特殊な日々と断罪①
ロードナイト伯爵視点です。
概ね、予想通りだった。
レオナルドをクオーツ侯爵家から連れ戻した後、クオーツ侯爵にかけた闇魔法の効力が切れる前にすべて対処する必要があったのだが、発現した能力についても、国王に報告する義務があるため、こちらにとって好機だった。
アイリーンに神聖力を伴う光魔法の能力が発現したこと、そして、その経緯を国王へ報告するため即座に登城した。
「それは、事実か?」
「こちらを御覧ください」
胸元に付けていたピンを外すと、謁見室のまっさらな壁に記録を映し出す。
何事にも証拠が必要。記録用の魔法具など、容易に準備できるくらいの資産はある。
映し出されたのは、クオーツ侯爵家の一室に両手足を縛られ生気を失ったレオナルドの無惨な姿と、それを目の当たりにしたアイリーンの呆然と立ち尽くした姿。
私がレオナルドの拘束を解いていく間、アイリーンがその傍らに跪き、彼の手を握りしめた。
突然放たれた眩しい光で一瞬、映像が途切れた後、再び映ったレオナルドの顔には先ほどまでの青白さが消え、ほんのりと赤みがさしていた。
そこまで再生して映像を切り、パチリとピンを胸元へ留め直した。
「陛下。一刻も早い、クオーツ侯爵の拘束を」
「うむ。今すぐ兵を向かわせよう。――衛兵! 直ちにクオーツ侯爵を捕縛し、牢へ投獄せよ」
傍らに控えていた騎士の数名が敬礼し、謁見室から出ていった。
残るは――ジルコニア公爵家のみ。
それについては、クオーツ侯爵本人から直接、聞けばいい。
クオーツ侯爵が収監されたという情報が入り、その場所へと赴くと、直接“尋問”した。
そうして聞き出した内容は、概ね予想通りだった、というわけだ。
やはり、あの“テンセイシャ”であるジルコニア公爵令嬢がクオーツ侯爵を唆したのだ。
彼は記憶を失ったアラスター。彼がクオーツ侯爵家に戻れば、侯爵家の未来は安泰だ、と。
そして、豊石祭の日。我が家から帰る途中のレオナルドが乗った馬車を襲撃し、それを事故に見せかけ、彼を拐ったことまで聞き出せた。
すべてを話し終えたクオーツ侯爵は力尽きたようにバタリと硬いベッドの上に横たわった。
「おや? あの時のレオナルドと同じ状態にして差し上げようと思っていたのですが……もう参ってしまったのですか?」
クオーツ侯爵の耳元でパチンと手を叩く。
彼はビクリと身体を震わせ、目を開けた。
「まだまだ眠るのは早いですよ。我が娘婿にしてくださった饗しは、きっちりお返ししないと。せめてあと一日くらいは、もってくださいね」
「頼む、もう……やめてくれ……」
すがりつくような瞳で見つめられる。
先ほどまでの威勢の良さは微塵も感じられない。
それもそのはず。この短期間に闇魔法を二度も受けたのだから。今や彼の心は暗闇に沈みかけている。
救う手立てはなくもないが――果たして、彼女らがそれを望むだろうか。私にはそうは思えなかった。
「むしろ、当然の報いだと思うが?」
闇に取り込まれそうになり、地を這うような唸り声を上げるクオーツ侯爵に背を向けると、部屋を出る。
ガチャリという無機質な音だけが背中に響いた。
屋敷へ帰る馬車の中。流れる景色を見つめながら、今までの出来事を振り返る。
クオーツ侯爵から聞き出した話より、遥かに想定外だったのは――娘の能力のほうだ。
妻の神聖力でも数日かかると思われたレオナルドの回復に、アイリーンは僅か数時間しかかからなかったのだから。
翌朝、レオナルドの様子を見に行くと、ベッドの背にもたれかかるように上半身を起こした状態で、二人は寄り添うように肩を並べながら、すうすうと寝息を立てていた。
アイリーンの頬には涙の跡があったが、その寝顔はとても幸せそうにみえた。
娘のその様子でレオナルドが目を覚ましたのだ、と確信した。
二人が起きるまで待っている時間はなかったため、正確に確認はできていないが、その場にいたマリーがその回復に驚いていたから、まず間違いないだろう。
私の娘は――規格外の光魔法を持っている。
それだけでも、これから大変な思いをするかもしれないのに。
屋敷に戻ったら、私は伝えなければならない。
君が学ぶのは――“光魔法”だけではない、と。