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星のきょうだい

作者: A-10

1 ・ 知らぬ間に憑依されていた兄弟






(  完成した予言絵本は、本人にしか読むことが出来ない。

 

  そして死ぬまで口外してはならない。


  口外した者は罪人となる。 → 咎人とがびと…と呼ばれる  )







世界の終わりを二人で過ごす約束をした。



世界の終わりは近付いていた。



「 君を絶対に迎えに行くよ 」



二人が逢うのはいつも夜。



二人でいつも空を見上げた。



しかし…終わりの日、王子は来なかった。



姫は言う。



「 かくれてないで、でてきてよ 」



姫は泣く。



『 …違う… 』『 違うんだ… 』



王子は二人が見上げていた空の星になっていた。



世界が終わり、姫も空の星になった。





☆彡



目に涙を溜めながら覚醒する。

最近、頻繁に見る絵本のような夢。

高校生男子は頭を悩ます。


オレはメルヘン少女か!


寝癖のついた頭を大きく振る。彼は星埜(ほしの)

弟が一人いる。弟といっても双子だ。顔は似ていない。

朝食の席につき、弟に夢の話をしたが思った通りバカにされた。

なんでかな、いつもだったらこんな話、しないのに。


……………。


「 つーかさ、お前…朝から食いすぎだろソレ。大丈夫かぁ? 」

そう言う兄に、


「 ふぁんふぁお、うぃふもも…話じゃん! 」


ほっぺをリスのように膨らましながら口の中の食べ物を飲み込むと、元気よく答える弟。


「 はぁ?なんて? 」


「 だからぁ、いつもの話じゃんて! 」


「 ……あぁホント、いつも朝からテンション高ェ-よなぁ……ふわぁあ~あ 」


朝に強い弟と、

朝に弱い兄。


双子なのに、こうも違うものか…。


☆彡




学校へと登校する二人。


兄 →空夜(くうや) ・弟 →空火(くうか)


地元の同じ高校に通っている。1クラスしかない小さな学校だ。

和やかな雰囲気の田舎町が、彼らの暮らす故郷。

周りには山々が連なり、清流が海へと続く。農業、漁業、林業、畜産業、全てが安定しており、商店街や公共施設も充実している。

ゲームセンター、カラオケ等の娯楽遊技場が多数あるので、田舎ながら人口は過疎とは無縁で若者が意外に多い。


今、季節は秋。


この地域は生産地として恵まれている為、観光などには力を入れていない。

しかし、観光客が訪れる珍しい時期がある。

それは、祭りの時だ。

生産系の仕事が多いので、祭りを大事にする。

そして今がまさにその時期なのである。

双子の通う高校でも文化祭が行われる。観光客が文化祭に流れて来るのも毎年の事だ。

連日遅くまで文化祭の準備を頑張る生徒達。

それもなんとか落ち着いた、その時…


「 なあなあ、かくれんぼしよーぜ!かくれんぼ! 」


はしゃぎながら話す少年は、双子の弟・空火だ。

高校生ですから、そんなものはシカトですよ。

しかし…


『 いいねー!! 』


…みんなヤル気、満々だ…。

空夜は呆れながら、自分は疲れたので友人たちの楽しそうな声を背に帰路に着いた。

彼は運動部に所属しており、部活動の後に、次は文化祭の準備、しかも部に所属している者たちは、クラスの出し物と両方を掛け持ちしなければならず、この時期はいくら若者でも、かなり疲れる。

人手のない田舎の高校ならではだ。


人のいい人物だと、他の部活の方も自主的に手伝ってくれる。

この高校は、仲の良さが一番の長所だと、生徒たちは胸を張る。


だからか分からないが、疲れているにも関わらず『 かくれんぼ 』を全力で楽しむ生徒たち。



まぁ、息抜きにはなるかもね!




☆彡



時計が夕飯時を示す。

帰らない空火。

まあ、文化祭の時期だし、という事であまり気にしない家族。

遅くなる時は忙しくとも必ず連絡を入れる弟なのに…。



時計の針が深夜を指す。

帰らない弟。

家族は誰かの家に泊まってるんだろ、とお気楽だ。

さすがに気になって来た兄。

双子は片割れがいないと落ち着かないのか、電話をかけ始めた。

留守番電話に繋がるギリギリのところで、弟が電話に出た。

寝ぼけた声が耳に届く。


「 あ~~~い…。もしもし…? 」


「 お前、今どこにいんだよ? 」


「 …ん?あれ?ここ、どこだ? 」


「 ・・・・。 」


「 なんか…メルヘンな感じ…暗くて良く見えねぇんだけど 」


「 …まさか、学校で寝てたのか? 」


「 えっ!? 」



段々と意識が覚醒していく。



「 …お、おおっ!?これは………まさしく学校だ! 」


「 …おいおい…。お前、一人? 」


「 …あー…、そのようですな……誰もいねえ…。つーか……えっオレ一

人!?うわっ!なんか怖くなってきたあ…。兄ちゃーん、むかえに来てえ…? 」


「 こういう時ばっか兄ちゃんっつーな! 」




☆彡



結局、迎えに学校へと向かう空夜。


しかし、弟を懲らしめる為にワザとゆっくり歩いた。

充分に時間をかけ、学校に到着する。


【 アリスの不思議な迷路 】…これはクラスが団結し、つくり上げた超大作だ。

看板を横目にしながら進んだ所に、いた。

空火だ。


声をかける。

しかし返事は無い。

待っている間にまた寝てしまったのだろう。

怖いといいつつ寝てしまう神経の図太さは呆れてしまう。


肩に手をかけ、揺すって起こす。

弟はゆっくりと瞼を開けた。

そして、兄の顔をじーっと見つめる。

どうしたー…っと声をかけている途中で涙をポロポロ流し始めた。


はっ!?


ビビる空夜。


弟が泣くところをスっゴく久しぶりに見たので、マジで焦る! ガキか!? コイツは!?

…しかし、よほど怖かったのだろう……寝てたけど。


はあ…。

ため息をついている時だった。

弟が口を開いた。


「 …もう来ないんじゃないかと思った… 」

弟は震える声で言う。


「 …わ、悪かったよ。だけどお前さあ、男なんだから気合で帰って来いよ 」

「 …男… 」

「 そう、男。どうだ、野生が戻って来たか?空火さんよ! 」


「 私、男じゃないっ! 」


「 うわっ!えっ!?はっ!? 」


一瞬、時が止まった。





固まる兄だが、すぐに元に戻り、

「 ー…お前、何ふざけてんだ…(-_-;) オレも悪かったよ、遅れて来たからそれで怒ってんだろ? ほら、サッサと帰るぞ。まったく…。」

しかし動こうとしない弟。


「 ……。 」

空夜は次第にイラついてきた。

いや! ここでキレたら悪化するだけだ!

ぐっと堪えて弟を立たせようと手をかける。


ひょいっ。

「 ? 」

簡単に持ち上がる。

「 空火、お前ちゃんと飯食って…るなあ、オレよりも。痩せの大食いってヤツか……」


「 …私、ご飯そんなに食べないもん… 」


あああ!?

ゾワゾワ~…!

鳥肌が立つ。


「 キモチ悪っ! お前、マジでキモいんですけど! 何、裏声とか使ってんの!? いいかげんにしろよな!(# ゜Д゜) 」


しかし、相手は逆ギレし始めた。


「 信じらんないっ! バカ! ふざけているのはそっちでしょ! 人をこんなに待たせて、ワケ分かんないこと言って! 」


驚く兄。


少し……なんか……さすがに……ちょっと……変じゃね?


「 お、おい…どうしたんだよ。お前さあ…疲れて頭ぶっ飛んでんだ…す、か?! 」


テンパり気味の兄。


「 寝よう。帰って寝ようか! うん、そうしよう、疲れてんだって! 」


空火の手を取って歩き出す。


「 ひゃっ! ねっ寝るって…! ぶっ飛んでるのはそっちでしょ! でっでも、嬉しいような… 」


ぐはあっ!! な、なんだこの破壊力は!

吐血する勢いだ!

いや…えっ!?

もしかして…空火じゃない人?!


オレ間違ったのか…?!


