第9章 筋肉痛大戦──プランクと腕立てと王国の悲鳴
健康であれ
アディポス本体覚醒まで──残り65日。
スクワット5回の“儀式”から数日後。
俺の生活には、じわじわと新しい習慣が増えていた。
•朝:白湯+味噌汁+果物
•昼:野菜 → タンパク質 → 炭水化物
•夜:ホットミルク+軽い間食
•そして──
一日おきの「軽筋トレ」
「……まさか自分が、仕事前にスクワットする人間になるとはな……」
「成長ですねレン様!!」
ラクティが肩の上でぴょんぴょん跳ねる。
セラフィミアも嬉しそうに頬を染めた。
「最近のレン様……
以前より、顔色も……
まなざしも……柔らかくなりました……」
ビフィズス王も満足げにうなずく。
『腸内王国の“代謝炎”も、安定して燃えておる。
そろそろ次の段階に進むときだな』
そこへ、筋肉菌将軍マッスル・ガイアスが、
相変わらず上半身ほぼ裸で現れた。
「フゥゥ……ハァァ……
宿主よ。
貴様の太ももの炎は、すでに点火した……
次は──
体幹と胸筋のターンだ!!」
ラクティが小声で解説する。
「つまり、プランクと腕立て伏せです!!」
セラフィミアはなぜか耳まで赤くなる。
「れ、レン様の……腕立て伏せ……
ぜ、全力で応援します……!」
何を想像してるの聖女。
⸻
◆ プランクの儀──“体幹砲台”起動
仕事終わり、俺は部屋の床にマットを敷き、うつ伏せになった。
「えーと、これがプランク……」
肘をつき、体を一直線にキープ。
たったそれだけのはずなのに──
「……地味にきついなコレ!?」
ガイアスがすぐさま後ろから叫ぶ。
「腰を落とすな宿主よ!!
もっとまっすぐ!!
貴様の身体を一本の“槍”だと思え!!」
ラクティ「背中がちょっと丸まりかけてます!!」
セラフィミア「お、お尻が……少しだけ上がりすぎて……っ」
俺「みんなで俺の尻の実況するな!!」
ガイアスがドンッと床を踏み鳴らし、
腸内王国が振動した。
「よいか宿主よ!!
プランクとは、
腸内王国に“体幹砲台”を設置する儀式だ!!」
ラクティの前に、立体映像のような“王国マップ”が浮かぶ。
脂肪の荒野の真ん中に、
巨大な砲台がニョキニョキと生えてきていた。
「で、出ました!!
《コア・キャノン》です!!
体幹が強くなると、
王国全体の安定性と“姿勢バフ”が発動します!!」
セラフィミアが両手を握りしめる。
「姿勢が整うと……
内臓の位置も安定して……
腸への負担も減り……
メンタルも……前を向きやすくなるんです……!」
魔神アディポスの遠い声が響く。
『フン……
“猫背ルート”を封鎖するつもりか……
ならば“だるさ霧”を増やすまでだ……』
王国の一部に、黒いもやが立ち上った。
ラクティ「“だるいしもう良くない?”ってやつです!!」
俺「めっちゃ来てる!!」
プランクをキープしている間、
腹筋・背中・肩まわりが震え始める。
「やばっ……そろそろ限界……!」
ガイアス「あと5秒だ宿主!!」
ラクティ「4! 3! 2! 1!」
セラフィミア「がんばってくださ……(あ、噛みました)」
俺「そこ噛むのかよ!!」
最後の力を振り絞り、プランクを解除。
床に崩れ落ちた。
ドンッ。
その瞬間、腸内王国の“体幹砲台”が光り、
黒い霧を吹き飛ばすように光線を放った。
ラクティ「《コア・キャノン》発射!! だるさ霧、後退!!」
ビフィズス王「これで、“姿勢の崩れ”による内臓圧迫が軽減される。
現実世界でも、徐々に疲れにくさを感じるはずだ」
俺「……なるほどな……たしかに、終わったあとはスッキリしてる気がする」
ガイアスが満足げに頷いた。
「よいぞ宿主。
これを週2〜3回続ければ、
王国は“ブレない軸”を手に入れる……!」
⸻
◆ 腕立ての儀──“ポンプ兵団”起動
次は腕立て伏せ。
腕を伸ばして、体を一直線に保ち、
胸を床ギリギリまで下ろしてから戻す。
「……よし、やるか」
ガイアスが腕を組む。
「腕立てはな、宿主よ……
腸内王国に“ポンプ兵団”を増強する戦術だ!!」
ラクティが説明を補足する。
「胸・腕・肩の筋肉が動くと、
血流が良くなって、
腸内に栄養と酸素が届きやすくなるんです!!
