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第4章 腸内の白い聖女《セラフィミア》

健康であれ

魔神アディポス・ベリーが半実体で姿を見せた翌日。

俺の腸内王国は、朝からざわついていた。


『レン様! 王国の聖域から光が立ち上っています!』


肩の上でラクティが大騒ぎだ。

白い毛並みの菌ペットが跳ねるたび、

俺の胃のあたりがむずむずするのはもう慣れた。


「聖域? 何があるんだ?」


『そこには“善玉の本源ルーツ”が眠っているんです。

でも……今まで封印されてて誰も入れませんでした』


封印が解かれた?

どうして?


その疑問に答えるように、ビフィズス十三世が重々しく言う。


『昨夜の“ナイト・パラソル”により、

王国の副交感領域が安定したのだ。

長き眠りから“白の聖女”が目覚めたのだろう』


白の聖女──名前からして絶対に強い。

しかし問題はそこじゃない。


「……なんで俺の腸には、そんなRPGのラスボス前みたいな施設があるんだ?」


『人間なら誰しも持っておるわ。

だが汝のは……“未開発のまま長年放置”されていた』


「ごめんね俺の腸……」


ラクティがぽんぽんと俺の頬を叩く。


『謝る相手は腸じゃなくて“聖女さん”ですよ!

あの人、たぶん長いこと眠ってて……めちゃくちゃお腹すいてるはずです!』


腹が減る善玉菌の聖女。

なんでそんな設定なんだ。



◆ 腸内王国・光の聖域《ラクティア神殿》


光に満ちた聖域へと向かう道は、今までの腸内世界とはまるで別物だった。

透き通るような乳白色の樹々、金色の菌果が実る木、

小川には乳酸の小魚が泳いでいる。


「たぶんここ……胃腸が絶好調の人だけが持ってる世界だよな?」


『ええ。でもレン様の場合、

“うっかり寝てたお城”みたいな扱いになってました』


「うっかりって何だよ!」


ラクティが神殿の扉を押すと、

中からふわりと柔らかい光がこぼれ落ちた。


そこに──彼女がいた。



◆ 白髪の少女、ゆっくり覚醒


少女は光のまゆの中に倒れていた。

白い髪がふわふわと広がり、

淡い水色の瞳はうっすらと涙を浮かべている。


白いワンピースのような菌衣。

肌は透き通るように白い。

そして何より──


めっちゃ可愛い。


「お、おい……大丈夫か?」


俺が手を伸ばすと、

少女は目をぱちぱちと瞬かせて起き上がった。


『……あ……あなたが……

わ、私の……ご主人様……?』


「違う違う違う! まだ何もしてない!!」


いきなりのご主人様呼びに動揺していると、

ラクティが俺の腕を引っ張る。


『レン様!

彼女は《セラフィミア》。

善玉菌系の中でも“メンタル・免疫”を司る最上位種です!』


最上位種!?

俺、そんなレアキャラの飼い主になるの?


少女──セラフィミアは立ち上がろうとして、

足がもつれて前のめりに転んだ。


『ふぎゃっ!?』


ごちん、と額をぶつける。


「大丈夫!? いや、天然すぎだろ!!」


『ご、ごめんなさい……

起きたばかりで……方向感覚が……』


そう言って立ち上がろうとするが、

また足がすべってこける。


『ふぎゃああああ!!』


「なんで二回転んだ!?」


ラクティが説明してくれた。


『聖女なのに……ドジっ子なんです』


役職と性能が噛み合ってなさすぎる。



◆ セラフィミアの“能力”と大問題


ようやく落ち着いたセラフィミアは、

胸に手を当てて自己紹介を始める。


『私は腸内の《メンタル安定》《免疫上昇》を担当する

善玉系統の上位存在……

でも……その……ちょっと……

方向音痴で……よく転んで……

ぽんこつって言われてました……』


「自分で言うな!!」


ラクティが肩をすくめた。


『でも聖女さんの力は本物ですよ。

心の安定物質《セロトニンの泉》を呼び出せるし、

免疫兵“NKナイト”を強化できます』


「めちゃくちゃ頼もしいじゃん!」


しかしセラフィミアは、うるんだ目で俺に言った。


『あの……

私、長い間眠っていたので……

その……

お腹が……すきました……』


ぐぅぅぅぅぅ……。

妙にリアルな腹の音が神殿に響く。


ラクティが俺を見上げる。


『レン様、どうしますか?』


どうするも何も。


「とりあえず……食べさせてやろう。

俺が何か食べれば、腸内王国にも届くだろ?」


『さすがレン様!

では、発酵食品を!』


セラフィミアがぱあぁっと顔を輝かせる。


『納豆……味噌汁……ヨーグルト……

どれでも……嬉しいです……!』


その笑顔が眩しすぎて、心臓が跳ねた。


「……じゃあ、味噌汁にするか」


『好き!!!』


「えっ!?」


『味噌汁が……大好きです!!』


よかった、味噌汁への愛だった。



◆ 聖女の暴走と、腸内王国の騒ぎ


俺が味噌汁を飲むと、

腸内王国に金色の光が降り注いだ。


次の瞬間──


『ああああああああ!!

美味しいですぅううううう!!』


セラフィミアが全力で跳ね回る。

スキップ、逆立ち、壁走り。


「おい聖女! 落ち着いて!!」


『味噌汁最高ーーー!!』


ラクティが俺の耳元で説明した。


『セラフィミアさんは、

味噌汁にテンションが上がりすぎる体質なんです』


完全にバグってる。

でも可愛い。


腸内兵士たちがざわつきはじめる。


『聖女様が……!』

『聖女様の舞だ!』

『久々の味噌汁でハイになっておられる!』


めちゃくちゃ盛り上がってる。

なんだこの世界。



◆ そして──アディポス覚醒の予兆


聖域が笑いに包まれたそのとき。


空が一瞬だけ“黒く”染まった。


ビフィズス王が険しい声で言う。


『レン……

アディポス・ベリー本体が動き始めた』


ラクティや兵士たちの表情が強張る。


セラフィミアも跳ねるのを止め、

青い瞳を揺らした。


『あの魔神の力は……

私でも、ひとりでは止められません』


「でも……一緒ならどうだ?」


俺は手を差し出した。


「ラクティも、お前も、ビフィズス王も。

みんなで戦えば……倒せるだろ?」


セラフィミアの頬が赤く染まる。


『……はい。

レン様と……一緒なら……

戦えます……っ!』


その直後、王国全体に轟音が響いた。


『――魔神アディポス・ベリー覚醒まであと6日!!』


腸内王国の最終決戦が、静かに幕を開けた。

健康に至れ

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