「 くっ空火…だよなあっ?! 」

「 うん。クウカだよ。どうしたの突然…ていうか、クウヤずっと変だけど 」



「 変なのは、お前だあーーっ!!! 」





怒鳴った時だった。

外灯の光が空火にあたる。

丁度、外灯の光があたる所まで歩いていたのだ。


「 !!! 」


な、なななんだ…この、カワイ子ちゃんは…!

そ、そういえばコイツ、アリスちゃんの女装をやる係だったっけ。

し、しかし…


「 メイクこええ…!化粧こええ…!お前それ、やたら可愛いな!すっげえクオリティ…!どうなってんですかっ!? 」


じーっと空火を見まくる空夜。

熱い視線を受けて顔を赤くする空火。



バっ!

勢いよく弟から離れる兄。



( ヤっヤベエ! 弟が…弟に…ときっ、ときめきそうになった…! あれ? これって今話題の男の娘ってやつなのか? )


動こうとする空火。


しかし…

「 フっフリーズっ!うっ動くなっ!! 」

テンパってる兄貴。


「 な、何か悪いヤツに憑りつかれたんだ!エクソシスト!エクソシスト!はっ!聖水だ!塩水!? 」



焦りながらも何か持っていないか、服の中をまさぐりまくり、

着ているパーカーから『 は〇たの塩 』が出てきた……。


というか、お弁当にかける塩が出てきた。

このパーカーは制服の上に羽織っていたもので、いつも着ているヘビーなローテーションのパーカーだ。


その塩を空火に見せながら、

「 は、○、た、のっ、塩 ♪ 」

なぜか歌う。



しーん・・・。



塩を見るとつい歌ってしまう、私の悪い癖っ!!

水がないので、とりあえず弟の頭にサラサラと振りかける。



さらさら~…



「 …何してんの? 」

「 やっぱダメかあ~っ! 」

「 オレ食ったって旨くねえゾ? 」

「 …えっ? くっ…空火? 」

「 何? 」



がしっ!



「 本当に空火なんだよなあっ!! 」

「 は?こっ恐いんスけど…ど、どうしたんだよ 」

「 は○たの塩すげえっ!あー…よかったあ… 」

「 くっ…空夜がヘン… 」



空夜は空火の肩に両手を置きながら頭を下げ、安堵の息を吐いた。




☆彡



しかし…


「 空火のアリスちゃん、ヤベエな… 」


クラスの男子はときめきを隠せない。

メイクをした空火ではなく、“ 憑依された ” 空火を見た少年たちは…興奮する!


空夜はクラスメート達に事情を説明した…。



・・・・・・・・・・・・・




空火は “ 塩をかけた1時間しか、元に戻れない ” ということが判明した…。

これは……厄介だ…。


弟・「 これは、は○たの塩ボロ儲けじゃん。すぐ塩なくなっちまう 」


兄・「 これ位でボロ儲けはねーだろ?つーかさ、どうする?オレは別にお前が妹になっても構わねーよ?可愛いし 」


弟・「 オレ、ヤだよ!記憶とんでんだぞ!キモちわりぃーし!塩なかったら死んでるも同じじゃん! 」


兄・「 …だよなあ… 」


弟・「 くっそー…、なんでオレだけ…ううー…くのやろ!! 」


兄・「 ブヘッ!おまっ何すっ… 」


兄に塩をバっとかけた。


兄・「 ……姫 」


弟・「 …なんだよ(笑) 」


兄・「 待っていてくれたんだね! 」


ガバッ!

弟に抱き着いてくる兄。





弟・「 ? 」


兄・「 なんか変な感じがする……。あれ?姫…男っぽくなったね? 」


弟・「 いやいや、男だから最初っから。…あー…オレが姫、ということは、例のあのコのことか?…フっ。ダッハッハッハっ!やぁった!兄キもか!ざまぁ! 」


兄のような者・「 ? 」


弟・「 だけど…空夜を戻す方法が分かんねエ…。…う~ん…1時間このまま?…間が持たねぇし…。…あっ!塩取ったらいーかも。空夜ちょっと来て 」


兄の手を引っ張っていく。


兄だった者・「 ひ、姫、どこに… 」




☆彡



風呂場に到着。


弟・「 脱ぐの上だけでいいか。上、脱いで 」


兄らしき者・「 …服を……脱ぐ…?と、いうことは、姫。身も心も一つに、ということかな? 」


弟・「 ?。いや、服脱がなきゃシャワー浴びれないだろ? 」


兄ならざる者・「 シャワーを……浴びる?…ということは、やはり!っ女性に、ここまで言わせて何もしないのは失礼というもの!姫ええ!! 」


ガバッ!

空火に勢い良く抱き着く。


弟・ビクッ

「 !!! 」

「 えっ!? 」

「 うぐっ! な、な! 何すっ! やっやめっ! っっひっ! ギャーーーっ!! ぬわっ! キッキモい! やっやめっろっ!! 」


グギギ…抵抗する空火。


「 力、強っ!くそがっ!! 」


キーーンっ!!


股間を蹴り上げる。


「 ふぬううっ!! 」


股間を押さえてうずくまる兄…?


急いでそのままシャワーをぶっかける。


兄・「 …ギャーっ!! っつめっ冷たいっ! 寒いっ! ぐおー!! 痛いっ! そして痛い! 何コレ! 股間が痛い!! 」


シャワーをかけながら、叫ぶ!

「 空夜、無事かあー!! 」

「 アホーっ!! 無事じゃねえっ!! 止めろっ! 寒いっ! なんで冷水なんだよっ!!(# ゜Д゜)

今、秋だぞ!? ……ぶうぇっくしっ!! 」


盛大にくしゃみをする、さっきまで変だった兄貴。



・・・



父・「 あいつら、何やってるんだ… 」

母・「 さあ? 」



2 ・ 青い秋、または青春!




兄・「 なんとなく分かってきた…。 」


そう口を開く空夜は、肩にフェイスタオルをかけている。湯船にしっかり浸かったので、震えは止まった。鼻筋の通った顔は、ほんのり朱に染まっている。


兄・「 お前のさぁ、女バージョン。夢に出てきたお姫様になんか似てる気がすんだけど 」


弟・「 そしたら空夜は王子か 」


兄・「 夢の内容かぁ…。…覚えてねぇーんだよなぁ。あんだけ鮮明に覚えてたのに… 」


弟・「 夢ってけっこーそうだよな。とりあえずさ、姫と王子を会わせたらいんじゃね? 」


兄・「 ばっ…!バカかお前は。そんなことしたら…、オレらは越えてはならない一線を越えることになるぞ… 」


ゴクリ…。


弟・「 つまり、どゆこと? 」

兄・「 みなまで言わせる気か!勘弁してくれ~! 」


兄の嫌がる雰囲気で察した空火は、元々でかい声を更に大きくした。


弟・「 !!! 」

「 えぇー!!マジか!超おっかねぇんスけど!ヴわー、マジで嫌だわ…。 」


兄・( こいつホントに分かってんのか? )

空夜は呆れた顔をする。


と、その時…

ピピピっ♪

空火のスマホが鳴った。


弟・「 あっ!時間かぁ。あと頼んだ 」


空火は姫に切り替わる。

…1時間が経ったのだ。


姫を見て、兄はつくづく思う。

『 別にこのままでもいいよなぁ…。 』


自分の人生において、ここまで美しい女性を見たことがない。


アイドル・モデル・女優……。


今まで好きだった芸能人達が…、かすんで見えるゼ!


だけど、姫もきっとこの状況イヤだよなぁ。





静かに無言で佇む美少女を気遣う。


しかし、香水をしているわけでもないのに、彼女の顔を見ているだけで…いい匂いがしてきそうなこの感じは一体!?