つまり、“免疫兵団への補給線”が強化されます!!」
なるほど……
思ったより理にかなってる。
問題は──
「……普通にキツい」
一回目で早くも腕がプルプルし始める。
二回目で顔が床に近づきすぎる。
三回目で肘が笑い始める。
ガイアス「フォームが崩れるくらいなら、回数を減らせ宿主!!
美しい一回は、汚い十回に勝る!!」
ラクティ「名言っぽいこと言いました!!」
セラフィミア「い、今のは……ちょっとカッコいい……かも……」
俺「将軍、たまにいいこと言うな……!」
膝をつき、負荷を少し軽くした“膝つき腕立て”に切り替える。
これならなんとか数回いける。
ガイアス「その判断、良し!!
重要なのは“続けられる形でやること”だ!!」
腕立てを終えた瞬間。
王国内に、“巨大なポンプ”のような装置が出現した。
ラクティ「これは……《サーキュレーション・ポンプ》!!
血流・リンパ・栄養供給を加速する装置です!!」
セラフィミアが喜ぶ。
「これで……
NKナイトたち(免疫兵)が……
もっと自由に動けます……!」
遠くで魔神アディポスが舌打ちした。
『チッ……
ポンプ兵団を増やされたか……
これでは、炎症領域に“兵糧攻め”ができぬ……』
ビフィズス王が微笑む。
『よくやったぞレン。
筋トレと育菌は──本来、同じ方向を向いているのだ』
俺は汗を拭いながら、
妙な達成感に包まれていた。
「……筋トレって、
やるまではダルいけど……
終わるとちょっと気持ちいいんだよな……」
ラクティ「それです!
その“終わったあとの気持ちよさ”を覚えておくのが、継続のコツです!」
セラフィミア「れ、レン様……
その感覚は、メンタルの安定にも繋がります……」
⸻
◆ 歩くこと──“循環道路”の拡張
それに加えて、
俺は意識的に「一日15分は歩く」ようにしていた。
•一駅分歩く日
•昼休みに10分だけ外を歩く日
•エレベーターではなく階段を使う日
ラクティが、王国マップを指さして騒ぐ。
「見てくださいレン様!!
王国内に、
“道路みたいなもの”がどんどん増えてます!!」
その名も《メタボロード》。
代謝物質や栄養が運ばれる“循環道路”。
ビフィズス王が説明する。
『歩行はな、レン。
大袈裟でなく、“全方位のバフ”なのだ。
王国のあらゆる区域に、
酸素と栄養と、
そして“リズム”を届けてくれる』
セラフィミアが目を細める。
「歩くと……
セロトニンの泉が、穏やかに湧いてきます……
レン様が最近、
以前よりちょっとだけ“落ち込みにくく”なっているのは……
そのおかげです……」
魔神アディポスが、少しだけ不機嫌そうに唸った。
『……チッ。
歩行ルートを増やされると、
脂肪の“よどみ”が消える……
だが、真価を発揮するのは──
“次の日”だ……』
次の日?
⸻
◆ 翌朝──“筋肉痛大戦”勃発
アディポス本体覚醒まで──残り64日。
翌朝、目が覚めた瞬間。
「……あれ? 体が……」
ベッドから起き上がろうとした瞬間、
太ももと胸と腕から、
ズキーン!! と電撃のような痛みが走った。
「イッッッッテェェェェ!!??」
ラクティ「で、出ました!! 初・筋肉痛です!!」
セラフィミア「れ、レン様ぁぁぁ!! だ、大丈夫ですかぁぁぁ!!」
俺「階段降りるのコレ無理じゃない!?」
腸内王国でも、異常事態が発生していた。
⸻
◆ 王国サイド:痛み=“修復工事”
王国の各地で、
“工事現場”のような光景が広がっていた。
筋肉繊維のような大地に、
ところどころヒビが入り、
その上で整備兵たちが必死に修復している。
ラクティ「こ……これが……
筋肉痛……!!」
セラフィミアが説明する。
「筋肉は……
トレーニングで一度“小さな傷”がついて……
それを修復するときに……
前より強くなるんです……
その修復工事の“信号”が……
筋肉痛……」
工事現場の隊長が叫ぶ。
「よしお前ら!!
