魔法具の捜索、開始
レオナルド視点です。
「その証拠に一つは王城にある。おそらく、もう片方も」
頭が痛むのか、父は右手で作った拳をグリグリと右のこめかみに押し込んでいた。
覚えのある仕草。
まるで鏡でも見ているようだ。
たとえ血は繋がっていなくても、一緒に過ごした日々が今の僕と父の関係を構築している。
前世から変わらない自分の癖がまさか父に伝染っているなんて。
ともに暮らすうちに容姿だって似てきている。今や魔法具を使わない本来の僕の姿を見て、クオーツ侯爵に似ているとは誰も思わないだろう。
なんてことない仕草一つで親子の絆を感じ、深刻な話の最中にもかかわらず、つい顔が綻んでしまった。
(僕の癖を見て、いつもホッとしているアイリーンの気持ち、よくわかったよ……)
じいやと一緒になってクスクス笑う、愛する人の顔が思い浮かぶ。
今頃、アイリーンは学園で昼休憩だろうか。
父と話している間に日は高くなり、近頃少々肌寒くなってきた空気を温めている。
「明日、王城に行く。お前も付いてきなさい」
「はい、わかりました」
昼食をとろうと父の執務室からダイニングルームへと移動するため、席を立つ。
「まだ、贈られていないと良いのだが……」
ポツリと呟かれた言葉に、胸の奥がゾワリと嫌な音を立てた。
◇
「突然の謁見にもかかわらず、許可くださり、ありがとうございます」
「構わぬ。何かあったのか」
父の視線が国王陛下から僕に移る。
父はゆっくりと瞬きを二回した。
例の魔法具がこの場にはない、という“ノー”の合図だ。この場合、話の流れは――直球。
「魔法具が一つ、私の管理下から消えました」
「何……? 消えた、だと?」
国王陛下の顔が険しくなる。
「はい。正確には――“対”になっているうちの一つ、でございます」
「して、消えたというのは? そなたの家門は“探知”の能力があるだろう?」
「そこが問題なのでございます」
陛下は片方の眉を僅かに上げた。
「その魔法具は王城内で“探知”できなくなりました。対となるもう一つは、まだこの城の中にあります」
「何だと……?」
ここまでの陛下の様子を見る限り、隠し事や何かを知っていて取り繕っているようには思えない。
「ある種の呪いがかけられた魔法具です。陛下の御身も危ういため、一刻も早く見つけ出す必要があります。そこで、陛下にお願いしたいことがございます」
「申してみよ」
「私と、ここにおります私の息子レオナルドが王城内を自由に調べることができるよう許可をいただきたいのです」
陛下は考えるように少し沈黙した後、手元に置かれていたベルをチリンと鳴らした。
その音を聞いた宰相が陛下の側へと素早く近づくと何やら話を始めた。
こちらに内容は聞こえてこないが大方、保安面での相談ではないか、と踏んでいる。
ここまでは事前に父とシミュレーション済みだ。
「許可しよう。今の話の内容を宰相とも共有させてもらった。許可証を発行する。常に携帯するように」
「仰せのままに」
父と僕は胸に手を置き、敬礼する。
「ガーネット伯爵」
詳細な手続きをするため、宰相に促され、謁見の間から出ていこうとした僕らを陛下が呼び止めた。
「不明になっている魔法具はどんな効力をもっているのだ?」
父は足を止め、振り返ると、神妙な面持ちでこう言った。
「人の心を操る、禁忌の魔法具でございます」
国王陛下の顔色がその碧眼の如く青ざめていく。
「それは――早急に見つけ出す必要があるな」
「はい、お任せください」
国王は無関係。
と、なれば――捜査対象者はあと、二人。