつ例の集団からの合図を待ち、ターゲットを解放。罪は全てカーラや裏の人間に被せる予定でした……!」
限界まで追い込んだためかペラペラとよく喋り、ベネット男爵はこちらの顔色を窺う。
言動の端々に恐怖と不安を滲ませる彼を前に、僕は顎に手を当てた。
「なるほど────で、彼女の居場所は?」
最も肝心なところを問うと、ベネット男爵は口を開く。
「貧民街の奥にある廃墟です……!」
そんなのいくらでもあるでしょ。
もっと細かく知りたいんだけど……土地が整地されていない貧民街だと、住所を説明しづらいか。
『せめて、もう少し特徴があれば』と考え、僕は一つ息を吐いた。
貧民街に居ると確信を持てただけでも良しとするかと思っていると、ベネット男爵が身を乗り出す。
「じ、実行犯の者達に直接案内させましょう!」
こちらの反応を見て危機感を覚えたのか、ベネット男爵はとんでもないことを言い出した。
どうにかして役に立とうとする彼の前で、僕達は呆気に取られる。
「いや、そんなことをしたらこちらの動きを悟られてしまうじゃないですか」
「その結果、実行犯の人達が過激な行動に出たら目も当てられないわ」
「ベネット男爵の腹心で命令に忠実ならともかく、彼らは外部の人間のようだしな」
「コントロールし切れるとは言い切れない以上、やめておいた方がいいですね」
呆れる僕、憂いげなララ様、問題点を指摘するディラン様、冷静に反論するフレデリック様。
『何を血迷っている……』と思案する僕達を前に、ベネット男爵────ではなく、父が言葉を紡ぐ。
「お待ちください。『実行犯の者達に案内させる』というのは、案外いいアイディアかもしれません」
「「「えっ?」」」
大きく目を見開き、僕達は父のことを凝視した。
『本気で言っているのか?』と動揺する僕達の前で、父はモノクルを押し上げる。
「もちろん、ベネット男爵の言うように正面から堂々とではなく、裏からこっそりとならですが」
「「「!」」」
その一言で全て察し、僕達は『なるほど、それなら……』と考えを改める。
まあ、約二名ほど話についていけていない者達が居るが。
「『裏からこっそりと』って、どういうことですか?」
「分かるように説明してくれよ」
ベネット男爵とフレデリック様は困惑を露わにして、説明を求めた。
すると、父はこう答える。
「要するに実行犯の者達を尾行する、という意味です。ベネット男爵、彼らを呼び出すことは出来ますか?」
「えっと……こちらのタイミングで呼び出すのは難しいですが、定期連絡として毎日夜遅くに屋敷へ来るのでそのときなら」
「構いません。むしろ、こちらからアクションを起こさない分自然でいいですね」
『気づかれにくい』と利点を話し、父はこちらを向いた。
「では、早速今日の夜尾行を行いましょう。私とキースの二人で」
人数が多いと逆に邪魔になるため、父は隠密に特化したメンバーを選んだ。
『たまには、親子水入らずもいいでしょう』なんて冗談を言う彼に、僕は苦笑する。
「はい」
────と、返事した数時間後。
僕は無事ミレイちゃんの居場所を突き止め、帰路についていた。
ちなみにベネット男爵のことは、一先ずノワール大公家に任せてある。
さすがに連れていく訳にはいかないし、だからと言って放置も出来なかったので。
『まあ、あれだけ脅しておけば下手のことはしないと思うけど』と思いつつ、僕は速やかに帰宅する。
「ただいま戻ったッス」
挨拶しながらリビングの方まで行き、僕はセオドアくんと顔を合わせた。
と同時に、彼はソファの上で足を組む。
「収穫は?」
「バッチリっスよ」
『まさに大漁』と主張し、僕は手に入れた情報を全て共有した。
セオドアくんも神殿のことを報告し、『“ある集団”とやらは十中八九、あいつらだろうな』と呟く。
「兎にも角にも、これで準備は整った。明日の夜にでも、ミレイ救出作戦を行う」
紫の瞳に強い意思と覚悟を宿し、セオドアくんは宣言した。
『その言葉を待っていた』と笑う僕を前に、彼はペンを手に取る。
「そのためにアランを呼び戻せ、キース」
「了解ッス」
二つ返事で了承し、僕は踵を返す。
その際、ふとセオドアくんの手元を見た。
『あと少しで助けに行けるから、大人しくしておけ』?
何でそんなことを……あっ、ミレイちゃんへのメッセージか。
もし、彼女がタブレットを使っていればまず僕達の動向を探るためにセオドアくんの資料を読む筈だから。
『そんなことにまで気がつくなんて、さすがだ』と感心しながら、僕は真っ直ぐ前に突き進む。
そのメッセージを……言葉を嘘にしないために今出来ることを最大限やろう、と心に決めて。




