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町を作るっ!


 捕らわれたエルフ族を救出したあと、一行はマケフ領にてほかのエルフ族と合流した。


 領主エアロスターの計らいもあり、領内の一角を貸し与えられたエルフ族はドリアードたちと力を合わせて仮の住居を建設。持ち前の技術を駆使した農耕具のエンジン提供等を介して領民との共同生活をつつがなく築き始めていた。


 マケフ領の広々とした農地には新たに開墾された畑が広がり始めていた。元からの住民たちに農作業の指導を受けながら、エルフ族が鍬を握って汗を流している。荒れ地を耕し種を蒔く手はぎこちなかったが、次第に協力の輪も広がり、自然な会話と笑顔が生まれていた。


「……なんか、ドリアードのほかにも見覚えのない精霊が増えているんだが?」


 自給自足を目指し、大地を耕すエルフたちを見て運は言った。


「うふふ。運様が滅ぼされたコエ領からやって来た、地の精霊アーシーズたちです」


 そこに現れて答えたのはカレンだった。


「は? 地の精霊? 俺、コエ領を滅ぼしたのに?」


「うふふ、大地はとても強いですからあの程度では死にませんよ。コエ領もまた、時間を掛けて再生を果たすでしょう」


「そうか……」


 運は再び畑に視線を戻す。


「ごつい姿のわりには優しそうな精霊だな」


 アーシーズたちは力強くも穏やかな気配をまとった精霊であり、その姿は岩と土をまとった巨人のようで、全身は苔と鉱石の輝きを帯びた風貌をしている。褐色の肌に深く刻まれたひび割れからは微かに淡い緑の光が漏れ、その眼差しはとても柔らかい。


「それはもう。地の大精霊ノーム様もお優しい好々爺といった感じですから」


「へぇ……地の大精霊ノームねぇ。カレンはそいつを知ってるのか?」


「ええ。もともと大地は我らドリアードとも相性の良い属性ですから、とても仲良くさせていただいています」


 アーシーズたちはともに農作業に協力するドリアードたちをその肩の上に乗せて、エルフたちが耕した土地にキラキラと輝く魔力の粉のようなものを振りまいていた。


「でもなんでコエ領を離れてやって来たんだ?」


「なんでも地の大精霊ノーム様からの思し召しがあったそうで、運様に協力するためについていらしたのだそうですよ?」


「精霊事情のことは良くわからんが、好意として受け取っておくか……」


「おめでとうございます。これで運様がおられる場所は豊穣が約束されたようなものです。我らドリアードも微力ながら協力させていただきますので」


「それはどうも」


 運はあまり関心がなさげに言った。


「それはそうと、なんでカレンはわざわざ実体化しているんだ?」


「あら。そんなの運様に抱きしめてもらうために決まっているではありませんか」


「あっそう」


「あーん、運様冷たいですぅ」


 身を捩るカレンを無視して運は領内を散策した。


「にしても、すごい数だなエルフ族」


「数千人規模ですからね。いくらマケフ領が恵み豊かであっても、急にこの規模を受け入れるとなると新たに開墾も必要となりましょう」


「一時的な物資であれば俺が買えばいい。だが長期滞在を考えればどう考えても自給率を上げなければならない、か」


「私たち、精霊はお役に立てているでしょうか……?」


 カレンは抱きしめて欲しそうに運を見ている。


「……仕方ねぇな。カレンたちのおかげだよ」


 運はカレンの頭を撫でた。


「しかし、なるほどねえ。それなら仮にエルフ族がこの地を去ることになっても農業が盛んなマケフ領には開墾された田畑が残る……エアロスターも(したた)かなものだな」


「とはいえ、この状況下でエルフ族を受け入れてくれる貴族はそう多くないでしょうから、彼らにとっては本当にありがたいことなんですよ?」


「だろうな。普通は軍隊の追撃を恐れたりするもんだ。影で色々と俺たちを守るように動いてくれているんだろ? あのエアロスター夫妻が」


「人間の貴族のことはわかりませんが、そう考えるのが妥当でしょうね」


「たしか教会の偉い人の親戚でもあるらしいし、表には出さないけど何かと上手く調整とかしてくれているんだろうな……それを少しも鼻にかけないとか、本当に人ができた夫妻だな」