う~~ん。


……少しでもいいから、元気付けたいなぁ……。



空夜は笑顔で姫に声をかけると、

「 ちょっと待っててね 」と部屋を出て行った。



姫は空夜の出て行ったドアをしばらく見つめていた。


そして、不安な顔を覗かせる。


事情は理解したつもり…、だが、双子以上にこの状況に戸惑っていた。

部屋の窓ガラスを開ける。


少し肌寒い。

夜風が肌を流れる。



「 …空気が全然違う 」



空を眺める。



・ 


数分後……。



突然、部屋の電気が消えた。

全てを飲み込もうとする空を、

ただ、ぼー…っと眺めていた姫は驚いて周りをキョロキョロ見回した。

そして、人の気配を感じ、振り返ると、


「 クウヤ? 」


そこにいた人物のシルエットが、彼女の待ち人と重なる。



そして大きな瞳を細めて、不安そうに声をかけた。

空夜は自分の着ていた上着を、彼女の細い肩にかけた。

一瞬、姫の大きな瞳が何かを言いたそうに、少しだけ揺らいだが、外からの薄っすらとした明るさでは気付かない。

そして少年は、姫の隣に腰を下ろす。


「 へー、改めて空みると結構星って見えるんだな。なんかいつもはそんなに空って見ないんだけどさ 」

と、空夜は笑顔で話しかけた。


空夜のかけてくれた上着が暖かい…。

優しさと、体温と、そしてその温もりが、

温かかった。



「 ごめんなさい。窓、閉めるね 」


「 まだ、いんじゃない? 」


「 でも寒いでしょう? 」


「 いや、どっちかっていうとまだ虫の方が…。まぁ…電気消したし大丈夫だと思うけど。 」



しかし、あることに気付き、すぐに意見を変える。

「 あ、でも姫がカゼひいたら大変だよなぁ… 」


姫は空夜の顔を、王子の顔とダブらす。

それ程……空夜と王子は顔が似ていた。

顔だけではない。

髪形や声、そして背格好もそっくりだった。


………しいて言うならば、王子の方が澄んだきれいな瞳をしている。

( ↑さりげに酷い )





そして、星空を見つめながら…、

「 …私…夜が苦手だった…星を見ると…自分が消えてしまいそうで…。だけど、空夜といると平気 」

と言うと、姫は誰もが悶絶するようなとびきりのスマイルで、

ニコッと笑った。



うぐっ!


かわいすぎる!!


このまま外に向かって思いっきり叫びてぇええっ!!!


だ…だけど……そのクウヤって……

姫が教えてくれた大事な人の名前も………



「 あのさ、それって… 」( どっちの… )


「 ? 。 どうしたの? 」



姫の綺麗な瞳が自分の視線と重なる。


なんだか凄く照れてしまい、結局あわてて話を逸らした。



「 い、いや、そのっ! そ、そうだ! これ! 肉まん食べる? 」



冷めないように人肌で温めていたコンビニの袋を、Tシャツの中から出し、ホカホカの肉まんを姫に差し出す。


「 にくまん? 」


「 ほんとはケーキ買おうと思ったんだけど、売り切れてて。女の子に肉まんはないか (-_-;) 」


「 まぁ…。これを買いに…? 」



姫は嬉しそうに、再び全ての者を悩殺するような笑顔で、

「 いただきます。ありがとう! 」

と肉まんを受け取ると、あったかい♪

と、おいしそうに頬張った。



( かわいいなぁ? )



と、こちらも笑顔だが、姫とは違い、

骨抜きにされた者のそれだった。


空夜は星空を眺めると…はぁーっと息を吐き、



( これが…青い春なのか…。 今は秋だけど! )



やるせない気持ちで目を瞑って、再び息を吐いた。




3 ・ 誰もオレの気持ちなんて分からないんだ!




「 しっかし、空火の姫バージョンかわいいな! 」

「 男子の制服をダボつかせてんのが、イィよな! 」


空火・「 他人事だと思って… 」


友人たちはスマホの画像を見ながら、少し興奮気味だ。

昼休みの少し長めの休憩時間。

少年たちは退屈な授業で疲れ果てた心を、姫の画像を見て癒されていた。


なぜ画像なのかというと……、

今、空火は男で、しかも見飽きた顔だ。

今の空火を見ても、全然疲れなど取れない。

それに姫のあの綺麗な顔を直接見ることなんて……!もう照れちゃってムリ!

直視しようものなら、眩しすぎて目玉が潰れるよっ!


クラスメートの殆どが、姫の写真を所持している。

SNSにアップするヤツもいたが、まず憑依とか信じてもらえなかったうえに、「 痛い奴だと思われたんで、削除した 」と言っていた。


空火・「 しかもオレ見れねーし 」


空火は椅子の上で膝を抱えて、拗ねている。

自分がどういう人物に憑依されているのか、全く分からなかった。

ただ、皆のリアクションでかなりの美少女なんだろうな…とは思うけど…。


「しょーがねーなぁ、ほれ!」



あらっ!

あまりの可愛さに驚いた!


空火・「 おー、マジだ、本当だ。 すげぇ、かわいいじゃん! やべぇ、オレ水仙になっちゃうなぁ~ 」


「 なんでだよ! 」

ツッコむ友達。

友人に見せてもらった画像にニヤニヤする空火。


「 お前、姫に変なコトすんなよ! 」


空火・「 はぁ!?しねーし!なんでそんなコトゆーの!? 」


「 今、すげぇエロい顔してんだもん! 」

「 やだー空火やらし~ 」


空火・「 オレが小学生だったら泣いてるからな! 」


「 普通に涙目だし! 」

と、笑う友達。


空火・「 だけど、こんなかわいいんだったら身の危険を感じるな… 」


「 ほら、も~。いつもエロい事考えてるから、そんな発想になるんだよ! 」


空火・「 コイツ!マジでうざいんですけど! 」


他の友達も同意する。

「 確かにウゼーな。なんだよその顔 」

「 ハハハハ! 」

「 まー、安心しろよ。ここはコンクリートジャングルじゃないんだから、危ないことはないだろ 」

と、気楽に言うクラスメートに、少しばかり繊細な少年は不信な目を向ける。


空火・「 大丈夫かぁ? それフラグたってねーだろうな? 」


『 大丈ー夫、大丈ー夫! ほわほわほわほわ花子さーん♪ 』

会話をしていた友達数人は、楽し気に声を合わせて、友人内で流行っているアニメの歌を歌いだす。


空火・「 もうぜってー他人事じゃんっ!! 」



4 ・ 罪作りなスウィートガール



周りの人間を巻き込みつつ、空火 ⇔ 姫、空夜 ⇔ 王子が切り替わったりで大変な日々を送っていた。

既に家族も姫たちと仲良しになった。

たちって言うのは王子のことね。


しかし、未だに姫と王子は出会っていない。

双子が頑なに阻止している。

何が起こるか分かんないしさー。

嫌だよね!


不安でいっぱいだった姫は、高校生活を楽しむ程になった。

王子はというと、殆ど出番がない。

女子が空夜に面白半分で塩をかけた時以外は姿を現さない。

しかも、なぜかそういう時に限って、姫ではなく空火だった。

こういうことってよくあるけど、なんでだろーね?

神様の悪戯??みたいな。


塩を流さない限りずっと王子のままなのだが、王子が暴走しかけると、すぐにペットボトルの水をかけるためすぐに空夜に戻る。

どういう暴走かは、第1話で起きたことを想像して頂ければ、大体あんな感じである。


意外と空夜も被害に遭っていて、なぜか覚醒すると高確率で体のどこかが痛いうえに、クラスメート達からも距離を置かれるという仕打ちに、

「 お前ら高校生にもなってイジメかよっ!イジメかっこわるいよ!! 」

と、若干ふざけつつも半ギレ状態だった。


しかし、彼が空火と同じ目に遭っていたら、きっと同じことをしただろう……。


因みに、空夜の王子化は、食事による塩分摂取においては何も問題は無かった。

ほんとに謎である。


そして、なんやかんやこんな事を、

てんやわんやと過ごし、とうとう文化祭当日を迎えた…。



☆彡



「 姫に触んじゃねぇよ! 」


空火?

を、必死で守るクラスメートの姿がそこにはあった。


準備期間から当日まで晴天に恵まれ、絶好のお祭り日和。

学校中が色とりどりの飾りでドレスアップし、女子のメイクや髪形にも気合が入り、男子もだいぶ浮ついていたが、彼らの場合は姫を守る使命感に燃えていた。


本当だったら、生徒はみんな大忙しだが、ばっちりローテーションを組んだから大丈夫!


賑やかで楽し気な声と、校舎の外にある出店の、香ばしいソースやクレープなどを焼く甘い匂いが、ワクワク感を増幅させる。

欲張って食べ過ぎ、腹痛を訴える小さな子供の姿が臨時の救護室にはあった。

先生と共に保健委員に所属している生徒も必死に対応にあたる。

事前に救急措置などの研修も行っていた。


また、インフォメーションも設け、駐車場のアナウンス、イベントのお知らせ、迷子への対応も生徒だ。

悪質なクレーマーには先生、およびボランティアの大人が引き受ける。

出来るだけ生徒自身で行うことで、社会を学ぶのだ。

なので生徒はほぼ遊べないが、

前日に予行練習も兼ねて生徒たちだけで充分に楽しんでいた為、大きい不満は起きていなかった。


小さい不満はしょうがないけどね!


