2. 同窓会
同窓会の会場に到着した。人数も多いのでホテルで開催される。落ち着いたワンピースを着てホテルに足を踏み入れるだけで、大人の階段を登ったような気がする。
「――乾杯!」
グラスが重なり、歓談が始まった。中学時代の思い出話に花が咲く。修学旅行や文化祭、体育祭など……忘れていたのにクラスメイトたちと話せば、すぐに当時のことが頭に浮かんでくる。
「竹宮くん、確かに奈々美ちゃんのこと見てたよね」
「そうそう。よく話しに行ってたし」
はるくんがあの時から私のことを見ていたと思うと、顔が熱くなりそう。というか、みんながわかっていたというのがちょっと恥ずかしい。
「それにしてもみんな大人になったよね。誰だかわからない人いたよ」
「そうだね、喋ったらわかるんだけど」
周りの女子たちは垢抜けていて綺麗だ。一方の私は……ちょっとは大人っぽくなったのかな。中学の時からそんなに目立たなかったけど。
バイキングの料理を取りに席を立ち、移動しているとどこかから声が聞こえた。
「え……あの子が竹宮くんの彼女?」
「子どもっぽくない?」
「釣り合わないよね」
――胸がチクっと痛む。
わかってた。そういう風に言われることぐらい。
はるくんはクラスで、いや学年で一番かっこいいって言われていて、頭もいいんだもの。私みたいな普通の人には手が届かない存在。
表情を変えずに料理を取ってどうにか席に戻る。思わず大きなため息が漏れた。
気にしないようにしようと思っても、さっきの人たちの視線が突き刺さる。落ち着かないと……私。
「……梅野さん?」
「……え?」
顔を上げると、そこにはどこかで見たことのあるような人がドリンク片手に立っていた。
「えーと……麻生くん?」
「そうだよ、久しぶりだな」
麻生くんは同じクラスの男子で、一度席が隣同士になったことがあった。穏やかで話しやすいし、同じ歴史好きということもあって気が合う人だった。
「ほんと久しぶりだね、元気してた?」
「うん、大学で歴史研究サークルに入っててさ。楽しんでる」
「そんなサークルあるんだ、いいなぁ」
麻生くんはスーツが似合っていて大人っぽかったけど、あの時と変わらない笑顔だった。
「俺、中学のとき歴史マニアって言われてたけど、梅野さんだけはそういう話ができたから嬉しかったんだ」
「私も。麻生くんと話すの、いつも楽しみにしてた」
「本当?」
彼がくしゃっと笑う。私はさっきまでの胸の痛みが、徐々におさまっていくのを感じた。
「そうだ、サークルで鶴岡八幡宮に行ったんだ」
麻生くんがスマホの写真を見せてくれた。青い空に立派な社殿、鎌倉の文化と歴史がたくさん詰まってそう。
「いいなぁ、私も今度行こうかな」
「おすすめだよ」
そのあとも彼と話したり、他の人と話したり、クイズ大会で盛り上がったりして、同窓会は無事に終了した。
「奈々美、顔赤いけど大丈夫?」
「あ……うん。ちょっと酔っちゃったかも」
すみれちゃんに支えられて外に出ると、そこで麻生くんが待っていてくれた。
「梅野さん、少し話できる?」
「うん……大丈夫だよ」
すみれちゃんと別れて、麻生くんと夜の道を歩いた。寒いはずなのにお酒を飲んだせいか、外が涼しく感じる。
――と思ったら、目の前が歪んで見えた。
「梅野さん! 大丈夫?」
麻生くんに支えてもらった。距離が一気に近づく。
「ごめん……どうにか。ちょっと座りたいな」
駅近くの広場のベンチで休憩することにした。彼が自販機でペットボトルの水を買って来てくれる。
「ありがとう、麻生くん」
お水を飲んで少し落ち着いた。外の冷気に触れて酔いも覚めてきた。
「……久しぶりに飲んだから。もう平気」
「良かった」
しばらく沈黙の時間が流れたけど、どこか心地良く感じた。
「……梅野さん」
「なに?」
麻生くんは少し真剣な顔つきで言う。
「俺……中学のとき、梅野さんのことが好きだった」
「え……」
急にそう言われて心臓の音が響く。
「君と喋っているときが一番楽しかったんだよ」
「……そうだったんだ」
「だけど……竹宮と仲良さそうに見えて、結局伝えられなかったんだ」
麻生くんもはるくんのことに気づいてたんだ。確かにみんなが言う通り、当時からはるくんとよく話していたっけ。
「それで今日聞いたよ。竹宮と付き合ってるんだってな」
「うん……だけど……」
釣り合ってない、とか言われちゃったな……いけない。私ったら何考えてるんだろう。
「……何かあった?」
「あ……彼は人気があって優秀だから、私でいいのかなって……ふと思っただけ」
麻生くんは私のほうをじっと見る。
「今の君が大事にされてるなら、それでいいと思う」
「うん……」
「……あと梅野さんだって、俺から見たら魅力的だよ」
「え?」
彼にまっすぐ見つめられて、時間が止まったかのよう。
「……もし泣く時は、無理に強がるなよ」
「麻生くん……」
彼の手と私の手が触れそうになる。
胸の鼓動がおさまらず、静かな夜のベンチで――私たちはしばらく見つめ合っていた。
冬の夜気が火照った頬を撫でる。それが少しだけ、心を落ち着かせてくれた。
――大人になるって、選ぶ強さを持つことなのかもしれない。
選ばなかった道に、心が揺れたとしても。




