真実の告白
アイリーン視点→レオナルド視点です。
「そうだわ。ちょうど今、アルキオネ侯爵がこの国に滞在していらっしゃるの。近々顔合わせの機会を設けるわね」
私の表情などきっと見えていないのだろう。もしくは、見ていたところでどうでもいいか。
返事など求めていない。王妃が言ったこと、それはもはや決定事項だからだ。
王妃様はその言葉を残し、満足して去っていった。
二人だけの空間が戻ってくる。
でも、先ほど感じていた奇妙な空気は薄れていた。
怒りによって生まれた闇の力が、何かを“相殺”したのかもしれない。
「君は――本当に、母上に気に入られているのだな」
先ほどのやり取りで心底ムカついていた私は返事もせず、ソファーにドカリと腰を下ろした。
フレデリック殿下も対面に腰掛け、私のイヤーカフを胸の内ポケットへと戻す。
一瞬で無表情になった私に、殿下は困った顔をしてみせた。
「私は――君の笑顔を好ましいと思っている。しかし今、君からその笑顔を奪っているのが私だということも自覚している」
「そう思われるなら、返してください。今すぐに」
殿下は首を横に振った。
「それはできない。城内で君を認識できなくなれば、君が処罰を受けることになってしまう。この魔法具を私が持っている限り、君を護ることができる。いつの間にか――君の笑顔が私の一番の幸せになっていた。これから先もずっと君が笑顔を失わないように、私が護ると約束しよう」
物語の中のあの場面とほぼ同じ台詞。
結局は物語通りに進んでいくということなのか。
「自分の身は自分で護ります」
私は物語の中のアイリーンじゃない。
そっちがそう来るなら、全力で抗ってやる。
想定外の返答に、殿下は美しい碧眼を丸くした。
◇
「こちらの魔法具、もう少し詳しく調査したいのですがお預かりしてもよろしいでしょうか」
「無論、構わない。持っていってくれ」
父は魔法具の効力を遮断する専用の箱に、預かったピアスを入れた。
「一度、邸宅に戻ります」
「ああ」
国王陛下は疲弊した顔を手で覆っている。
僕らは静かに席を立つと、応接室から退出した。
話したいことは山ほどあるけれど、王城内ではどこで聞かれているかわからない。
父に質問したい気持ちをグッと堪えて、足早に馬車へと戻った。
ガーネット伯爵家の馬車に乗り込むと、父が小さく呟いた。
「聞きたいことがあるのだろう?」
僕はそんなに落ち着きがなかっただろうか。父にはバレていたようだ。
「はい。国王陛下は疑っておられなかったようですが……フレデリック殿下が操られ、その魔法具がアンドロス製だとすれば、それはほぼ間違いなく王妃様が関わっているのではありませんか?」
父は黙ったまま、僕の質問に耳を傾けている。
今までもそうだった。しっかり聞き、じっくり向き合ってくれた。どんなに忙しくても僕のために時間を取ってくれた。
僕はガーネット伯爵家の息子になれてよかった、と心から思っている。
「王妃様の遠縁はアンドロス王国の侯爵家だと聞いています」
「レオナルド。なぜ、お前がそのことを……?」
今が話すべき時だろう。
「僕には、前世の記憶があります。その世界で読んでいた本の物語は――この世界のことでした」
そして、僕がクオーツ侯爵の息子だということも、修道院に保護されるまでの経緯も、すべてを話した。
「僕のほうこそ、今までずっと黙っていて申し訳ありませんでした」