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VSドラゴン(2)


 ドラゴンの咆哮とともに両者は飛び出し、空中で激しく激突する。それは両者一歩も引かない互角の衝突であった。


「ちいぃっ! 今の俺様でも押し切れねーのかよっ!」


 何度かの激突を経ても衝突は拮抗していた。


「がおー!」


 続いてドラゴンが放ったのは翼を羽ばたかせての突風だった。魔力をともなった突風はトラックの向かい風となってそのスピードを殺す。


「くそっ! 互角どころかこの突風を使われると押し負ける……!」


 運は突風の煽りを正面から受けないよう立ち回らねばならなかった。自然とトラックは突風から垂直に逃げるためドラゴンを中心としてまわりを走らされることとなる。


「がおー!」


 そこに織り交ぜられるドラゴンブレス。


「うわっ! あぶねー!」


 トラックはブレスを魔法も使わずに回避した。が、そこに待っていたのはさらなる突風。大きな車体が突風に煽られれば当然のようにそのハンドルも取られる。


「うっ! やべぇ!」


 そしてそこに猛スピードで迫るドラゴン。


――やべぇな、こんな無防備な状態で突撃を食らったらひとたまりもねぇ。


 運の思考は加速して状況回避の方法を模索する。


――こんなとき、あの大和ってパイロットならもっと機体を上手く使ったはずだっ!


 トラックは荷台を切り離して本体を分離、ドラゴンの突撃を間一髪でかわした。


 ドラゴンは今までに見せなかったトラックの動きに警戒したのか、一瞬攻撃の手を休めたが、すぐにまた突撃を再開した。


「また突撃合戦するなら突き合ってやるよ!」


 迎え討つ体勢のトラック。だがドラゴンは激突の直前で動きを変えた。


 ギラリと鈍く光るドラゴンの爪。


「爪っ!?」


 トラックはとっさに身を翻したが、その爪は完全に避け切れなかったトラックの装甲を軽く引き裂いていく。


「嘘だろ……? 今の俺様のトラック装甲を紙切れみてーに斬ってくのかよ」


 ドラゴンは休む間も与えずにその爪をトラックに向ける。


「こんなにスパッと斬れるのは五十鈴の居合い斬りみてーだな。だが、あのときはたしか……!」


 トラックは爪に対し荷台を剣のように振るってそれをいなした。


「がおー! がおー! がおー!」


 パリィ! パリィ! パリィ!