傷ついた筋繊維を補強しろ!!
次に負荷が来たとき、
同じダメージじゃ済まないくらい丈夫にするんだ!!」
ガイアスが腕を組んでうなずく。
「これだ宿主よ。
筋肉痛は“悲鳴”ではない。
“もっと強くなるための、工事の音”だ。
その痛みのぶんだけ、
我は次に強くなる……!」
魔神アディポスがニヤリと笑う。
『……しかしな。
人間というのは、
この“工事の音”を嫌って──
「やっぱり筋トレやめようかな」と思うのだ……』
ラクティが青ざめる。
「つまり今が──
**“最初の挫折ポイント”**なんです……!!」
⸻
◆ 二日目の階段地獄と、小さな決断
その日、俺は会社の階段を降りるたびに、
「イテテテテ」と声を漏らしていた。
同僚「どうしたの、運動した?」
「……ちょっとな」
実際、「今日はもう筋トレいいかな」という気持ちが
何度も頭をよぎった。
『そうだ、それでいい……
“今日はやめよう”を続ければ、
そのうち“やっていたこと自体”を忘れる……』
アディポスの声が静かに囁く。
ラクティが必死に叫ぶ。
「レン様!!
今日“やらない”のはいいんです!!
でも、“もうやめた”だけは言わないでください!!」
セラフィミアも、袖を掴んだ。
「れ、レン様……
筋肉痛がある日は……
その部位は休ませていいんです……
でも……
完全に“何もしない”よりは……
少しだけ歩くとか……
軽くストレッチするとか……」
俺は、会社帰り、
いつもより一駅分だけ多く歩くことにした。
「……今日は、脚の筋トレはしない。
でも、“完全にゼロ”にはしない」
ラクティが目を潤ませる。
「それですレン様!!
それが“長期戦モード”です!!」
ガイアスも、満足げに笑った。
「よい判断だ宿主。
筋肉に必要なのは、“休息”と“血流”だ。
貴様は今日、
**“やめない選択”**をした!」
⸻
◆ 筋肉痛の向こうに見えるもの
数日後。
筋肉痛は、嘘みたいに軽くなっていた。
階段も、前ほどはつらくない。
スクワットも、最初の頃よりスムーズにできる。
ラクティ「レン様!!
筋肉の“基礎レベル”が上がってます!!」
セラフィミア「王国の“炎症レベル”も下がり……
代謝炎と免疫兵の動きが、前より滑らかです……」
ビフィズス王「ふっ……
これで、アディポスの外郭防御は、
少しずつ削れていくことになるだろう」
遠くで、魔神アディポス・ベリーが笑う。
『……悪くない。
三日坊主で終わらなかったか。
だが、“本気の戦い”は、ここからだ……』
ガイアスが、俺の前に立つ。
「宿主よ。
貴様の筋肉が、ようやく“スタートライン”に立った。
スクワット、プランク、腕立て、歩行──
これらが合わされば、
王国の“燃焼軍”は、真の力を発揮し始める。」
ラクティが元気よく手を挙げる。
「次は、“習慣の固定化”フェーズですね!!
週2〜3回の筋トレ、
毎日のちょこっと歩き、
食事&睡眠のコンボ……!」
セラフィミアも嬉しそうに微笑んだ。
「れ、レン様と一緒なら……
きっとアディポス本体とも、
ちゃんと向き合って戦えます……」
俺は、何の気なしに空を見上げた。
腸内王国の空は──
以前よりも、ずっと澄んだ青に近づいていた。
「よし。
筋肉痛も経験したし……
ここからは、“慣れてくる痛み”だな」
『クク……
ならば見せてもらおうか、育菌覇王候補よ。
三ヶ月後──
真の決戦のときをな……』
アディポス本体の影が、
ゆっくりと濃くなり始めていた。
だが同時に──
俺の筋肉と腸内王国も、
確実に力をつけ始めていた。
健康に至れ




