不吉な予感
ロードナイト伯爵視点です。
隣国アンドロスとの国境で不穏な動きがあり、緊急で王城に呼び出された。
アンドロス王国では内戦が激化しており、近隣諸国にまで影響を及ぼしている。それはこの国、ジュエライズ王国のみならず、アルカディア王国にまで。
そのためアンドロス王国には今、私の従兄甥であるヴェガード・アステリア公爵令息が滞在している。
彼はとても優秀だ。
学園に入学した歳で一気に闇魔法の才能を開花させ、あっという間に《闇魔法》『破壊』と『消滅』両方を継承してしまった。
過去に両方を使いこなせた継承者はおらず、どちらか一方を代々継承してきたのだが、彼の魔力量は規格外だった。
闇魔法は恐ろしい魔法だ。
使う者が使い方を間違えれば、一瞬にして『破滅』する。だからこそ、管理できる者が管理する必要があるのだ。それ故、アステリア家でも、通常なら『破壊』か『消滅』のどちらかしか継承出来ない。
その点からみてもヴェガードは特別だった。
どちらも継承出来てしまうほどの自制心と魔力、能力を持っていた。
そんな彼が直接出向き、関与しなければならないほど、アンドロス王国は今、腐りきっている。
(アルカディアの属国となるのも時間の問題だろう)
そう考えていたが、彼にしてはやや時間がかかりすぎているようにも感じていた。その矢先、今回の問題が勃発した。
要請があり、向かったのはアンドロスとの国境近くにある修道院。
愛する娘を苦しめた元凶である、令嬢が送られた場所だ。
念の為、監視を付けていたので、修道院まで無事に到着していることは把握していた。
道中で万が一襲撃されたとしても監視員は護衛ではないため、傍観に徹しろと指示していたのだが、特にそういうことはなかったようだ。
真に運の良いお嬢さんだ。
そして今――彼女にとってはさらに運の良い状況になっている。
隣国アンドロスの状況を把握するため、その修道院を拠点とすることが決まり、修道院にいた者たちは皆、王都に移動することになったのだ。
いくら監視を付けているとはいえ、娘に危害を加えようとした者が、今よりさらに接近することになる。
(やはり、ぬるかったか)
マリーの怒りは間違いなかった。
物理的に『消滅』させてしまえばよかった、と後悔するも、ここ最近でかなり闇魔法を使っていることに気づき、ため息を吐いた。
闇魔法を使いすぎると、自分が闇に取り込まれてしまう。大きなものを消そうとすれば、それだけの代償がある。
最近の疲労感や頭痛は、闇魔法の使用頻度が高いからだ。
(こんな時に限って……)
早急にアンドロス王国にいるヴェガードと会い、話をしなければ。
何だか、嫌な予感がする。
今まで立て続けに闇魔法を使うことなど、ほとんどなかった。しかし、今は――まるで不吉な出来事の予兆のように闇の力ばかりを使っている。
「ロードナイト伯爵」
耳障りな甘い声に振り向くと、透き通るような銀髪を後ろで一括りに結び、黄金色の瞳をニッコリと細めた女が立っていた。
「ようこそ、マラカイト修道院へ」
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