 トラックは信じられぬ速度で荷台を振るい、いなす。


「五十鈴さん……なんかトラックの動き、ありえなくない?」


「ええ! 運殿ですからね、ありえないくらい当然です」


 地上では久遠と五十鈴がそれを呆然と見上げている。


「が、がおー。がおー」


 ドラゴンはトラックの動きに圧倒され一度距離を取った。そして次に大きく翼を広げると、小さく無数の鱗をその身から切り離してトラックに差し向けた。


「ま、まずい。あれはドラゴンスケイル!」


「五十鈴さん、それって!?」


「ドラゴンの鱗は鋼鉄よりも硬いと言われています。あんなもの、たった一枚でも我々にとっては致命傷になり得るというのに……」


「嘘でしょ!? それがあんな花吹雪みたいに……!?」


 それは舞い散る花びらのように一瞬にしてトラックを包み込む。ところがトラックはその中にいても少しもうろたえる様子が見られなかった。


「そういや、俺様が黒騎士のまわりを回ってたときがこんな感じだったな。だが逆に、今の俺様はそんな鱗ごときじゃ傷一つつけられねー自信があるぜ?」


 襲い来るドラゴンスケイルの中にあっても悠然とたたずむトラック。


「す、すごい。あの中にいても平然としているだなんて……」


「ね、ねぇ五十鈴さん。もしかして、竜の鱗って激レア素材なんじゃ……」


 久遠はすでに呆然を通り越して悪巧みをしている顔だった。


「そ、そうですね。たしかに伝説級の素材だと思います……ですが久遠殿、それが今、何かに関係が……?」


「いっけぇー! お兄ちゃーん! その技もっと使わせてぇー!」


「く、久遠殿っ!?」


「ち、違うの。これは鱗を使わせてドラゴンの防御力を削ごうという作戦っ!」


「そ、そうですよ、ね……?」


 そんな地上での会話をよそに激しさを増す空中の戦闘。ドラゴンは効き目なしと判断するや否や鱗を戻し、再度ブレスの構えを取った。


「お、またブレスだな?」


 しかし次に吐き出されたのは今まで同様の炎ではなく、奇妙な色の煙だった。


「こりゃあ何か特殊効果を持ってんな? 状態異常はドリアード戦で懲りてんだよ!」


 トラックは勢い良く荷台をひと振りし、風圧でその状態異常ブレスを掻き消した。


「が、がおー……」


「お? どうやら困ってきたようだな?」


「が、がおー!」


 ドラゴンは虚勢を張るように再び強く咆哮したあと、今までに見せたことのない速度でトラックのまわりを飛び回り始めた。


「うおっ! なんだこいつ、早く飛ぶことだけに集中するとこんなに速かったのか!」


 その飛行速度はもはや目でとらえることが困難なほどだった。


――まるで忍者マスターだな……あのときは五十鈴の奴、心の目で見ろとか無茶を言いやがって……そんなんできるわけねーだろと思ったもんだけど、さ。


「うおりゃあああっ!」


 トラックの突撃が初めてまともにドラゴンに直撃した瞬間だった。


――これまで戦ってきた経験がレベル以上に俺様を強くさせたってことか。


 そしてドラゴンを中心とする無数の線を引くように走り抜けるトラック。


「オラオラオラオラオラオラ……オラァ!」


「が、がう、が……」


 サンドバッグになりながらも必死に反撃の隙を探すドラゴン。


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄……無駄ァ!」


 ドラゴンはみるみるうちにボコボコになっていく。


――そして勇者たちとの戦闘で得たものは……ちょっと思いつかないが、まぁいいや。


 やがてトラックはさらに上空へ舞い上がると、ドラゴンに向かって垂直に落下し、その一撃はドラゴンを完全に地に沈めるに至った。


「よっし。討伐完了」


 運は余裕の表情でガッツポーズを決めた。


「が、お……」


「これで締めだ。カウンターウエイト」


 ドラゴンの首を拘束するように乗せたトラックに鉄塊のスキルを使用することで、ドラゴンを完全に無力化したにも等しい形となり、勝負は決着した。




 運は身動きの取れなくなったドラゴンの前に立ち、再び話しかけた。


「さて、勝負は決したわけだが、まだ言葉を交わさないつもりか?」


 運はドラゴンに尋ねた。


「……」


「じゃあ、俺たちも決断しねーといけないけど」


 運が指をポキポキと鳴らすと、ようやくドラゴンは観念したように身体の力を抜いた。


「わかった……ボクの負けだよ」


「「ド、ドラゴンが喋ったぁ~!?」」


 久遠と五十鈴は飛び上がって驚いた。


「やっぱりな。荒野の花を避けたり、こっちの動きに合わせて攻撃を変えてきたり、それなりに知能があるんだと思ってはいたが、やっぱ言葉もわかるんじゃねーか」


「うん……わかる」


「どうして今まで人間と対話してこなかったんだ?」


「その前に……この機械、重たいよぉ」


 ドラゴンは地に押し付けられた首を苦しげに揺すった。


「ん? ああ、しゃべりにくいのか。悪かったな」


 運はトラックを収納してドラゴンの拘束を解いた。


「これで大丈夫か?」


「……本当に解いちゃったの? ボク、ドラゴンなのに」


「なんだ? まだやんのか?」


「ひぃっ! もうしないよぅ!」


 拘束が解けたというのにドラゴンは萎縮するように首をすぼめた。


「なら話せよ、訳を。なぜ人間と対話してこなかったのか。なぜ毎年荒野に降りてきて人間を拒絶するのか。俺たちが知りたいのはそこなんだ」


 それを聞いてドラゴンは驚いたように目を見開いた。


「それだけ? それだけのためにボクと戦ったの?」


「俺たちの目的はその先にあるんだがな。できればお前とも話をしてみたかったところだ」


「それでもし、ボクが話を聞かなかったら?」


「異世界送り確定だ」


「ひぃっ! わかったよぅ!」


 ドラゴンは頭を抱えて伏せたかと思えば、その身体はシュルシュルと小さくなり、やがて運たちと同じような大きさの人型となった。


「っ!? 五十鈴さん!」


「ええ! ダークサイト!」


「うお、なんだ? いきなり目の前が真っ暗になった……? おーい五十鈴、何やってんだよ。妨害魔法が俺に掛かっちゃったぞ?」


「運殿に掛けたんです!」


「な、なぜ……以前は俺に魔法は掛けられないとか言ってたのに……」


「見せたくないものは見せたくないんです!」


 そう言っている間に久遠が人型になったドラゴンに自分のローブを掛けた。


 ドラゴンはメスだったのだ。人の姿になったドラゴンは裸であり、小さな角やドラゴンの翼、尻尾が生えているものの、短い赤髪に赤い瞳の可愛らしい女の子だった。


「もういいですよ運殿。魔法を掛けてしまってすみませんでした」


「それはいいけど……」


 運は改めて人型になったドラゴンを見て驚く。


「ドラゴン、お前、人型にもなれるのか」


「ボク、お前じゃなくてダイナ」


「「ダイナ?」」


「ボクの名前。偉大なるドラゴンラグナの娘、ダイナ」


「へええ。じゃあもしかしてドラゴンってほかにもたくさんいるのか?」


 ダイナは少し目を伏せて答えた。


「たぶん、この大陸にドラゴンはもうボクしかいない……」


「どうしてだ?」


「自然に滅んだんだ。その(さが)のせいで」


「「さが?」」


「君たちももう気づいているんでしょ? ボクたちドラゴンは弱者の言葉を聞かない」


「だから人間の言葉も聞かなかったんだな?」


 ダイナは頷いた。


「だけどそれは人間に限った話じゃない。ドラゴン同士であっても同じ。強いメスは自分より弱いオスをまったく相手にしない。いや、自分と同じくらいのオスでも見向きもしないようになってしまった……そんなことで子孫を残すことを放棄すればやがて種は滅びるとわかっているのに、ドラゴンのプライドが、血が、それを拒んだ。だから滅んだ」


