第3章 内臓脂肪魔神アディポスの影
健康であれ
昼休み。
「野菜 → タンパク質 → 炭水化物」の三段構えを守るべく、
俺はサラダから食べ始めていた。
だが――。
ぐぅううううううううううううう。
腹が鳴った。
全力で鳴った。
もはや校庭のチャイムレベルで鳴った。
「……おい、ラクティ。今の何?」
肩に乗った菌ペットが小さく手を挙げた。
『あっ、すみませんレン様。
ぼくが王国の伝令に“腹鳴らし通信”を使ったので……』
「腹鳴らし通信って何だよ!」
『ほら、音で連絡取るやつです。
“今、炭水化物来るぞー!” みたいな』
「もっと静かにやれ!! 職場なんだぞ!?」
ラクティはしゅんとし、尻尾(菌糸)がしょぼんと垂れた。
『……すみません……じゃあ次から“屁通信”にします』
「それは絶対やめろ!!!!」
俺の胃腸の弱さとラクティの無邪気さが合わさって、
腸内王国からの通信方法がだいぶ迷惑仕様になってきている。
これはこれで問題だ。
気を取り直して食べ進め、三段構えの儀式を終えた瞬間――
脳内にビフィズス十三世の声が響いた。
『レンよ、王国の観測塔が異変を感知した!
“アディポス・ベリー”の瘴気が強まっておる!』
「魔神アディポス……来るのか?」
『まだ本体ではない。
だが、おぬしの夕方のストレスと、
21時のポテチ欲求が高まると、
やつの“半実体”が現れるだろう』
ラクティが震える。
『半実体のアディポスは……とにかく腹にくるんです……!
下っ腹を……グワァァって……』
「具体的に言え!」
『つまり下痢です!』
「やめろ! 読者にイメージを残すな!!」
⸻
■ 仕事のストレスが“悪玉軍”の好物
午後、職場の会議が始まった。
上司「この案件、明日までに再分析よろしくー」
俺「明日まで……!?」
その瞬間、腸内王国から警報が鳴った。
『ストレス値上昇!!
悪玉軍が“ストレス乳酸”をばら撒いております!』
『キャー!! 腸バリアが薄くなるー!!』
『兵士たちを守れー!』
ラクティも慌てふためく。
『レン様、落ち着いて!
深呼吸しましょう!
すーっ……はー……
……あ、ぼく鼻がないんだった』
「無いのかよ!!」
息を吸うフリをする菌ペットってなんだよ。
しょうがないので俺が深呼吸をすると、
腸内王国のバリアがほんのり光り始めた。
『よし! バリア値が5%回復しました!』
……5%。
少ないな!
⸻
■ 帰宅後、ついに“奴”の影が現れる
帰りの電車。
疲労・ストレス・眠気が重なり、
ポテチ欲求の悪魔が囁いてきた。
「……今日は……ちょっとだけ……」
『だめですレン様!
夜の“ナイトカロリー”はアディポスの直通エネルギー路線なんです!』
ラクティが必死に俺の頬をむにむに叩く。
そこへ巨大な影が現れた。
金色の肥大化した体躯。
脂肪の塊がウネウネと蠢き、
目はドロドロに濁った黄色の光。
『ククク……我は内臓脂肪魔神“アディポス・ベリー”。
人間よ……夜のポテチを食え……
お前の弱点は知っている……』
ラクティが俺の耳元で叫ぶ。
『レン様!
あれは“半実体”です!
今なら撃退できます!
ほら、これを!!』
ラクティが差し出したのは、小さな“腸光の種”だった。
「これ……何に使うんだ?」
『ホットミルクを飲むと発動します!
名付けて、《夜間副交感覚醒》!!』
「技名がいちいち派手なんだよ!!」
とにかく帰宅後、俺はホットミルクを作り、ゆっくり飲んだ。
その瞬間、アディポスの姿が揺らぎ始める。
『ぐおおおお……!
副交感神経を……落ち着かせるとは……!
人間め……なかなかやる……!』
ラクティが勝ち誇った声を上げる。
『アディポス、撤退しました!
レン様、やりましたね!』
「……よし!」
だがビフィズス王の声が重く響く。
『レンよ、調子に乗るでない。
今のはあくまで“半実体”。
本体はもっと巨大で……もっと脂っこい』
もっと脂っこい魔神ってなんだ。
ラクティがぷるぷる震えながら言った。
『あの大きさ、唐揚げ10個分って感じでした……』
「単位が唐揚げってやめろ!!」
⸻
■ そして、本体覚醒のカウントダウンが始まる
その夜。
腸内王国の空に巨大な脂肪の月が現れた。
『レンよ……
魔神アディポス・ベリー本体の目覚めまで、あと“七日”じゃ』
ラクティの瞳が真剣になる。
『レン様……
一緒に……戦い抜きましょう』
俺も拳を握った。
「当たり前だ。
絶対に……腹の贅肉ごと倒してやる!」
こうして、
内臓脂肪魔神との本格的な戦いの幕が上がろうとしていた。
――育菌覇王への道は、まだ始まったばかりだ。
健康に至れ