「もちろん、この安定した避難生活はそれだけが理由ではないのでしょうけどね」


「ん? ほかには何が?」


「雷槌トラックハンマー。コエ領をたった一撃で滅ぼすほどの運様のお力。それはもうどこの国においてもおいそれと敵に回すことができない力と言って良いでしょう」


「ああ。今にして思えば、ちょっと頭に血が上り過ぎていたってのもあるがな」


「ですがそれが結果として抑止力となり、みなを守ることに繋がっているのです」


「そうだったのか」


「でなければ、自国の領土を一つ消されたチリヌ公国が黙っているはずがありません」


「だよなぁ……」


「つまり運様はこのチリヌ公国においてめでたく、手を出すとヤベー奴認定されたということなのでしょうね」


「ガーン……せっかくチリヌ公国まで来たのに、安寧の地が遠ざかっちまった……」


――さすがに元から住んでた人を脅かしてまでってわけにはいかないよなぁ……。


 運はガックリと肩を落とした。


「そう気を落とさずに。エルフや私たち精霊、運様を良く知る人たちのなかに運様を悪く言う人はおりませんよ?」


「それだけは救いか……もうあの技は二度と撃ちたくねぇな」


「そうなることを祈りましょう」


 カレンは開墾の様子を見て回る運の片腕に飛びついてともに歩いた。




 そしてマケフ領での生活を始め、三ヶ月ほどの月日が流れた。


 市場ではエルフ族が持ち込んだ技術や彼らの知恵を活かした商品が並び、外部との交易も活発になりつつあった。人間とエルフが並んで食卓を囲み、畑の収穫や家畜の世話を手伝い合う姿はすでに日常の一部となっている。


 夕暮れになると畑の向こうに夕日が沈み、焚き火を囲んだ住民たちの笑い声が響く。マケフ領の広大な空のもと、種族も背景も異なる人々が力を合わせて新たな生活を築いていく光景は穏やかな未来の希望を感じさせるものだった。


 そんなある日のことだった。


「決めた」


 ともに食卓を囲む久遠や五十鈴、ミュー、フィリー、カレンを前にして運は言った。


「お隣の国、ルヲワ共和国へ行く」


「ちょ、ちょ、ちょ! どうしたのお兄ちゃん、そんな急に」


「は、運殿はこの地を出て行ってしまうのですか!?」


 久遠と五十鈴は椅子から飛び上がるほど驚いた。


「いや、別に今すぐに引越しをしようとかじゃない。ちょっとこの世界の建築技術等を学びに行こうかと思っただけだ」


「な~るほど~! それならドワーフの多いルヲワ共和国は最適だろうね~!」


「開拓も進んだし、そろそろ仮住居も卒業したい頃」


 ミューとフィリーは賛同の姿勢だった。


「それもある。この地に残るエルフにはなるべくいい環境を残してあげたいからな」


「あら? それだとやはり運様がこの地を離れてしまうようにも聞こえますが……」


 カレンが首を傾げた。


「ま、ゆくゆくは、だがな」


「「ゆくゆく?」」


「そういうことだ。ここでの生活も慣れてきたところだし、言うのは迷ったんだが、やはりどうしても借りた土地というか、元々の領民からするとお客さんになっちまう」


「ですが、マケフ領の方々は我々をとても暖かく迎え入れてくださっています」


 五十鈴が言った。


「だけど見えないところでエアロスター夫妻に負担をかけているんだろ?」


「それは……領主様たちは少しも顔に出さないので、父も気にしているところでした」


「なんかさ。そういうの気にしているのも、疲れるだろ」


「そういえば……運殿は安寧の地を探していらっしゃるのでしたね」


「おう。だから誰かに無理して守ってもらってまでぬるま湯に浸かっていたいわけじゃない」


「お兄ちゃんらしいね。でも、それじゃあどうするの?」


「うん。それな。それなんだが……」


 運は一同を見渡して言った。


「いっそのこと俺たちで、一から町を作ってしまおうかと思って」


「「えええ~っ!?」」


 漏れなく全員が立ち上がって声を上げた。


「もちろん無理にとは言わない。協力してくれたら嬉しいくらいの気持ちだからな」


「い、一からって、運殿、それはいったいどこに……?」


「そんなの、勝手に始めたらどこの国だって認めてくれないよお兄ちゃん」


 久遠と五十鈴の言葉にもさして気にした様子もなく運は言う。


「だけどさ、この大陸にはどこの国にも属していない土地が一つあるだろ?」


「え~っ!? 運さん、それって、まさか~……」


「ダメだこりゃ……運、頭イカれた」


 ミューとフィリーは頭を抱えた。


「運様? この大陸で誰のものにもなっていない土地など、あそこしかありませんが……」


 カレンも心配な面持ちで運を見た。


 しかし運はそれにも憚らず宣言した。


「おう! 俺は、大陸中央、荒野に一から町を作る!」


「「えええ~っ!」」


 またもや漏れなく全員が飛び上がった。


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