☆彡



クラスの催し物……【 アリスの不思議な迷路 】。

学校の校庭に造られた、大規模なこの迷路。

1学年1クラスしかない小さな学校だからこそ、他校に負けてられないと、並々ならぬ思いで作り上げたから、素晴らしいクオリティーに出来上がった!

インスタ映えは間違いない…!

これはえるゼ!

と、みんな自信満々だ。


そして、見所のひとつでもあるアリスちゃんとの記念撮影。

アリスちゃんは、半ば強引に空火に女装させ、客寄せパンダの役割をさせようとしていた。

もともと可愛い顔立ちだった空火が化粧した時、

女子たちは

「 ……負けた…… 」と、青ざめた。


しかし、その見所は予想の斜め上以上の成果を上げている。

性別は女。

生まれながらのプリンセス。

それは・・・我らがクウカ姫だ!


ただ……、迷路は女性や子供などに人気だったが、アリスちゃんとの写真撮影は、男性全般に大人気だった。

もともと可愛い顔立ちだったクウカ姫が化粧した時、

女子たちは

「 ……死にたいわ…… 」と、涙を流した。


ある意味、姫による代役が決定したわけだが……、

生徒の中には、星埜 空火の女装姿が見られないことに、残念がっている者が数名いたことはヒミツだ。


☆彡



「 何もしないからさ、あっちに行こう? 」

「 ウソつけよ!何かする気満々《きまんまん》だろ! 」


文化祭には最早もはや定番ていばんといっていい………ナンパ集団。

………と、果敢かかんにも戦う勇士ゆうしがいた!


オロオロする姫。

「 安岡くん。この人そんなに悪い人に見えない…… 」


「 いや!!オレにはこの男が何を考えているかが分かる! 」

 安岡少年は、少し間を置き…そして言い放つ!    


バーーーーーンっ!!!


「 おい、あんた!18禁的きんてきな!ムフフでイヤらしい事、考えてるだろ!! 」


パキーーーーン……!!


…うわっ……。

賑やかだった教室内が一瞬、

ここは北極か!?

と思わせるほどに、凍り付いた。


「?」

姫は安岡が何を言っているのか、全く理解していなかった。

何を言っているのかを必死で考え、

近くにいたクラスメートの女子に尋ねる。


「 姫にはそのままでいて欲しい 」と、返答され、更に ?? マークが飛んでいた。


一方のナンパ男は、キョトンとした後に苦笑いを浮かべ、至極しごくまっとうな事を安岡に言い返した。


ナンパ男・ 「 …………。 あー、大声でそんなコト言って恥ずかしくないの? 」

安岡  ・ 「 恥ずかしいに決まってるでしょ!!

       さっして!!

       顔なんかやたらあちぃーわ! 」


この北極のような寒さの中、

勇士・安岡だけは赤道直下せきどうちょっかの暑さの中にいるのでないか?

と思わせるほどに、その顔は耳までっかだった。


仲間であるはずのクラスメート数人ですら、必死で笑いを堪え、苦しそうに震えている有様だ。


この話は後に、『 安岡の事故死 』として、ネタの一つにされてしまう。


だがしかし、

安岡を含む少数精鋭しょうすうせいえいらは、ナンパな男たちから姫を守るのに必死であった為、空火少年だけは、『 安岡はカッコイイよ! 』とフォローするのであった。


彼らの友情がほんの少しだけ深まった。



本当に少しだけだけど……。



☆彡



「 はぁはぁ、…づがれた… 」

勇士の中でも特に勇猛に戦った安岡の健闘のお陰もあり、ナンパ集団は姿を消した。


姫・「 安岡くん、私のためにありがとう 」

安岡の手を握り、礼を言う姫。


安岡・「 うっ! 」

( つるつる、柔らかっ! )

「 いっいえ、姫のためならばこの命! いつでも差し上げる所存に御座います! 」


顔を真っ赤にしながら、跪く安岡。


姫・「 まぁ。頼もしい家臣を持って幸せだわ 」


すっかり舞い上がってしまっている安岡に、仲間が警鐘を鳴らす。

「 おいっ! 安岡しっかりしろよ! 空火なんだからな! 」


安岡・「 はっ!! やっヤベェ…。 これは…ガチでなんとかしないと…もってかれる! 」


( 姫…君はなんて罪作りなスウィートガールなんだ!! )


顔を上げ、キラキラした瞳で姫を見ようとした少年だったが……、

「 …あっ!あれっ!? 姫がいない! 」



『 ぇえーー!! 』

勇士たちの声が重なった。




☆彡



一方……

アリスちゃんの格好をしていた姫は、人通りの無い場所で隠れながら着替えていた。


「 男性の格好をすれば、皆さんにご迷惑をお掛けすることも無いわね 」


いつもの、星埜・弟の学ランに身を包む。

手足の裾をまくり、大きいサイズのスニーカーを履き、みんなの所へ戻るために歩き出す。


少したどたどしく、ペンギンのように歩く姫。

彼女の考えとは裏腹に、むしろ人によってはこちらの方が可愛くみえるかもしれない。

女性・男性関係なく、“ あの子、可愛い! ” と注目を浴びていた。

そんな姫に、別グループのナンパ集団が目を付けた!



みんなの頑張りもむなしく、姫は複数の男に連れて行かれてしまった。





「 姫ーーーーーっ!! 」


安岡は声を張り上げ、姫を探していた。

近くにいたおばさんに尋ねる。


「 すみません! アリスちゃん……あっ、いや…、可愛らしい…こう…青いワンピースみたいな服装の女の子を見ませんでしたか? 」


「 あーー。見たわよ。 あまりにも可愛かったもんだから写真撮っちゃった! 」

と、持っていたスマホを手慣れた手つきで操作し、姫の画像を見せてくれた。


「 えっ! 」

( このババア……隠し撮りかよ! 芸能人じゃないんだから、やめて欲しい……じゃなくて! )


「 あのー、どこに行ったかわかりませんかね? 」

「 あっちの方に歩いていったけど……なに~、もしかしてお兄ちゃんの彼女? 」


「 かっ! かの…じょっ?! そ、そそそそ…そうなったら…いいなぁとは思いますけどもっ! あ~いや~へへへ。 まいったなぁ~! (〃▽〃)ポッ 」



「 安岡! 何やってんだよ! 一人で頬染めて、気持ち悪ぃな! 姫を探さなくちゃいけないのに 」


勇士の一人が駆け付け、喝を入れる!


「 はっ! ……ババアがいねぇ……。 うわっ、恥ずかし… 」


更に顔が赤くなる……。





「 姫は!? 」

クラスメートの問いに、安岡は、

「 あっちに行ったってよ…… 」

と指さした。


よっしゃー! と、少年は走って行った。


「 あいつ……自分の手柄にするつもりだな……。 そうはさせるかい! 」

と、安岡は正反対の方へと走る!


実は……嘘の証言をしていたのだった。


「 こっち…こっち…。 ……ん? 」

おばさんが教えてくれた方角を探していたら、見覚えのある物が目に入った。

「 !! 」

急いで近づき、拾い上げる。

「 アリスちゃんの衣装! しかも、まだ人肌を感じる…! 姫、着替えたのか。 でも、なんでこんな所に……? 」


男達に連れて行かれた時に落としてしまった、アリスちゃんの衣装。

安岡は、推理を始める……。


「 じいちゃんの名前をかけて…解いてみせるぜ、この事件! 」

※ 安岡のじいちゃんは、なんの名声もない普通のじいちゃんです。


えーと……、

( もしかして、さっきのナンパ野郎に乱暴されて…服を脱がされた!? )


えっ?


ぇえっ!?


じゃあ……、



姫は……は、裸!?


「 くっそーーーっ!! ゆ、許せん!! 」

怒りに燃え上がり、人のいなさそうな場所に目星を付け、物凄い勢いで駆けて行った。



5 ・ 空火姫、大ピンチ!




