第8章 筋肉菌将軍《マッスル・ガイアス》──王国最強の“燃焼因子
アディポス本体覚醒まで──残り68日。
三ヶ月覚醒計画は順調……に見えて、
ここ数日は“ある問題”が浮上していた。
「……なんか、体がだるいんだよな」
「れ、レン様……疲労値が増えてます……」
ラクティが心配そうに俺の肩で座り込み、
セラフィミアも眉を寄せる。
「れ、レン様……
代謝領域が少し……停滞しています……
王国の炎……弱まっています……」
「炎?」
「はい……
“燃焼の炎”です。
内臓脂肪を燃やすには……
必要不可欠な存在なのですが……」
ビフィズス十三世が現れ、
重々しい声で状況を説明した。
『レンよ。
王国の代謝炎が弱っておる。
食事改善と睡眠の力だけでは、
本体アディポスを削る力が足りぬのだ』
「じゃあどうすれば?」
ビフィズス王は、静かに言った。
『“筋肉菌将軍”を呼ぶのだ』
その瞬間、王国の地面がズズンと震えた。
ラクティが叫ぶ。
「き、筋肉菌将軍……!?
まさか……あの……ゴリゴリの……!?」
セラフィミアが真っ赤になり、小声でひそひそ言った。
「レン様……ご注意ください……
彼は……その……
とても……筋肉の……露出が……」
「え、露出?」
王国の空に巨大な影が落ちた。
次の瞬間、地面が割れ、
マグマのような光が吹き上がる。
ドゴォォォォォン!!
黄金の光の中から、
異様に隆々としたシルエットが立ち上がる。
全身が大胸筋と腹筋で構成されているような巨体。
鋼鉄のような太い腕。
そして、なぜか腰布しか身につけていない。
「フゥゥゥ……ハァァァ……
呼ばれたな……“宿主”よ」
ラクティが震えながらつぶやく。
「……で、出たぁ……
王国唯一の“筋肉一直線”……
筋肉菌将軍!」
セラフィミアは顔を覆いながら言った。
「れ、レン様……目を合わせないほうが……
あ、あの胸筋……反射光で……恥ずかしい……」
俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
「……強そうだな」
「当然だ。
我こそが──王国“代謝領域”最高戦力、
燃焼の化身である」
胸筋がボフッと膨れ、軽い爆発音がした。
ラクティが小声で言う。
「レン様……
ガイアス将軍の筋肉は、
**宿主が“筋トレした時間だけ成長する”**んです……!」
あ、なるほど。
筋トレをすると筋肉菌が強化される仕組みか。
ビフィズス王が言った。
『レン。
そろそろ“筋トレ”を生活に取り入れる時期だ。
運動は……
腸内環境 × 脂肪燃焼 × メンタル安定
すべてを底上げする最強の習慣である』
ガイアスが肩をぐるんと回し、
地面に亀裂が走った。
「宿主よ。
我を強くしたければ、
1日5分でよい。
スクワットをせよ。
プランクをせよ。
何でもいい、
“あなたが自分の身体を動かした時間”が……
そのまま我の筋肉となる!!」
セラフィミアが、勇気を振り絞って言う。
「れ、レン様……
ガイアス将軍が強くなると、
魔神アディポスの“脂肪の盾”を破れます……
三兄弟とは……比べ物になりません……!」
ラクティが力強く頷いた。
「筋肉菌将軍の力があれば、
王国の燃焼炎が“常時オン”になって、
日常生活の中でも脂肪が減りやすくなるんです!」
俺は──
自分でも驚くほど迷わず、うなずいた。
「……わかった。
筋トレ……始める」
ガイアスが両手を天に掲げた。
「選択したか、宿主よ!!!
よくぞ言った!!!
今こそ見せてみよ、
貴様の筋肉が目覚める瞬間を!!!」
その瞬間、王国の空が赤く輝き、
筋肉菌将軍の背中が炎のように燃え上がった。
「行くぞ……宿主よ。
まずは、《超初級の儀》からだ。
名を……《スクワット5回》という!」
ラクティ「弱ッ!!??」
セラフィミア「や、優しい……!!」
ビフィズス王「……ふっ、まずはそこからでよい」
俺は深く息を吸った。
「よし……
やってやろうじゃないか……
筋トレ……!」
ガイアスが高らかに叫ぶ。
「さぁ宿主よ!
我を強くし、
アディポス本体を倒すため──
今日から貴様は……
筋トレ覇王の道を歩むのだァァァ!!」
王国に、新たな炎が燃え上がった。
筋肉菌将軍・マッスル・ガイアスの声が王国に響いた。
「宿主よ……!
スクワットを始めるのだ!!
たった5回で構わぬ!!
されどその5回は──王国を揺るがす!!」
ラクティが震えながら俺の肩にしがみつく。
「れ、レン様……スクワットは王国にとって……
“地震レベルの衝撃”なんです……!!」
「いやスクワットで地震は起きないだろ」
「実際起きます……!!」
マジか。
⸻
◆ 第一回スクワット──王国、震える
俺は深呼吸し、脚を肩幅に開いた。
ガイアスがすぐ後ろにつき、
なぜか“肉体美”をこれでもかと見せつけてくる。
「宿主よ!!
背筋は伸ばせ!!
腕は胸の前で組め!!
顎を引き、
ケツを後ろに突き出す!!
そうだ!!
もっとケツを!!
ケツを出せィィィ!!」
「言い方がおかしい!!!!!」
セラフィミアは顔を真っ赤にし、
まるで爆発寸前の魔法石のように震えていた。
「み、見れません……っ!
