第6章 魔神アディポス本体──“3ヶ月覚醒計画”開始
健康であれ
脂肪三兄弟との激闘から、一日が経った。
俺は朝の味噌汁を飲みながら、複雑な気持ちになっていた。
昨日は、確かに勝った。
勝った……はずなんだが。
「なんか、勝った感じが薄い気がする……」
「それはですねレン様……
“本体が1ミリも減っていないからです”」
肩の上でラクティが、ずばっと言い切った。
「え? そんなはっきり言う?」
「だって本当のことですから……
あの三兄弟は、あくまで“増量させる要員”であって……
本体とは比較になりません!」
「まあ……わかってたけど……」
横で味噌汁の湯気を浴びながら、セラフィミアが頬を赤くした。
「で、でも……
三兄弟を倒したことで、
内臓脂肪ゾーンの面積は“3%”縮みました……!
この成果は大きいです……!
あの、レン様……すごく……すごく頑張りました……!」
褒められるとなんか照れる。
というか、可愛い聖女に褒められるとちょっと心拍数が上がる。
ラクティが、興奮気味に説明を続ける。
「つまりレン様!
“日々の習慣”によって魔神本体を削っていくのが、この世界のルールなんですよ!」
「習慣……か」
「はい! そして……
ついに“本体”が動き始めました。
あれは……昨日の戦いを見て、やる気を出してしまったんです!」
セラフィミアの表情が曇る。
「アディポス・ベリーは……
宿主の“蓄積された年数”そのもの。
今までの生活の積み重ねの総量です……
三兄弟なんて、本体の前では……」
ラクティが補足する。
「“鼻くそみたいな存在です!”」
「言い方!!」
だが、ラクティの言葉は事実だった。
内臓脂肪。
つまり、長年蓄積されてきた俺の“生活の結果”。
三兄弟が象徴するのは“ここ最近の悪習慣”。
しかし本体は違う。
アディポス本体は、俺の人生の一部だった。
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◆ 場面転換:腸内王国 深層《アディポスの玉座》
暗い。
重い。
ぬるりとした脂の匂いが漂う。
玉座の間で、魔神アディポス・ベリーの巨大な影が動いた。
『クク……
尖兵どもが負けたか。
面白い。
宿主はこれまでの者とは違うようだな……』
脂肪と脂肪の間から、“眼”がゆっくりと開かれる。
その瞬間、王国全体に脂の波動が広がった。
『だが……まだ甘い。
三兄弟ごときで得意になるなよ……』
彼は天井を見上げ、呑み込むように言った。
『ワシが本気を出すまで、あと──三ヶ月。
それまでに、どれだけの“蓄積”を削れるか。
見せてもらおうではないか……育菌覇王候補よ』
脂の波動が、腸内王国の全てを震わせた。
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◆ 第六章本編:アディポスの“宣戦布告”
腸内王国に召喚された俺は、
ビフィズス十三世の前で説明を受けていた。
『レンよ。
アディポス・ベリー本体が、ついに宣言した。
“本気になるまで三ヶ月”と……』
「三ヶ月……?」
ラクティが説明を補足する。
「魔神アディポスは、“長期戦”でしか倒せません。
三日坊主の努力では何も変わらない……
一週間頑張っても、表面が揺れるだけ……
でも三ヶ月続ければ、魔神の“根”を削れるんです!」
セラフィミアが言う。
「内臓脂肪は……
すぐには減りません……
でも……
3ヶ月……続ければ……
“代謝の地形”が変わり始めます……!」
代謝の地形?