「 ・・・。 」

「 ・・・。 」

「 お、お前からどうぞ? 」

「 なんだよ! いつもはジャンケンで決めてるだろ! 」

「 いや~…なんか… 」

「 やりにくくね? 」


姫があまりにも可憐過ぎて、タジタジの男たち。


「 本当の美人って、あれだな…逆に手を出しにくいんだな… 」

「 じゃあ、なんで連れて来たんだよ! 」


男たちが揉め出した。

さすがに姫も身の危険を察し始める。

そして、空夜に言われた事を思い出す。


『 怪しいヤツとかにからまれたら、“コレ” 自分にかけるんだよ? 』


姫は男たちが揉めてる隙に、白い粉を自分に振りかけた。


すると……あら不思議!

男子高校生に早変わり!

一部始終を見ていた男が声をあげる。


「 のおぉーーっ!? 」


「 なんだよ!うっせーな! 」


「 美少女が魔法少女だった! 」


「 はぁ?! 」


「 だから!ミラクルなマジックガールだったんだよ! 」


「 余計分かんねーよ! 」


「 だから!あいつ…あっ!! 」


逃げようとしていた空火は見つかってしまい、ビクッとなる。


「 あれ?女がいねぇ! 」

「 だから! あの男が女で、マジックなミラクルで白い粉が… 」

「 悪いけど黙っててくんねぇ!? 」

「 そしてお前! 逃げんな! 」


またもや逃げようとしていた空火はビクッてなる。


空火・「 も~!! なんなの、この状況! お家に帰りたいんだけど! 」





学ランが、両手両足…七分丈よりやや短い位の感じで、まくってあるため、左足から直しにかかる。

この作業も最早慣れたものである。

しかし片足を直している時に、驚愕していた男の一人が空火に声を掛けてきた。


「 お前…………美少女なのか? 」


ブフウッ!!

思わず吹き出す空火と男たち。


「 なんでお前らが笑うんだよ! 」

「 だって…すげぇ真剣な顔で…ヤベェ…っウケるっ…フフッ 」

「 だから、お前! 逃げんなっての! 何回言わすんだ、バカ! 」


さすがにイラッとした空火は、

「 だっからさぁーっ! なんだっつーんだよ! 」


男は真剣な顔で…

「 お前は………

アシュラ男爵なのか? 」


ブフゥッ!!

「 やめてー! おまっ! 笑わすなぁ~ 」

「 ふざけんのも大概にしろよ! 」

「 むしろお前がふざけてねぇ!? 」

「 そこのイケメン! 逃げんなっ… 」

空火・「 逃げてねーよ!! 」


空火は逃げるどころか、あぐらにひじつきダルそうにしていた。


「 …つーか…、コイツ腹立つくらい顔いいな… 」

「 ここまで男前だと逆ナンされまくりなんだぜ、きっと! 」

「 いや、こういうヤツに限って童… 」


空火・「 はい、待ったー! てめぇにオレのナニが分かるんですかっ!? 何を言おうとしてたかなんて丸わかりなんだよ!! 高校生で経験あったら、親は心配だよっ!! 」


「 バッカじゃねぇーの? 今時いまどき高校生で、童貞なんて厨二ちゅうにくらいだろ? 」

「 イケメンだけど厨二だからDTなのか! 」


空火・「 うっうわーんっ! 」


泣かされる男子高校生。



6 ・ 『 拳の痛み 』 と 『 心の痛み 』



「 コイツが逃がしたんだろ…コイツの女だったんだよ、あの美少女は! 」


“ なにぃーー!!! ”

男達の声は重なる。


消えてしまった美少女。

目の前にいる男の彼女で、しかもっ! 男はイケメンだ…。

沸々と怒りがこみ上げてくる。


空火・「 ちょっ、ちょっと待て! あのなぁオレはこう見えて、空手の有段者なんだぞ! 悪いことは言わないから、おそろしいことはおよしなさい! 」


「 うるせっこの厨二病患者ちゅうにびょうかんじゃがっ! 」


ゴっ!


空火・「 いでっ! 」

殴られる空火。


いつもなら余裕で避けられるが、なぜか避けられなかった。

動揺していたからだろうか……。


「 おぉーーっ! やったっ! 」

喜ぶ男達に、ため息をつくと、

空火・「 くそっ…ったく! オレはっ! 」


シュッ!


「 いっ! 」


空火・「 忠告! 」


ダンっ!


「 うわっ! 」


空火・「 したんだっ 」


ガッ!


「 うっ! 」


空火・「 かんなっ! 」


ドゴッ!


「 ぐえっ! 」


空火・「 っと! 」


ゴスッ!


「 かはっ! 」


あっというまに男達をのしていく空火。

お約束的な場所、人通りの無い関係者以外立ち入り禁止の学校の物置倉庫は、一瞬で埃が舞い上がった。

空火は本当に極真空手の黒帯だったのだ。

まず、蹴りから入り、そして突き、払いなどを次々にかましていった。


呆然とその場にヘタり込む男達。


7 ・ 見せ場がなくて何気に凹む少年Y。




空火は、パンっ!と手を叩く。

男達はハッと、我に返る。


空火・「 けーさつ来る前に帰った方がいいと思うぞぉ 」


「 っ! 」

慌てて逃げて行く男達。


空火・「 おぉ、ずいぶん簡単に引き下がるな 」

少しキョドる。


「 そんな早く来るワケないのに(-_-;)

 ……はぁー、だけど見事にフラグ立ってたなぁ。

 姫、大丈夫だったかな?

 イベントは発生したし、CG回収はオレのカッコイイ雄姿で決定だな! 」


残念ながら、姫が男たちに囲まれてピンチなところがイベントCGになります。


そんなことを考えていると、一人の男が勢いよく登場してきた!!


「 姫ーーー!! 助けに来ましたぞー!! …………って、

 あれ? 空火? 」

「 …………や、安岡……キャラ変わってね? (-_-;) 」


空火が軽くツッコんだ声も届いていない程、彼は興奮していた。


「 なんだよっ! てっきり姫がヤバいと思って急いで来たのに! 」


その言葉に、こちらも興奮冷めやらぬ空火が反応し、

「 逆になんだよ、それっ! オレのこの顔見てよ! 死んでたかもよ!? 」

と、殴られたところを必死に見せる。


しかし、

「 ぇえ? そんなんで死んでたら大爆笑だっての! 」

と、笑って流された。


「 大体、お前が強ぇーの知ってるし、

 それよりも酷い怪我いつもしてんじゃん……って、

 ……あ、あれ? そ、それ、姫には影響は無いですよね!? 」

安岡の声音は、いつもの調子から慌てたものへと変わっていった。


「 知・り・ま・せ・んーー!! 」


( どいつもこいつも姫、姫、言いやがって! )

イライラしながら答える空火。





「 まぁーでも! 姫が無事なようで安心したわ!

 残念なのは、

 イベントCGに姫をカッコ良く守る俺の雄姿が記録されないことだな! 」

と、言う安岡。


お前らは、そればっかりか!!

ここまで全速力で走って来た安岡は、額から流れてきた汗を腕で拭った。

その時、あるものが目に入った。

汗じゃないよ!


・・・ 一瞬、時が止まり、安岡はある事に気付いてしまった!


「 はっ! おい! 大変だ! 」


空火・「 へ? 」

安岡・「 は、○、た、の、塩 ♪ が! 」

空火・「 いちいち歌うなよ…って! 」


しかし安岡の示す場所を見て叫んだ。

「 あぁっ! これ…すっからかんじゃねぇか! 」

小瓶の中身が床に散らばって、かき集めるのも困難な状態になっていた。


固まっている空火を見かね、安岡が声をかける。

「 …そう言えば……、1年が喫茶やってるけど、塩とかありそうじゃね? 行ってみる? 」

空火・「 ああっ! オレには時間がねぇんだ…早く行こう! 」


空火は切羽詰まった表情で叫ぶ。


安岡・「 ハハハ。 お前、厨二みたいだな 」

空火・「 それ! (# ゜Д゜) 今のオレには禁句なんだかんな! 」

安岡・「 ?

なんで?」


厨二という言葉は、彼の心を深く傷付けたようだ。

その場から逃げるように、空火は走り出す。

慌てて安岡も後を追う。


二人は1学年の教室へと駆けて行った。



8 ・ 青春を分かち合う二人




「 …空夜、何してんの? 」


兄・「 (。´・ω・) ん?

