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【完結】悪役令嬢が転生者の異世界で主人公やってます!  作者: 夕綾 るか
第三章

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『幸せ』の基準


 ふと気がつくと、私は豪奢な部屋の広すぎるベッドで横になっていた。


 学園にあるクリスタルガーデンでフレデリック殿下と話してから、その後の記憶がない。

 窓から差し込む光は、あれからそう時間が経っていないように思えた。


 私が上半身をゆっくり起こすと、そのタイミングを見計らったように部屋の扉からノック音が聞こえた。

 こちらの返事も待たず、扉が開かれる。


「そろそろ目覚める頃だと思っていたんだ。ちょうどよかった。気分はどうだい? アイリーン」

「最悪です」


 ニコニコと屈託なく微笑んでいる王子様を思い切り睨みつける。

 私の態度と返事が予想外だったのか、目の前の端正な顔が驚いたように目を見開き、瞳を瞬かせた。


「元気はあるようだ」


 そんな反応も束の間、元の柔らかい笑顔に戻る。


「部屋に朝食を用意させるから、一緒にいただこう。食べ終わったら、早速、妃教育を始めようか」

「……朝、食……?」


 私が首をかしげたので、フレデリック殿下は「ああ」と納得し、補足した。


「君は丸一日、寝ていたんだ」

「は……?」


(どういうこと? あれはもう昨日の出来事ってことなの?)


「とにかく、一度家に帰らせてください」


 今のこの状況を父と母に相談したいし、レオとも話をしたい。

 最近はレオとずっと一緒にいることが多く、ほんの少しの間でも離れていることのほうが違和感がある。当たり前のようにそばにいた愛する人が今はいない。できることなら、今すぐ会いに行きたい。


「それはできない」

「なぜです? 私が自由に帰宅できないのなら、それは誘拐や監禁になります」


 殿下は困ったように眉を下げた。


「人聞きの悪いことを言わないでくれないか。これは正式に手続きを踏んでいることなんだ」

「私の父が許可するとは思えません」


 こんな理不尽な要求、認めるわけがない。


「すでに君の父上には許可を得ている。そうだ、直接、父上と話せばいい。この部屋に連れてこよう」


 私が「よかった」とホッとしかけた瞬間――


「一度、しっかりと挨拶しておくのにも良い機会だろう。父親であるアルキオネ侯爵に」

「は、はい……?」


 言っている意味がわからず、ポカンと呆ける私に、殿下は優しく微笑む。


「言ったではないか。君の新しい父親だ」

「私の父親はアシェル・ロードナイト伯爵、ただ一人です!」


 私はベッドから出て立ち上がり、ボコボコと沸き起こるドス黒い感情を抑え込むように、両手で拳を握りしめた。

 殿下はそんな私の興奮を抑えるように両手を胸の前で開いた。


「まあ、落ち着いて話そうか」


 近くにある椅子を引くと、私に座るよう促す。

 どんな時でも紳士的なのはあの悪役令嬢ディアーナにさえ優しくできた王子様だからだろうか。

 さすが主人公の相手だけある。


「とにかく、私の父であるロードナイト伯爵を呼んでください」

「申し訳ないが、それはできない」

「なぜですか!」

「ロードナイト伯爵は今、隣国アンドロスとの国境にいて、しばらく帰ることはできない。なぜか、という問いには答えられない。君はまだ正式な王太子妃ではないからな」


(そんなの、ずるい!!)


「それから――これは、私からの提案だ」


 私が唇を噛み締め、眉を寄せると、バツが悪そうに殿下は苦笑いを浮かべて言った。


「君が私の婚約者になり、妃教育を受けてくれるのなら、クオーツ侯爵令息の調査はこのまま打ち切ろうと思っている」

「え……?」


 私の表情の変化に、殿下は少し口角を上げた。


「考えてみてくれ。彼がクオーツ侯爵令息だと証明された場合、彼はどうなる?」

「……っ!!」

「今と同じ水準の生活は難しくなるだろうな。それに君が婚約しているのはガーネット伯爵令息だ。その人物が存在しないなら、婚約は白紙に戻る。新たに彼と婚約を結ぶことはできないだろう?」


 別にそれでもかまわない。私はレオと一緒に生きていきたい。幽閉された犯罪者の息子だろうが、身分差があろうが、そんなのどうってことない。身分が邪魔するなら、そんなもの、私が捨てればいいだけだ。

 まあ、きっと私の父も母もそんなことさせないだろうけど。


「ならば、君は王太子妃になったほうが幸せになれるのではないか」


 一方的な価値観による提案のおかげで、冷静になることができた。

 私がにっこりと微笑むと、フレデリック殿下は理解してもらえたのだと嬉しそうに破顔する。


「殿下のご提案、謹んでお断りさせていただきます」

「え?」


 殿下の顔からごっぞりと表情が消える。


「私は王太子妃にはなりません。殿下の婚約者にもなりませんし、妃教育を受けることもいたしません」


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