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不測の日々と希望④

ジルコニア公爵視点→ディアーナ視点です。


「大変な事になった……」


 執務室で頭を抱え、大きく息を吐き出した。


 先日、訪ねてきたばかりのクオーツ侯爵の家から、今しがた使いの者が来た。

 その者の話によると、昨日、クオーツ侯爵家にロードナイト伯爵とその娘が訪問し、ガーネット伯爵令息を名乗っていたアラスターを連れて帰ってしまったということだった。

 それだけでなく、クオーツ侯爵はその日、突然倒れ、それから一度も目覚めていないらしい。その場に居合わせたロードナイト伯爵からは「二日ほどで目覚めるだろう」と言われたようだ。


 この報告が示しているのは――


「ディアーナを呼べ」


「かしこまりました」


 側にいた執事に指示すると、しばらくして控えめなノック音が聞こえた。


「お呼びでしょうか、お父様」


「ああ、そこに座りなさい」


 ディアーナはなぜ呼ばれたか、まったく見当がついていないようで、不思議そうな顔をしながら、応接用のソファに腰かけた。


 最近は私に対して怯えた表情を見せなくなったが、少し前まではあらゆることに常に怯え、不安そうな顔をしていた。

 それが今は私のことを信頼しきっている。


 未来がわかると言った時、私がそれを一切疑わず、受け入れたからだろう。

 もちろん心から信じていた。疑う余地など少しもなかった。現にそのとおりに起きたこともあるし、それによって救われたことも幾度となくあったのだから。


 ただ、その未来にならないように動けば、その事象は起こらないのも事実。

 要するに、()()()()()()()()のだ。


「今、ディアーナにはどんな未来が視えているのだ?」


「え……?」


 言葉の意味が理解できなかったのか、ディアーナは首を傾げた。

 質問が漠然としすぎていただろうか。


「クオーツ侯爵家にアラスターが戻ったことで、今、視えている未来は以前と変わったか?」


「私には……変わった後の未来は視えません」


 急に不安げな顔をしたディアーナに、私はできる限り優しく問いかけた。


「では、この件についての未来はわからない、ということだな?」


「……はい」


 うつむき加減で肩を小さく震わせながら、私の反応を伺うように見つめている。


「わかった」


 私が「もう部屋へ戻って良い」というとディアーナは立ち上がり、執務室から出ようとしたところで振り返った。


「あの……何かあったのでしょうか」


 ビクついてはいるが、呼ばれてされた質問の意図が気になっているようだ。

 正直に話してみたほうがいいだろうか。


 そもそもの始まりはディアーナの未来視なのだから、伝えておいたほうが良いかもしれない。


「アラスターはロードナイト伯爵家に移動したようだ」


「えっ!? なぜですか?」


 あり得ないと言わんばかりに驚く。


「クオーツ侯爵が倒れ、その間にロードナイト伯爵とその令嬢が連れ出した、と」





「そんな……」


 公爵様からの呼び出しで執務室に行ってみると、思いがけない質問をされた。


 そもそも未来が視えるのではなく、物語がどう進むのか知っているだけなので、変わってしまった未来の話などわかるわけがない。


 でも、なぜそんなことを言われたのか気になって聞いてみたら、せっかくクオーツ侯爵家に戻れたはずのアラスターが、ロードナイト伯爵とアイリーンに連れ去られたなんて。


 やっぱり、物語は主人公を護るようにできているとしか思えない。


 私は公爵様から聞いた話に絶句した。


 これからクオーツ侯爵家に通い、少しずつ時間をかけてアラスターの記憶を取り戻し、同時に侯爵様との親子関係の改善も手伝っていこうと思っていたところだったのに。


 アイリーンは何で親子を引き離そうとするのだろう。確かに物語の中でも、アラスターに侯爵様以上の浄化能力が発現したら、領地に戻るようにと侯爵様に伝え、二人が一緒に暮らせるようにしていなかった。


 でも今は、私が物語を変えてしまったせいで、アラスターは記憶を失い、ガーネット伯爵家の令息レオナルドとして、アイリーンの婚約者になっている。


 主人公の婚約者だから――


(だから、彼を取り戻そうとしたの――?)


 そんなの、身勝手すぎる。


 アラスターはレオナルドなんかじゃなく、本当の家族がいるのに。

 幼い頃は父親に厳しくされていたかもしれないけど、それも誤解が解ければ和解できるのだから、本当の親のところに戻ったほうがいいに決まってる。


「お父様。アラスター様は本来いるべき場所に戻ったほうが良いと思います。伯爵家ではなく、侯爵家に」


 私は当たり前のことを言ったはずなのに、公爵様の返事は冴えない。


「確かに、ディアーナの言う通りだ。しかし、それはクオーツ侯爵が()()()取り戻していれば、の話だ」


「どういうことでしょうか?」


「少し調べる必要がある。最悪の場合、巻き込まれる可能性もあるからな」


 公爵様は眉をしかめ、何か考え込んでいる。

 私としては、アラスターがアラスターとして幸せになってくれればそれでいい。


 それとも――本来結ばれるはずのない主人公と一緒にいられたほうが、彼にとっては幸せ?


 彼女を見つめる彼の瞳が脳裏に蘇り、私の胸をぎゅっと締めつけた。


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