  おう、ケーキ食ってた」


先に到着した空火は尋ねる。

ケーキを食べていた空夜は、チョコクリームを口につけながら、空火がいたことに若干じゃっかん驚きつつも答える。


弟・「 いや…そうじゃなくてその恰好 」

兄・「 カッコいいだろ。 ここにおいてるコスプレ衣装に着替えて食べると、20%も割引なんだって! 」


しかし実際にコスプレしている客は少ない。

安くなるといっても恥ずかしいようだ。

ヲタ系かシャシャリ系の若者しかコスプレしていない。

空夜はそっち系ではないが、20%オフに釣られたのだった。


弟・「 へーー。 んじゃオレも着替えよーか…な、痛っ!

なんだよ安岡!」


キョロキョロしながら喋っていた空火は頭を叩かれた。


安岡・「 お前! お前が、

“ オレには時間がねぇんだ。早く行こう! ”っつって…てっ、

うおいっ! 聞いてねーしっ!」


安岡が話している途中ですぐに目的を思い出した空火は、厨房になっている部屋の奥へと駆けていた。


弟 ・「 ワリぃ! 時間ねぇんだわ! 」

安岡・「 …抜けてたくせに… 」

兄 ・「 ?

なぁ、なんかあったのか?」

安岡・「 いや、さっき… 」


“ なにぃーー!!! ”


「 !? 」


兄・空夜と安岡、そして他の客達は空火の声に、何事だ? と動きが止まる。

しかし他の客達は、すぐに各々会話や食事に戻った。





兄・「 うるせぇな 」

ケーキを食べる手を休めることなく、嘆息する空夜。

空火が叫んだ厨房へと視線だけを向ける。


そして弟が奥から出てきた。

背中を丸めて消沈している。


弟 ・「 …塩、ないんだってさ… 」

安岡・「 え、うっそ。なんで? 」

兄 ・「 どうしたんだよ? 」


空夜はさすがに手を休めて尋ねる。

「 塩って言ってたけど…。

もしかしてだけど~ ♪ それってお塩が無いってこと~じゃないの~ ♪

そういうことだろっ!

ジャンっ! 」


空夜はジャンっ!のタイミングで予備の塩を差し出す。


そして…

「 …やるよ… 」

と、他の客たちの視線に気付いて、顔を赤くしながら呟いた。




弟 ・「 ……。 」

安岡・「 かんっぜんに、家にいる時のノリだったな… 」


部外者がいる事を、うっかり忘れていた空夜。


空火は、

「 ん~…、やっぱ空夜が持ってて 」

と、兄と距離をおこうとする。


兄・「 お願いだから、受け取って! 」

気まずそうにする空夜。

弟・「 いや、オレっつーか、姫がさ何かすっと困るから 」


兄&安岡・「 何かってなんだよ!! 」


声が揃う二人。


顔を見合わせる二人。


そして、

兄 ・「 安岡…お前……もしかして… 」


安岡・「 空夜……歌わなくていいのか? 」


兄 ・「 もういいよ!

ていうか、お前…… 」


安岡・「 言うな!

頼む、言わないでくれ…… 」


兄 ・「 !!!

     や、やはり、そうなのか……!

くっ! …あぁ…分かったよ…… 」


突然始まった茶番に空火は目を丸くする。


弟 ・「 は!? 何!?

なんなの (-_-;) …… 」


二人は空火を置き去りに目で語り合っている。


弟・「 放置プレイすか!?

ねぇ! 何が始まったの!? ねぇ!? 」


しかし空夜と安岡は共に頷きあい、かたく握手を交わし、互いの背を叩き合っていた。


華やかに装飾された教室で、西洋風の貴族服の男と学ランの男が抱き合っている…。


弟・「 ちょっとお二人さん!

オレそろそろ姫に変わっちゃうけど… 」


バっ!


二人は勢いよく離れると、服や髪の毛を整え始めた。


弟・「 あぁ…そういうことスか…… 」

ようやく合点がいった空火なのだった。



9 ・ 若人の心は刹那の如く、移ろう様は秋の空




弟・空火の心境も複雑だ。

最近の記憶が殆どない、という状況が数日続いている。

何より一番しんどいのは、姫から自分に切り替わった瞬間だ。

周りの人間の落胆した態度が、ひどく傷付く。

親や兄弟までもがそうだから、高校生男子といえども泣きそうになる。

しかも兄貴なんかは、姫に惚れているほどだし…。

せめて兄貴にだけは、親身になって欲しかった。


空火は、兄と安岡が身を正している間に姿を消した。



☆彡



安岡・「 あれ?空火がいないぞ? 」


キョロキョロする二人。


兄 ・「 あいつ、カマかけたな…! 」

安岡・「 いたいけな少年の心を弄びやがって…! 」


そんな二人のもとに、ずっと遠目から彼らを眺めていた少女が、席を立って近付いて来た。


「 弟、泣きそうな顔で出てったよ 」


そう言うと、彼女も部屋を出て行った。


兄&安「 えっ? 」



☆彡




弟は屋上へと続く階段を上がっていた。


こういう気持ちの時って、なんで屋上に行きたくなるんだろう…。

なんて考えながら、屋上に出る扉に手をかける。

しかし…


「 …マジで泣きそう… 」


鍵がかかっていて、開かなかった。


「 うぇーん… 」


「 星埜ー? 」


ビクッ!

女の子の声に飛び上がる。

そして振り返る。


「 お、岡部さ…ど、えっ、ナニカ!? 」


岡部・「 ちょっと屋上に用があったんだけど、開いてないの? 」

弟 ・「 開いてないっス… 」

( どーしよ…岡部さん苦手なんだよな… )


岡部・「 危ないからかなぁ? いつもは開いてんのに… 」

「…………。」


弟 ・「 あ…じゃ、ちょっと失礼して… 」

岡部・「 ヘイ、弟 」


引き返そうとした空火を引き留める岡部。


弟 ・「 はい? 」

岡部・「 元気出しなよ 」

弟 ・「 え? 」

岡部・「 弟、最近大変そうだからさ。 アタシで良かったら話きくよ? 」


じ~ん…

感動する空火。


友人たちは皆面白がって、心配などしてくれないのに、大して話したことのない女子が心配してくれるなんて!


彼は女子が少し苦手で、特に岡部のような化粧をバッチリしている派手な女子がダメだった。


一方の岡部はというと、実は空火に恋心を抱いていた。

だから、コスプレ喫茶でもずっと空火を見ていた。


彼を追って、ここまで来たのだ。


彼女の今の心中は、

( 空火くんマジでかわいい! 抱き締めたいなぁ… )

肉食な彼女は己のリビドーを抑えるのに必死だった。




岡部・「 とりあえず、座って! 」

弟 ・「 えっ、でもなんか… 」

( 恥ずかしいし… )


岡部・「 いーから、いーから 」


空火を半ば強引に座らせる。

空火は、

( やっぱ苦手かなぁ… )

などと考えていると、岡部が頭を撫でて来た。


弟 ・「 えっ!? 」

顔を赤くする弟。


岡部・( かわいすぎ~! )

岡部は涎をガマンするのに必死だった。

( お、押し倒したい! )


弟 ・「 お、岡部さん…? 」


岡部は撫でていた手を離すと、

「 さん付けじゃなくていいよ 」

と、笑いかける。


弟 ・「 う、うス 」


単純な空火は…

( 岡部さんてよく見るとかわいいかも… )

と、空気に呑まれていた。




☆彡



5分後…

  空火は不安や不満を全て一気に吐き出した。


岡部は実際軽い女だが、空火の話を真剣に聞き、そして口を開く。


岡部・「 …それってさ、大変だけど、こまめに塩かけてればいいのでは? 」

弟 ・「 !!! 」

   「 …全然、浮かばなかった…!! 」


岡部・「 でも、実例とかある訳じゃないからなぁ~、どうなのかな~?

    しかも、あんまりかけ過ぎると塩まみれになるしね。

    ほんの少しの量でもお姫様って消えるの? 」


弟 ・「 岡部って、本当はまだ頭いいとか? 」

岡部・「 え?

