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【完結】悪役令嬢が転生者の異世界で主人公やってます!  作者: 夕綾 るか
第二章

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残酷な日々と覚醒⑥


 ある部屋の前でピタリと止まった。握りしめていた魔法具(イヤーカフ)の共鳴が一段と強くなる。


 見覚えある扉の模様。あの本の挿絵にあった通り。

 ここは――アラスターの部屋だ。


 私はぎゅっと拳に力を込めた。


 ここに導かれたということは、すなわち――レオがアラスターとしてこの部屋で監禁されている、ということを示している。


「リニー」


 父の優しい声に呼ばれた。父の手が私の唇にそっと触れる。


「気持ちはわかるが、力が入りすぎだよ」


 私は思いの外、強く唇を噛み締めていたみたいだ。下唇が切れ、父の指には拭った血が滲んでいた。


「入ろうか」


 父が扉を開いた。その部屋の中は薄暗く、物音一つしない。


 暗さに目が慣れてきたと同時に、私の瞳に恐ろしく無惨な光景が映し出された。


「……レオ!!」


 両手足をベッドに固定され、ピクリとも動かない、変わり果てたレオの姿があった。


 息をするのを忘れてしまうほど、身体が硬直する。


「嘘……」


 私は覚束ない足取りでベッドへと近づく。


「……起きて、レオ。目を開けて」


 父は黙ったまま、レオの拘束を解いていく。


「ほら、もう大丈夫。だから、いつもみたいに右手で頭グリグリしてよ」


 ベッドサイドに跪くと、だらりと力の入っていないレオの右手をギュッと握りしめた。まだ――温かい。


「何で……? どうして、レオがこんな目に遭わないといけないの?」


 もう、物語なんて関係ない。

 主人公とか、転生者とか、異世界とか、そんなの、どうでもいい。


 私は――今までずっとレオに救われてきた。


(だから、今度は――私がレオを救ってみせる!!)


 私が握りしめていたレオの手に額をつけると、その隙間から眩い光が漏れ始めた。

 やがて、その光はレオの身体全体を包み込む。


「……リニー?」


 向かい側にいた父が大きく息を吸った。 

 私は瞑っていた目をゆっくりと開き、レオの手から額を離すと、視線を父へと向けた。


「許せません」


 身体の奥底から黒い感情がボコボコと止めどなく湧き出てくる。

 父の瞳が大きく見開かれた。


「私の愛する人を傷つけたこと、絶対に許しません」


 父は大きく息を吸い込んで、はぁと吐き出した。


「いつかこんな日が来るのではないかと思っていた」


 父は私の隣に来ると、なだめるように私の肩にポンと手を置いた。


「発現したての力は、制御が難しい。これから学ぶといい。今回のことは、私に任せなさい」


「でも……っ!」


 私が父の顔を見上げると、父は小さく首を振った。


「リニー。今の君の力はとても不安定だ。レオナルドを救うことはできたけれど、いつ暴走してもおかしくないのだよ。それこそ、怒りに任せて使えば、大変なことになる」


 いつの間にか治っていた下唇を噛み締めた。


「今はレオナルドをここから連れて帰ろう」

「……わかりました」

「いい子だ」


 父は私の頭をポンポンと撫でると、レオの側へ行き、抱き上げた。そして、屋敷の外へと運び出した。


「ロードナイト様」


 先ほどクオーツ侯爵を運んでいった執事に呼び止められる。振り向いた父が彼と目を合わせた。


「閣下の心配は不要。二日ほどで目覚めるだろう」


 執事はホッと胸を撫で下ろしていた。


 ただ――きっと、その間に次の職探しをしたほうがいいとは思うけれど。


 走り出した馬車の中。私は蹄の音に交ざって聴こえてくる、すうすうという寝息に安堵していた。


 あのままレオを失っていたのではないかと思うと、背筋が凍る。しかし、それがきっかけで、聖女として覚醒するなんて。今でも信じられない。


 私はふわりと温かくなった両手を、ぼんやりと見つめていた。



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