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安寧の日々と幸せ


「『私の愛する人を傷つけたこと、絶対に許しません』って、心の底から怒ってくれたのが嬉しくないはずないでしょ? 僕のために光も闇も発現させたなんて、僕だけのアイリーンみたいでさらに嬉しいんだけど」


 夕陽に赤く染まったレオの瞳が、まっすぐ私を見つめている。


「しかも、闇魔法持ちの聖女って――何だか、すごく特別じゃない?」


 黒に近い濃赤色の瞳を細めて、にっこり笑う。


「さっきも言ったけど。今の僕はアラスターじゃないし、アイリーンだって物語の中のアイリーンとは違うでしょ? 中身は愛莉なんだから。物語のアイリーンと比べる必要なんてないし、今のアイリーンは愛莉のままでいいんだよ」


 そうだ。最初にこの世界のことを思い出したとき、思い切り楽しんでやろうと思っていたではないか。

 大好きな物語の主人公に転生し、美しいものを思う存分、間近で堪能できる環境に歓喜していたはず。


 それにレオの言う通り、光魔法も闇魔法も使えるなんて、物語のアイリーン以上の主人公チートだ。後ろ向きに考えるなんて、もったいない。


「そうだよね! 私――……んっ!?」


 零れ落ちそうになっていた涙を人差し指で拭うと、俯いていた顔を上げ、レオに向けた瞬間――とびきり美しい顔が私の目前にあった。


 触れていた温かい唇がそっと離れ、間近に見えていた長いまつ毛がゆっくりと開く。


「この前の仕返し」


 あまりに突然の出来事に驚いて、私が口をパクパクさせていると、レオがニンマリと笑った。


「好きだよ、そのままの君が。だからさ、もっと自信持て。大丈夫、大丈夫。アイリーンが一番可愛いよ」


 昔と変わらない、いつも私を安心させてくれる魔法の言葉に、私もいつものように笑顔で返す。


「うん、わかってる」


 今度はどちらともなく、互いに引き寄せられるようにゆっくりと瞳を閉じた。


 いつの間にか辺りは暗くなり、濃紺の空に無数の星が瞬いていた。





「うーん。なんだかなぁ……」


 すっかり紅へと色づいた葉を、乾き始めた風がカサカサと揺らす。窓際のカーテンがふわりと舞い、私の席をかすめた。


 レオの回復を待ち、一緒に登校し始めたのだが――またガッチリと認識阻害の魔法具を使っている。

 そのため、友人を作るどころか、人との交流をすることすら難しい。

 

 ジルコニア公爵が爵位を剥奪されたことで、その跡を継ぐ予定だったディルクや、修道院へと行くことが決まったディアーナの従者をしていたカイルスはそれぞれ退学が決まり、各々元の家に戻ったようだ。

 私たちが休んでいる間にいなくなったので、詳しくは知らない。もしかしたら、裏で父が手を回したのかもしれないけれど、どちらにしても、今後、彼らと顔を合わせることはほぼないだろう。


 だから、もう魔法具は必要ないし、友だちも作れるかな、なんて考えていたのだが。


「仕方ないよ。アイリーンの能力を知ってそれを利用しようとして近づく人がいるかもしれないでしょ?」


 私が納得いかないと不満を口にすると、対になった魔法具(イヤーカフ)を付け、唯一私の存在を認識できる婚約者様が私をなだめる。


「この世界の主人公として生まれ変わった運命(さだめ)だね。それはもう、諦めな?」


 真っ黒な前髪で美しい瞳を隠した婚約者様は、口元に大きな弧を描く。


 私は眉を顰め、唇を真横に引いた。


「僕が側にいるじゃん。それだけじゃ、不満なの?」


 前髪を徐ろに掻き上げた婚約者様は、その美麗な顔に憂いの表情を浮かべる。

 その美しさに思わず「うっ……」と息が止まった。


「それ……わかってて、やってるでしょ?」


 にっこりと微笑んだ愛しの婚約者様は、右手で髪をクシャリと握り、右のこめかみをグリグリと擦る。


 いつものクセの発動に、私は思わずクスリと笑ってしまったのだった。



(第二章 完)

ここで、第二章は完結となります。

第三章は――あの御方との対決です。



「うふふっ。これでようやくすべてが揃ったわ。邪魔だった()()()()はいなくなったし、彼女の能力は解放された。()()()はやっぱり王子様と結ばれなきゃね」


 クスクスと笑う声が豪奢な部屋に響き渡っていた。

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