 いや、脳みそ腐ってっし! 」


明るく笑う岡部だが、空火は彼女が昔、才女と言われていた事を知っている。

というか、クラスメート全員が知っている事だ。

高校入学と同時に彼女は変わった。

いわゆる高校デビューというヤツか。


しかし、友人たちは高校デビューとは違う何かを岡部から感じていたが、どうすればいいのか分からず、戸惑ったのを覚えている。


弟・「 はぁ~、だけどそれって大変だよなぁ、気ぃ抜いて忘れちゃったら…というか、姫にも気の毒なような…うぅ~ん… 」


災難に見舞われているにもかかわらず、姫の心配をする少年。

やはり、なんやかんやお年頃なわけで、あんなに可愛い女の子に、塩ばっかホイホイかけれないよな、オレだったら出来ないし、などと考えていた。


実際、姫が気にかけて自分で塩をかけた時くらいしか、元に戻れない。

しかも、どうやら周りの人達も、そんな優しい姫に対して、

「 いい!いい!空火はほっといて! あっ、姫のことじゃないよ? 」

といって、制止しているらしいし…。




目をつむり、首をかしげて物思いにふけっている空火を見ていた岡部は、とうとう堪らず抱き付いてしまった。


ガバッ!


弟・「 ふぇっ!? な、なななっ…!!! 」


花のようないい香りも相まって、キョドる空火。


岡部はとてもコーフンしていたが、突然、変な感じがした。


もしかして…少し離れてみると…そこには…


「 あの…ごめんなさい… 」


かわいい少女の顔があった。


ガクー…!!



☆彡




その後、岡部は姫と軽く会話をし、ある仮説をたてた。


岡部・「 えー…つまり、死んだ姫と王子には心残りがあって、残留思念がなんらかの事象に巻き込まれて、二人が引き寄せあった場所が学校で、波長の合った人間が星埜兄弟だった…とかじゃない?! 」


「 あったまいーな~、岡部! 」


声を辿ると、空夜がいた。

「 でもさ、塩はなんなの? 」


岡部・「 姫が塩アレルギーなんだってさ 」


兄 ・「 ええ~。 塩ってアレルギーあんの? ウソでしょ?! 」


岡部・「 知らねーし。 姫のいたトコにはあんじゃないの? 」


兄 ・「 はぁ~…? まぁ…いっか…。 だから塩かけると消えるんだ…。     じゃあ王子はなんで逆に出てくるわけ? 」


岡部・「 なぜアタシに聞く?! 」


兄 ・「 まぁまぁ、いーからいーから 」


岡部・「 …塩っ辛いのが好きなんだとさ。 兄と同じじゃん。

    高血圧少年! 」


兄 ・「 バカめ! オレの血圧は正常だ! 部活で汗かくから丁度いいの!

  そーか、は○たの塩に引き寄せられていたのか…。

  ……変なの…… 」


安岡・「 お前が変なのは元からだ 」


兄 ・「 安岡氏の方がよっぽどだと思うけどな 」


安岡・ 「 なら、私の見解を聞いて頂こうか。 」

兄 ・ 「 いや、いらない 」


安岡・ 「 聞けって! 姫の塩アレルギーは現代にもあるから。

  自分の汗にアレルギー症状が出るヤツもいるんだってよ。

     アレルギーは星の数ほどあると言われているのだ。

     あと、姫と王子…生まれ変わり説! 」


兄 ・ 「 ぇえ~?? 」


岡部・ 「 それって、いつの時代? 」


安岡・ 「 ……えっ? 」


岡部・ 「 縄文時代? 江戸時代? アタシは日本は当てはまりにくいと思うんだけど 」


安岡・ 「 ……。 あれだよ、並行世界とか… 」

兄 ・ 「 生まれ変わり説はどこいった? 」




姫はなぜかずっと瞳を輝かせている。


岡部・「 どうしたの? 」

と岡部が尋ねる。


「 服! 王子様だっ! 素敵っ! 」

と空夜を見る。


いやぁ、と照れる空夜。


安岡・「 服!!

服が!!

服だから!!

服 だ・け・がっ 素敵なだけだから!! 」


安岡も空夜と弟を探していた。


姫・「 私も着たいな 」


と、いうことで…



☆彡



岡部・「 なんでアタシも着てるの? 」


安岡・「 なぜオレは王子の服じゃないんだよ!

しかも岡部は娼婦にしか見えな…ぐごっ!

     …グーはないだろグーはっ! 」


グーで殴られる安岡。


全員、西洋風の衣装に身を包む。


姫・「 うふふふ ?

  こういう服って初めて… 」

兄・「 えっ、そうなの? 」

姫・「 えぇ 」

兄・「 てっきり、こういう時代の人かと思った 」

姫・「 私のいた所は機械で溢れた国で、服は殆ど防護服だったの 」

兄・「 ご、ごめん! 」

姫・「 気にしないで 」


優しく笑う姫と神妙な面持ちになる子供たち。


岡部・( ……今更だけど、なんで日本語通じてるんだろ……機械で溢れた国って……?

ま、いっかぁ。…さてっ! たまには良い事でもするか… )

   

