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セオドアさんの実家

「それより、話とはなんだ」


 余程気になるようで、セオドアさんは真っ先に問い質した。

すると、ディランさんが僅かに表情を硬くする。


「それについては、中で話そう」


 さすがにここでは、ゆっくり話せないもんね。

関係のない第三者……私も居るし。


 『当然の判断だ』と感じる中、私は一抜けして客室に。

他の人達は、応接室に行った。

────それから小一時間ほど経った頃、部屋の扉をノックされる。


「どうぞ」


 特に深く考えることなく入室の許可を出せば、扉の向こうからアランさん達が現れた。

それも、全員暗い面持ちをした状態で。


 ん?どうしたんだろう?何か良くないことでも、あったのかな?


 暇潰しとして読んでいた本を閉じ、私は座ったままあちらに向き直る。

と同時に、セオドアさんが真っ直ぐこちらを見据えた。


「単刀直入に言う────力を貸してほしい」


 意を決したように要求を伝え、セオドアさんは真剣な顔付きになる。

アランさんとキースさんも、同様だ。

切実な願いだと一目で分かる三人の様子を前に、私は────


「いいですよ」


 ────一も二もなく、了承した。

その途端、彼らはピシッと固まる。

が、直ぐに平静を取り戻して口を開いた。


「いや、待て。頼んだこちらが言うのもなんだが、せめて詳細を把握してから決めろ」


「即断即決が、過ぎるッスよ〜」


「もし、無理難題を言われたらどうするんだよ……」


 セオドアさん、キースさん、アランさんの三人は呆れたような表情を見せる。

でも、ちょっと気が抜けたようだ。

やれやれと(かぶり)を振りながらこちらまでやってきて、向かい側のソファに座る。


「とりあえず、まずは話を聞け」


「はい」


 セオドアさんの言葉に素直に従うと、彼は『分かればいい』と頷く。


「こちらの要求は主に二つだ。タブレットによる情報収集と────光魔法の行使」


「!」


 前者はさておき、後者は予想外だったので少し驚く。

『一体、何故?』と内心小首を傾げる私の前で、セオドアさんは足を組んだ。


「ただ、光魔法については場合による。体調不良(・・・・)の種類によっては、逆効果になることもあるからな」


「体調不良?」


 堪らず聞き返す私に対し、セオドアさんは表情を引き締める。


「ああ、実は────私の兄ジーク・スヴァット・ノワールが、原因不明の体調不良を引き起こしているんだ」


 心做しかいつもより硬い声色で言葉を紡ぐセオドアさんは、ふと天井を見上げた。


「だから、両親は私達を早急に呼び戻した。家族としても、家門としても兄の万が一に備える必要があるのでな」


 家族としてちゃんと最期を見届けてほしいし、家門として兄の代わりに後継となってほしいってことか。


 大公夫妻の思いと貴族の事情を思い浮かべ、私は顎に手を当てる。


「お兄さんは深刻な状態なんですか?」


「いや、まだ大丈夫そうだ。倒れてから、一週間ほどだしな」


 なら、まだ万が一なんて考える必要ないのでは?

むしろ、ちょっと不謹慎な気が。


「だが、いかんせん原因不明というのがな」


「大公家の主治医をはじめ、色んな医師に診せたらしいッスけど、全員お手上げみたいで」


「現状、見守るくらいしか出来ていないんだと」


 悩ましげな表情のセオドアさん、困ったような顔のキースさん、浮かない面持ちのアランさん。

それぞれ違う反応ではあるものの、『このまま何も出来ないのは嫌だ』という思いは一致している彼らを前に、私は居住まいを正した。


「なるほど。お話は分かりました。その上で、もう一度言います────“いいですよ”、協力しましょう」


 改めて了承の意を示すと、三人は苦笑いに近い表情を浮かべる。


「お前は……迷うということを知らないのか」


「こちらとしては大助かりだけど、ミレイには何のメリットもないし、何より────」


「────リスクが、あるッス」


 重々しい雰囲気を放ち、セオドアさん・アランさん・キースさんの三人は難しい顔付きになった。


「表面上は我々主導で治療を行い、タブレットの存在やミレイの活躍は出来るだけ隠すつもりだが、疑いの目は向く筈だ」


「意図した訳じゃないけど、このタイミングで一緒に帰ってきた謎の女だからな」


「おまけに、今回は貴族関連……色々と油断出来ないッスよ」


 憂慮すべき点を挙げていき、彼らは『きちんと理解しているのか』と眉根を寄せる。

もっと慎重に決めるべきだと訴えてくる三人の前で、私は


「それでも、構いません」


 尚も了承の意を示した。

『ここまで言っても、迷わないとは』と驚く彼らを前に、私は胸元へ手を添える。


「私はこれまで、不死鳥の皆さんにさんざんお世話になってきました。だから、少しでもあなた方に報いたい。何より、大切な人達の家族を助けられるなら助けたいんです」


 『見捨てるような真似はしたくない』と主張し、私は彼らの目を見つめ返した。

黒い瞳に確かな意思と覚悟を宿す私の前で、三人は少しばかり瞳を揺らす。


「そういうことなら、有り難く厚意を受け取ろう。感謝する、ミレイ」


「ありがとな」


「恩に着るッス」


「いえいえ。それより、早速調査を始めましょう」


 そう言うが早いか、私はタブレットを召喚した。


「一先ず、お兄さんの行く末を調べてみますね。そこから、何かヒントが得られるかもしれませんので」


 まだこのタブレットで未来の文書も閲覧出来るという確証はないけど、原因不明の体調不良である以上一度は当たってみるべきだよね。


 タブレットの検索欄に『ジーク・スヴァット・ノワール 死因』と打ち込み、情報収集を行う。

すると、アランさん達が各々席を立って私の後ろに回った。

目的は言うまでもなく、一緒にタブレットを見るためだろう。


「────マナ分解不全?」

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