第一章1「森の匂いと異世界の角兎」
はじめまして。初めての投稿になります!
――ザァァ……。
風が木々の葉を揺らし、柔らかな光が木漏れ日となって降り注いでいる。
僕は、見知らぬ森の中で立ったまま、目を覚ました。
「……え?」
ふわりと土の匂いが鼻をかすめる。足元は落ち葉でふかふかしていて、どこからともなく鳥の声が聞こえた。目の前には、背の高い木々がずらりと並び、見上げればその葉の隙間から青空がのぞいている。
何が起こってるのかわからない。
さっきまで――確か、さっきまでは。
「……幼馴染と、一緒に……中学校に、行く途中だった……よな?」
制服の感触も、朝の太陽も、駅へ向かう道も、ちゃんと覚えている。
なのに、どうして僕は今、森の中に立ってるんだ?
記憶を遡る。登校の途中、横断歩道を渡ろうとした――その直後だ。眩しい光が視界を覆い、気がついたときには……。
その時、不意に脳裏に焼き付いたような映像が蘇る。
神様――そう、神だ。性別すら分からない、顔のぼやけた存在。
あれは夢じゃなかったのか。
『君に、お願いしたいことがある』
確か、そんな風に言われた。けれど、何を頼まれたのかは思い出せない。声も、どこか機械のように無機質で、人間らしい感情の欠片すらなかった。
「…………。」
戸惑いと不安が胸に広がっていく。すると突然、左手側の草むらから――
ガサッ
「うわっ!?」
思わず声が出た。心臓が跳ねる。
後ずさりながら、草むらをじっと睨みつける。風か? いや、それにしては明らかに不自然な音だった。
――僕、今、丸腰だよな?
足元の枝を拾って構えた。震える手。額にじんわり汗が滲む。
そして数秒後、草むらから姿を現したのは――
「……ウサギ?」
白と灰色のまだら模様の、小さな動物。
でも、よく見ると、頭には左右対称に、湾曲した角が生えていた。
「…………は?」
角、だよな……? これ、普通のウサギじゃないよな? え、なにこれ、モンスター?
目をぱちぱちと瞬きしながら、混乱する思考を整理しようとする。
「え、ええと……これ、異世界転移……?」
最近ハマってたアニメの記憶が脳裏をよぎる。よくあるテンプレ展開。気がついたら異世界、魔物、チート能力。まさか、あれが……現実に?
「ハハ……」
乾いた笑いが漏れた。
今目の前を通り過ぎていくのは、さっきの角ウサギと、もう一匹――子ウサギだろうか。二匹は親子のように寄り添って、のんびりと森の奥へと消えていく。
まるで、僕の混乱など気にも留めないように。
「……なんだよ、これ……。」
現実感がない。だけど、この風、この匂い、この音、この痛み――全部リアルすぎて、夢じゃないとしか思えない。
次の瞬間、ズキン、と頭に痛みが走った。
「……っ、痛っ……」
こめかみを押さえる。視界がぐらりと揺れる。いっぺんに色んなことが起こりすぎて、脳がついていけない。
「こんなの……キャパオーバーだよ……」
ふらふらと、近くの木に寄りかかる。そのまま、目を閉じた。
体が、じんわりと冷えていく。
……僕は一体、どこに来てしまったんだろうか。
まだ、この時の僕は知らなかった。
この森の奥に眠る洞窟が、すべての始まりとなることを――。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!
僕が思い描いていた物語を、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
初投稿ということもあり、緊張しながらの執筆でしたが、無事に公開できてホッとしています。
よろしければ、次回もお付き合いいただけると幸いです!