「 ほしの兄。これ 」


岡部は鍵を空夜に渡す。





安岡・「 なんちゅーとこから出してんだよ! 峰不二子か! 」

岡部・「 は?誰それ 」


岡部は大きく開いた胸元から鍵を出していた。


岡部・「 だってこの服ポケットないんだもん 」

安岡・「 うわ~誰得だよ… 」

岡部・「 あんたってホントムカつくんだけど (# ゜Д゜) 」


兄 ・「 つーか、このカギ何? 」

岡部・「 屋上のカギ。 職員室からジって、合鍵つくってもらって…

    つまりはアタシのカギなわけ 」

安岡・「 うわ~やっぱ峰不二子ー! いいのか、そんなことして 」

岡部・「 は? ダメに決まってんじゃん。

    カギつくんのけっこー安かったけど、アンタはすんなよ! 」


安岡・「 ほぉ…安いのか。 そいつぁ、知らなんだ 」

兄 ・「 安岡やめとけよ。 カンタンなカギだったから安いんだからな! 」

安岡・「 空夜はエスパーまみか! なぜオレが学校中のカギを複製しまくろうとしていることが分かった! 」

岡部・「 バカじゃね?(-_-;) つか誰だよ、まみって…。

     もうバカはほっといてさ…行ってきなよ 」

兄 ・「 あー…いや…だって… 」


ためらう兄。


安岡・「 空夜! ……バカはほっといて…決めてこいよ! 」


バシッと背を叩く。


「 ………。 」


空夜は頷くと、姫の手を引いて屋上へと早歩きで向かった。


岡部・「 バカってアタシのことじゃねーだろな。

  はぁ、てか……空火くんの初めて、欲しかったなぁ… 」


安岡・「 ……姫…、オレの初めて、あげたかった… 」

岡部・「 キモい! 」


安岡をバシッと叩く。


安岡・「 なんでだよ! 」



10・覚悟を胸に…




空夜と姫は屋上に出た。


辺りはすっかり橙色を被り、高校の屋上から町並みが伺える。

それは、高校が高台に建てられているからだ。

海が近いので、避難場所にも指定されている。


夕暮れの町からは祭囃子が聞こえ、文化祭のBGMと被っていた。

文化祭は終わり、客や生徒たちは町の祭りへと場所を変える。

文化祭の片付けを後日にまわし、祭りの参加者を増やす。

食品類、ごみ、危険物(カセットボンベなど)は優先的に片付けておく。



☆彡




姫は呼吸を整えると、賑やかな町並みを見渡し、そして大きく深呼吸をした。


姫・「 はぁ~! ステキな眺め! 学校の屋上は初めて 」


一緒に景色を眺めながら、空夜は気になったことを尋ねた。


兄・「 姫のいた所って防護服が一般的なの? 」

姫・「 ええ。 だからこの服は憧れだったの。

   私の好きな絵本に描かれていたお姫様の服だから。」

兄・「 オレの見たユメでは姫がそういう恰好してたけどな…たしか 」


姫・「 ユメ?」

 「それはどんな…? 」


兄・「 まんま、姫がその恰好で…泣いてた感じで…あっ、

   なんか思い出してきた。 絵本みたいなユメで… 」


驚く姫。


姫・「 それは、私の記憶だわ… 」

兄・「 えっ、何? 」


姫・「 私のいた国では、身分の高い家に生まれた子供は、

   自分をモデルにした絵本を授かるの。

   私の国にはこのような衣装はないけれど、絵本の中の私は着ていました。 」


兄・「 …岡部の考えでいくなら…。

   なんらかの事象で王子が先にオレの中に入って、

   引かれるかたちで姫も入って来た。

   だけど波長が合わないから、出たり入ったりしていた。

  その影響で、姫の記憶がオレの頭の中に入って、それがユメとして現れた… 」





橙色の空は徐々に色を変えていく。

薄い藍色を加えて、闇色に染まりつつある。


姫は俯く。


姫・「 私が空火から目覚める前、暗闇にいました。

   そして王子に手が届きそうになると、王子が遠ざかるのです。 」


兄・「 そんな状態で偶々、

   朝飯の時にタイミングが合って空火の中に姫が入ったんだ。

   空火と姫の波長がオレより近かったから。

   で、同化が完了したのが迎えに行ったあの夜か 」


空夜は気まずそうにしながら、

「 こんな言い方していいのか分かんないけど。 同化とか…さ… 」


姫・「 いえ…私のせいで御免なさい… 」


空夜は姫から目をそらす。


そして…

「 …謝るのはこっちだよ。 姫は優しいから、ガマンして言わなかったんだろ? 」


姫に視線を戻すと、


兄・「 王子に合わせてくれって 」


姫は悲しそうな顔で俯く。


空夜は口を結び、苦しそうな表情をして…そして…、覚悟を決めた。




兄・「 最初っからこうすれば良かったんだ… 」


空夜は姫を抱きしめた。


姫・「 ! 」


兄・「 ごめんな…姫… 」


空夜は姫から10m位走って離れると、持っていた塩を、自分にかけた。


学校の屋上はすっかり暗くなり、一番星が瞬いている。

祭囃子が鳴りやみ祭りも終わりを告げる。

祭りの片付けも後日にまわされ、人々は労い、打ち上げへと行く。

観光客も宿が少ないので、帰って行く。

静かになった学校の屋上。



一番星に続いて、他の星も輝きだした…。



11・星は輝く




「 …クウカ姫… 」


姫・「 ! 」

「 クウヤ…? 王子? 」


姫はポロポロ涙を流す。


今日に至るまでの、様々な感情が入りまじり…あふれ出した。

王子はゆっくりと近付くと、彼女の涙を優しく拭う。


王子は空を仰ぐ。

姫も見上げる。


姫・「 …私、あなたに大切なお話が… 」



☆彡



二人が逢えるのは夜の限られた時だけ。

人の業によって汚され、歪んだ世界はおわりを告げる。


国所蔵の予言絵本には、国のみならず世界の終末が記されていた。

国民は知らない。


予言絵本を読んでしまった王子は、世界の終わりを知り、姫に伝えてしまう。

その後、秘密を知った王子は…咎人とがびとにされてしまう。


約束の日が来た。


しかし…

姫との待ち合わせの場所へ向かう王子だったが、兵士に見つかり殺されてしまう。


…王子は、決して結ばれないと知りつつも、姫にプロポーズをしていた。

姫はすぐ返事をせずに、言葉を濁す。


王子に内緒で指輪をつくり、プレゼントをする予定でいた。

そしてその時に返事をするつもりでいた。


プロポーズの返事を伝えられなかった事が後悔となり、己を責める。


姫も兵士に見つかり、指輪は壊され、宝石は砕け散った。



姫はその欠片を握りしめる。



☆彡



二人が逢えるのは夜の限られた時だけ。

人の業によって汚され、歪んだ世界はおわりを告げる。


国所蔵の予言絵本には、国のみならず世界の終末が記されていた。

国民は知らない。


予言絵本を読んでしまった王子は、世界の終わりを知り、姫に伝えてしまう。

その後、秘密を知った王子は…咎人とがびとにされてしまう。


約束の日が来た。


しかし…

姫との待ち合わせの場所へ向かう王子だったが、兵士に見つかり殺されてしまう。


…王子は、決して結ばれないと知りつつも、姫にプロポーズをしていた。

姫はすぐ返事をせずに、言葉を濁す。


王子に内緒で指輪をつくり、プレゼントをする予定でいた。

そしてその時に返事をするつもりでいた。


プロポーズの返事を伝えられなかった事が後悔となり、己を責める。


姫も兵士に見つかり、指輪は壊され、宝石は砕け散った。



姫はその欠片を握りしめる。



☆彡




姫・「 王子。 これを… 」


姫の手のひらには砕けた指輪の宝石があった。

淡い光を放つと、蛍の光のように輝き、そして強い光の後に、指輪が現れた。


王子は笑顔で受け取ると、姫を抱きしめた。


そして……二人は再び空を見上げる。


二人は今、一緒だ。


二人は見つめ合う。


二人は、星埜兄弟にお礼を言って消えていった。



“ ありがとう ”





「 ……………。 」

「 ……………。 」


固まっている兄弟。


弟・「 …空夜…これは…ノーカンだ… 」

兄・「 …あぁ…何もなかった…何もなかったんだ…。 」


  「 しっかし、お前…それ…キツいな… 」


弟・「 へ? うぉっ! ヒラヒラっ! 」


お姫様の衣装の男子高校生。


「 つーか! 痛っ 足いって! 」

ヒールの靴が足に食い込む。慌てて靴を脱ぐ。


二人はなんとなく空を見上げる。


弟・「 オレにもみえたよ。 二人の最後…。

    オレ…兄貴がみたユメ、バカにしたよな………ごめん 」


兄・「 いや、オレもだ。 男がみる内容じゃねぇだろ、とかさ。

    空の二人に謝んないとな、ごめんな! 」


すると、大きく二つの星が瞬いた。


その星は、指輪の宝石の欠片と同じ形をして輝く。

兄弟は顔を見合わせると、声を出して笑った。


そして背を向け出口へと向かう。


兄・「 空火ぁ。 何度みても、それキツいな 」

弟・「 うるせーよ! つーか、オレの服どこだよ! 」


兄・「 家じゃね? 」

弟・「 いえーーっ?! 家までコレ?! 」


お姫様の服のスカートを両手でつまむ空火。


兄・「 冗談だ、バカ。 」

空火の頭を後ろから軽く小突く。




安岡・「 やっやべっ、こっち来る! 」


屋上の出口で覗いていた安岡は焦る。


安岡・「 ? 」

 「 岡部? 」


一緒にいた岡部は立ち上がり屋上へと向かう。


安岡・「 お、おい、岡部!? 」


屋上へ出る扉に手をかけ、外へと出た。


兄  ・「 あれ? まだいたの? …って、まさか、さっきの見てたんじゃ… 」


青くなる空夜とは逆に、

弟  ・「 お、岡部さ…その恰好… 」

胸元の開いた衣装に空火は赤面する。


岡部 ・「 空火くん、話があるの! 」


男3人・「 ? 」


岡部・「 アタシ、実は男なの! 」



男3人・「 はぁ~~~~~~~~~~~~っ!? 」



ズガぁーーーんっ!!!



嘘だろ?

と思わず3人は互いの顔を見合わせる。


しかし、岡部はというと真剣な顔だ。


どうやら……本当らしいぞ……。



えぇーー……!?



開いた口が塞がらない少年達。

岡部の高校デビューの真実を今しがた突然、知ることになった衝撃。


安岡・「 …ウソだろ…… 」

兄 ・「 な、なにゆえ突然のカミングアウト!? 」


岡部・「 ごめん…やっぱ重いよね…… 」


3人 ・( かなり重いッス!! )


岡部・「 だけど、アタシの気持ちは変わらないから! 」

空火を見つめる岡部。


弟 ・「 ナ、に、がッス、か? 」

岡部・「 空火くんを好きって気持ち! 」


3人 ・「 !!? 」


恐怖で震える空火。


「 逃げるぞ空火姫… 」

兄が弟の手を握る。

「 に、兄ちゃん… 」


兄 ・「 安岡! あとは任せた! ! 」

安岡・「 はあ~~~~~~~~~ぁっ!? 」



走って逃げる兄弟。



岡部・「 安岡! アタシに協力しろよ! 」

安岡・「 …どうしてこうなった……。

  あるイミ初めてがアニキで良かったんじゃないか? 空火…… 」




兄弟は全力疾走しながら笑っていた…。





おわり



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