1. 成人式
「おはよう、奈々美」
「おはよう」
早起きをして朝食を食べる。コーンスープの入ったマグカップを手に持つと、じんわりと身体が温まってきた。
私――梅野奈々美は今日、成人式に出席する。
20歳なんてまだ先だと思ってた。だけど気づけば大学に入り、誕生日を迎えていた。20歳といっても大きく変わるわけではないけど、こういう式に出るとなると大人になったのかなと思う。
お母さんと松永先生が、隣で仲良さそうに喋っている。松永先生は中学3年のときの副担任だった。眼鏡で大柄、髪が肩まであって怖い顔の先生だけど、生徒思いの優しい先生。今日の成人式は中学校で開催されるので、当時の担任の先生たちも来てくれる。
そんな先生はお母さんと結婚して(お母さんは再婚して)、今は義父になった。先生もスーツを着て準備をしている。
「ふふ。弦くん似合ってる」
「ありがとう、凛々子さん」
弦くん、というのは松永先生。凛々子さん、というのはお母さんのことだけど、名前で呼び合う両親って、ちょっとむずがゆい。でも、なんだか嬉しい。
準備もできたので、私たちは出発する。
まずは振袖の着付けのお店に行く。
「奈々美さんは振袖が似合うだろうな」と先生の低い声で言われて、ドキっとしてしまう。イケオジの松永先生は女子からも人気があるから、私の義父とわかったらみんなびっくりするだろうな。
ヘアメイクと着付けをしてもらって背筋が伸びる。淡い桃色の振袖に薄いミント色の帯。裾にある小花模様が春らしくてお気に入りだ。アップにした髪には桜をイメージした髪飾りが揺れている。
未来は遠いと思っていた。でも今――振袖の袖の重さが、その距離をすっと近づけてくれる。
「素敵よ、奈々美!」
「綺麗だな、奈々美さん」
お母さんと先生に褒めてもらって笑顔になる。私たちはそのまま会場の中学校まで行き、門の前で家族写真を撮った。
すると「奈々美ー!」という声が聞こえてくる。
振り返るとそこには中学時代で一番仲の良い友達、菊川すみれちゃんがいた。黒の振袖に白銀や桃色の花が描かれている。華やかですみれちゃんらしい振袖で、凛とした印象がある。
「すみれちゃん! お洒落な振袖だね」
「ありがとう! 奈々美も綺麗」
2人で撮影をしてもらうと、クラスの子たちが次々と集まってくる。適当に記念撮影をしつつお喋りを楽しんでいると、男子たちがやって来た。
「あ、竹宮くんいる! スーツ似合ってるね」とすみれちゃんが言う。
竹宮晴翔くん――かっこよくて中学時代に人気のあった、私の……彼氏。私は「はるくん」と呼んでいる。
はるくんはすぐに私に気づいてくれた。
「奈々ちゃん……すっごく綺麗」
「ありがとう、はるくん」
「写真撮ろうよ」
彼と写真を撮っていると、何人かに話しかけられた。
「奈々美ちゃんと竹宮くんが付き合ってるって本当?」
彼はクラスだけでなく、学年の女子にも人気があったので、気にする人が多いみたい。
「あ……うん。付き合ってるの」
「わぁーそうなんだー! いつから?」
「高1から……」
「え? けっこう長い!」
そう、私たちは中学を卒業してすぐに付き合ったので、もう5年以上経っている。色々あったけど、はるくんは私のことを大事にしてくれる優しい人だ。
気づけば式典が始まる時間が迫っており、私たちは体育館へ向かう。
式は滞りなく進み、ああ本当に成人したんだと自覚が少しずつ湧いてきた。
無事に式典が終了し、担任の先生やクラスの子たちと写真を撮ったり、会話を楽しんだ。松永先生も何人かと写真を撮っている。
すると、誰かの声がした。
「松永先生、指輪がついてる。結婚したの?」
指輪に気づいた瞬間、その周りの空気が少しざわついた。
「ああ、そうだな」
すみれちゃんはじめ、松永先生のファンの子はそこそこいる。先生が義父ということで、私はその子たちに囲まれた。
「奈々美ちゃん、松永って家ではどうなの?」
「私、一人暮らしだからあまり知らないけど……多分そんなに変わらないよ」
「いいなー! 松永がお父さんだなんて」
「竹宮くんにも松永にも愛されるって羨ましい」と、すみれちゃんにも言われる。
「愛されてるって……照れちゃうよ」
「松永は絶対奈々美のこと、大切にしてくれているよね」
確かに松永先生は優しい。中学の時も受験前などにたくさん励ましてくれた。
「うん、お母さんのことも大事にしてくれるよ」
お母さんは先生と過ごすようになって、以前よりもさらによく笑うようになった。
一通りお喋りを楽しんだあと、私たちは学校を後にした。
「そうだ、学年同窓会行くよね?」
「行くよ」
「みんな来るかなー」
「またあとでね!」
夕方には学年同窓会がある。私はワンピースに着替えてから、すみれちゃんと一緒に会場に向かった。