なんだそれ。
ラクティが簡単な例えで説明してくれた。
「あのですねレン様。
雨が降ったとき、
“砂場”と“アスファルト”では、
水の流れ方が全然違うじゃないですか!」
「まあ……確かに」
「魔神の脂肪層は“砂場”なんです。
どれだけ頑張っても、すぐに沈んでしまう。
でも、三ヶ月続けると……
腸内王国の地形が、“脂肪が溜まりにくいアスファルト”になるんです!」
「それめっちゃわかりやすいな!」
ビフィズス王が重々しく言う。
『そのために必要なのが……
“三ヶ月チャレンジ”。
これは現実世界でも必要な期間だ』
俺はごくりと唾を飲み込んだ。
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◆ “3ヶ月チャレンジ”の全貌
ビフィズス王が大きなスクリーンを出した。
『レンよ、これが“腸内王国三ヶ月計画”だ。
いわばアディポス本体への総攻撃作戦……!』
スクリーンには、三つの柱が表示されていた。
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① 生活リズムの固定(副交感安定)
•朝:白湯 → 味噌汁 → 果物
•夜:ホットミルク → 軽い間食のみ
•23:30〜7:00で固定(寝る・起きる時間の一貫化)
『腸内王国のリズムが安定すれば、
聖女セラフィミアの力が飛躍的に高まる』
セラフィミアが真剣な表情で頷く。
「私……この三ヶ月で……
レン様の“メンタル領域”をもっと強くできます……!」
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② 食事選択の固定化(魔神への燃料カット)
•野菜 → タンパク質 → 炭水化物
•発酵食品を一日一回
•夜間の“無駄食い”をゼロに
ラクティが胸を張る。
「三兄弟も、これなら暴れられません!」
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③ 軽い運動で“燃焼路”を開く
•一日10〜15分の歩行
•週2〜3回の軽筋トレ
•長時間座りっぱなし禁止
ビフィズス王が説明する。
『体が動くほど、王国の“代謝兵団”が強化される。
そして……
三ヶ月後、アディポス本体と戦う力を得られるのだ。』
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◆ 現実世界とリンクする仕組み
セラフィミアが両手を胸の前で交差させ、説明を始めた。
「レン様……
王国の一日は、現実世界の一日とリンクしています……
つまり……
現実世界での“三ヶ月”=王国の“三ヶ月”なんです」
「当たり前だろ!?
意味深に言うから異世界時間かと思ったじゃん!」
ラクティが補足する。
「でも重要なのは、時間じゃなくて……
“やった日だけ王国が強くなる”という点です!」
「え、じゃあサボった日は?」
ビフィズス王が冷ややかに言った。
『“王国の時間が動かない”。
つまり、アディポスが有利になる』
「うわぁ……それはプレッシャー」
セラフィミアが俺の袖を掴んだ。
「で、でも……!
たった一日サボったくらいで、終わりじゃありません……!
大事なのは……
また翌日、ちゃんと戻ってくることです……!」
ラクティも真剣に言う。
「レン様、三ヶ月全部完璧は絶対に無理です!
でも……
“7割できたら勝ち”です!」
俺は息を吐き、決意を固めた。
「……よし。
三ヶ月……やるよ。
アディポス本体を倒すために」
セラフィミアの瞳が大きく輝く。
「れ、レン様……!
わ、私……全力で……支えます……!」
ちょっと頬を赤らめながら言うのが可愛い。
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◆ そのとき──魔神の“本気の声”が聞こえた
王国全体が突然、揺れた。
地震……いや、もっと深いところからの震動。
『……クク……
なるほど。
面白い。
育菌覇王候補よ。
三ヶ月……本気でやってみせろ……』
その声は、世界の底から響いてくるようだった。
『ワシはただ待つのではない。
この三ヶ月で、
“お前の弱点”を徹底的に攻めてやろう』
弱点?
ラクティが青ざめた。
「れ、レン様……!
魔神は……宿主の生活を見抜いて攻撃してきます!」
セラフィミアが震える声で言う。
「夜の誘惑……
忙しい日のストレス……
会食や飲み会……
孤独や不安……
そして……
“継続を折る一撃”……」
ビフィズス王が言う。
『アディポス本体との戦いは……
決戦ではない。
これは“生活そのものの戦い”だ。』
そのとき、空に巨大なカウントダウンが浮かび上がった。
《アディポス本体覚醒まで──92日》
ラクティが叫ぶ。
「レン様……!
とうとう始まりました……
**三ヶ月覚醒計画**です!」
セラフィミアも頷く。
「この三ヶ月……
れ、レン様の身体も……
メンタルも……
人生も……
確実に変わります……!」
俺は拳を握った。
「よし……やってやる。
“腸からの反乱”、三ヶ月続けてやるよ!」
王国の空に、黄金の光が広がった。
長く、静かで、重い戦いが、今──始まった。
健康に至れ