「バカなのか?」


「違うよお兄ちゃん。関わりのない種族の言語をも理解している時点で本来ドラゴンはすごく知能の高い存在なんだと思う」


「ですが、知能が高くても愚かな存在は多いものです。例えば自国の領土をも焼いたチリヌ公国の人間のように」


「……そうだったな」


 運たちが再び視線を戻すのを待ってダイナは続ける。


「最後のドラゴンラグナは、それでも種の力を残すため、その力のほとんどをこうして他種族の姿に変えられる能力に変換してボクを残したんだ」


「力のほとんど……って、本来のドラゴンはもっと強かったってことか?」


「前に五十鈴さんが言ってたでしょ? レベル、スキル、魔法……そんな次元じゃなく、人間がどうこうできるレベルじゃないって」


「では、近年各国がドラゴンに勝てる見込みを見出したというのは、転移転生者の増加によるものではなく……?」


「ボクに代替わりしたから、だろうね」


 そう言ってダイナは涙を流した。


「悔しいよぅ。母さんが守ってきたこの地を、ボクは守りきれなかった……わかってる。このあとこの地がどう荒らされようと、弱いボクの言葉になんの意味もないことは」


 そしてダイナは空を仰いで大声で泣いた。


 ひとしきり泣いたあと、ダイナは運の前に跪いて言った。


「ご主人様。以後、ボクはあなたに従うよ。この先、この地をどうするの?」


「「ご、ご主人様ぁ~!?」」


 久遠と五十鈴は飛び上がって驚いた。


「ボクにもドラゴンの血が流れている……だから、ボクに勝った者がボクのすべて。でももし、もしボクのわがままを一つだけ聞いてもらえるなら!」


「この地に咲く白い花のことか?」


「っ! ……さすがはご主人様」


 ダイナは運に深く頭を下げた。


「安心しろ、無闇に踏み荒らしたりはしねぇよ」


「だけど人間は、いつもこの地で戦争を行ってきた」


「この先はそんなことさせねーよ。だからダイナ、お前も俺たちに力を貸せ」


「「えええ~っ!?」」


 久遠、五十鈴は声を上げて驚いた。


「俺たちはここに、町を作る」


 運は三人を見て、自らにも強く決意を固めるように言った。


「ここはもう、戦場にはさせない」


「ご主人様……」


「だがダイナが言うように弱い者の言葉に力はない、それは真理だ。力がなければここで俺たちが町を作ったところで強国の蹂躙を受けるだけだからな。己の主張を通すためにはそれに見合うだけの力が要る。だからもう一度言う。ダイナ、俺たちに力を貸せ。そうすればこの地の花は俺たちが絶対に踏み荒らさせはしねぇ」


「うぅ……」


 ダイナは嗚咽とともに再び涙を流した。


「母の愛した、この名もなき花を守れるのであれば、ボクは喜んでご主人様に従うよ」


「よし! ダイナ、これからはお前も俺たちの仲間だ」


 ダイナの表情は華やかに輝きを見せた。


「うんっ! 不束者だけど、どうか末永く可愛がって。ご主人様!」


 そしてそんな様子を苦笑いで見ている久遠と五十鈴。


「ダ、ダイナちゃん? それだとまるでお兄ちゃんに嫁ぐみたいな……?」


「ご主人様の(つがい)だなんて、ボクには願ってもないことだよ」


「そういえばドラゴンは強者の子孫を残すとかなんとか……って、運殿!」


「お兄ちゃん! まさかそういうこと!?」


「ち、違うぞ久遠、五十鈴! 俺は決してそんな意味で言ったわけじゃねー!」


 詰め寄る久遠と五十鈴にあとずさる運。それを引きつった表情で見ていたのはダイナだった。


「あ、あんなに強いご主人様が威圧だけで……? す、すごい人たちだ……」


「あ、ダイナちゃんは気にしなくてもいいんだよ? これからみんなで仲良くしようね?」


「よろしくお願いします、ダイナ殿」


 久遠と五十鈴が振り返ってダイナに向ける笑顔はとても優しい。


「う、うん。久遠さんに、五十鈴さん。お手柔らかに……」


 しかしダイナは見てしまった。


 二人の表情が運に向かって見えなくなる代わり、運の表情が引きつる瞬間を。




 テア山脈にある洞窟の奥深く。


 暗い闇の中、微かに灯る明かりに三匹の魔物の影が映し出されていた。


「ドラゴンが逝ったか」


「しかし奴はテア四天王の中で最弱……」


「ぽよぽよ」


「荒野が、荒れるな」


「荒れているから荒野なのだが」


「ぽよぽよ」


「どこへ行くルーテシア」


「別に、私がアレを倒してしまっても構わんのだろう? ゾエよ」


「ぽよぽよ」


 洞窟には不穏な空気が漂っていた。


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