れ、レン様の……その……
お、おしり……!!」
ラクティ「セラフィミア様、落ち着いてください!!」
俺「俺が一番落ち着かないわ!!!!」
⸻
◆ スクワット1回目──王国に激震が走る
ゆっくり腰を落としていく。
ガイアス「よし!! いいぞ宿主よ!!
その調子で──すり鉢状の地形が激しく震えるはずだ!!」
「地形が震えるって何……?」
ラクティが、王国地図を広げながら叫ぶ。
「王国内の“脂肪の沼”が揺れ始めています!!
砂漠化(脂肪減少)の予兆です!!」
セラフィミアが祈りの姿勢を取る。
「れ、レン様……!
あと少しです……!
太ももの筋肉が使われると……
全身の代謝が……」
次の瞬間。
ドゴォォォォォン!!!
腸内王国の大地が揺れた。
油の池が波立ち、
脂肪の塊が崩れ落ち、
温泉のように“代謝の炎”が噴き上がる。
ラクティ「きたぁぁぁぁっ!!
代謝炎が点火!!」
セラフィミア「れ、レン様の……ふとももの……活性化……っ!」
顔が赤い。
なんでそんな恥ずかしがるんだ聖女。
ガイアスは胸筋を揺らして叫んだ。
「これだ宿主よ!!
この“スクワットの1回目”こそが……
王国に“最初の地殻変動”をもたらすのだ!!」
大げさすぎる。
⸻
◆ スクワット2回目──脂肪三兄弟が目を覚ます
二回目に入った瞬間──
地面の奥から、あの三兄弟の声がした。
フライ・オイル「お、おい揺れてるぞ!?」
マヨ・クリーム「え、オレらの棲んでる沼が……沼が縮んでる!?」
シュガ・ソース「なんだよコレ……地震か? いや違う……筋肉か……!?」
ラクティがドヤ顔で言う。
「これがスクワットの魔力です!
王国の脂肪が揺さぶられて、
心なしか三兄弟の身体も若干スリムになります!」
俺「マジかよ……」
フライ・オイルが怒鳴る。
「てめえレン!!
スクワットなんかしやがって!!
オレらの領地が減るだろうが!!」
「いや、それは減らしたい」
⸻
◆ スクワット3回目──ガイアスのフォーム指導(地獄)
ガイアスが突然、俺の背後に回り込み、
大胸筋で俺の背中を“ドン”と押した。
「宿主よォォォ!!
背中が丸い!!
もっと胸を張れ!!」
「近い!! お前近い!!」
「近くて何が悪い!!
筋肉は距離だ!!
筋肉は愛だ!!」
「愛の方向性どうなってんだ!!!?」
セラフィミアは耳まで真っ赤にして震えている。
「れ、レン様が……その……
が、がいあす将軍に……
抱きしめられそうな距離で……っ……」
ラクティが解説する。
「将軍は“フォーム至上主義”なんです。
そのためなら距離なんて関係ありません。」
なるほどじゃないんだよ。
⸻
◆ スクワット4回目──代謝の炎が活性化
4回目に差し掛かると、
王国の地面から“青白い炎”が吹き上がった。
ラクティ「レン様!!
これは“脂肪燃焼炎”です!!」
俺「名前が長い!!」
「脚の筋肉が使われるたびに……
代謝炎が強まっています……っ!!」
セラフィミアが興奮気味に説明する。
「太ももの筋肉は……
全身の代謝の“エンジン”なんです……!
動かすたびに……
腸の動きも……気持ちも……
全部……前向きに……!!」
王国全体が明るくなる。
脂肪の沼だった場所から花が生えてくる(脂肪細胞の弱体化)。
三兄弟が騒ぐ。
フライ・オイル「な、なんか王国明るいんだけど!?やめてよ!!」
マヨ・クリーム「生まれて初めて“健康的な光”を見た……」
シュガ・ソース「オレたち溶けちゃうんだけど!?ちょっと!?」
⸻
◆ スクワット5回目──王国全開放
ラスト1回。
ガイアスが全力で煽る。
「宿主よ!!
最後の一回は!!
“ゆっくり沈み、ゆっくり上がる”のだ!!
速さではない……
意志だ……!!」
ラクティ「レン様ーーー!!がんばれーーー!!」
セラフィミア「れ、レン様……! 目を……そらしません……!!
(ほんとは恥ずかしいけど!!)」
ビフィズス王「静粛に。
最後の一撃は……
王国全体を覚醒させる」
俺は全力で腰を落とした。
その瞬間。
バゴォォォォォンッ!!!
王国全体に光の波動が走った。
脂の湖が干上がり、
代謝の風が吹き、
腸内王国の空が昼のように明るくなる。
ラクティが叫ぶ。
「れ、レン様ぁぁぁぁ!!!
スクワット5回で……
王国の“代謝レベル”が……
17%も上昇しました!!!」
セラフィミアが涙目で俺に飛びつく(精神世界的な距離感)。
「す、すごいです……!!
たった5回で……
こんなに王国が……!!」
ガイアスは胸筋を震わせて笑う。
「これがスクワットだ、宿主よ!!
これが筋肉菌将軍の力!!
今日の5回は……
王国の“歴史”に刻まれたぞ!!」
俺は息を切らし、空を見上げた。
「……筋トレ、やばいな……」
「ええ。
筋トレは“腸に効く”。
そして“人生に効く”。
宿主よ……
ここからが本番だ」
王国の空で、遠くに黒い影が揺らめく。
魔神アディポス・ベリーが、
微かに目を細めていた。
『……ふん。
スクワット程度で喜びおって……
だが、悪くない。
少しは骨があるようだな……育菌覇王候補よ』
次の戦いが、静かに動き始めた。




