表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/104

残酷な日々と覚醒④

ディアーナ視点です。


 豊石祭で主人公アイリーンと、王子様であるフレデリックに起こるイベント。

 今ではもうありえないとは思っているが、いまだに恐怖心が芽生えてしまう。


 豊石祭当日、フレディに「一緒に行こう」と誘われたものの、やはり怖くて行けなかった。

 そんな私に付き添うように彼はずっと一緒にいてくれた。それどころか「無理に誘ってしまい、すまない」と申し訳なさそうにうつむいていた。本当にフレディは優しい。


 私はいつものようにフレディとディルク、カイルスとティータイムを楽しみ、夕暮れ後はバルコニーで街の方から聞こえてくる音楽や時折、上がる花火の音に耳を傾けていた。


 物語では主人公アイリーンが王子様からペンダントを貰い、二人の距離が急速に近づく。それを見ていたディアーナはアイリーンに激しく嫉妬し、亡き者にしてやろうと憎悪を燃やす。


 でも今は、私の目の前にフレディがいる。視線が合うとにっこりと甘く微笑んでくれる。

 そして、義兄のディルクも、従者のカイルスも。皆、私の前にいる。


 今、ここにいないのは――


(――アラスターは今、どうしているのかしら?)


 私が物語を変えてしまったせいで、今はレオナルドと名乗っているけれど。

 私のせいで変わってしまったのだから、私が何とかして彼を救うしかない。


 元の物語では主人公アイリーンが彼の能力を引き出し、侯爵との確執を解決する。

 でも、それはディアーナがアイリーンに危害を加えたことで覚醒した聖女の力を使って、だ。


 今の私はアイリーンに危害を加えていないし、おそらく彼女は聖女として覚醒していない。


 そうなると、クオーツ侯爵とアラスターの間の確執は私が『先読みの能力』を使って、侯爵に未来の話をし、説得すればいい。

 もうすでに先日、布石は打ってあるのだから。



 豊石祭の翌日。


 クオーツ侯爵がジルコニア公爵家へとやってきた。

 私は父である公爵様から同席するように伝えられ、応接室へと向かう。


「先日は貴重なお話、ありがとうございました。確認いたしましたところ、間違いございませんでした」


 侯爵様は胸に手を当て、恭しく一礼した。


「それで……アラスター様は今、どちらに?」


 私が問いかけると、侯爵様はアラスターに似た美しい顔で微笑んだ。


「我が家へ戻り、再教育中でございます」


 私はアラスターが物語に出てきた場面を思い出していた。




 クオーツ侯爵家の繁栄。それだけのために、自分の能力をひたすら磨いてきたクオーツ侯爵は、たった一人の息子に対しても、それを強いてきた。

 侯爵自身、常にその重責に押しつぶされそうだったのだ。

 だから、後継者であるアラスターの身体が弱かったことが許せなかった。


 弱いのは、鍛錬が足りないから。

 弱いのは、能力が足りないから。

 能力が足りないのは――父である、自分の責任。


 そうして、自分自身のことも、アラスターのことも認められず、少しずつ壊れていき、ディアーナがトドメを刺した。


『あなたの息子、本当に出来損ないね?』


 それから、クオーツ侯爵は、能力を向上させるまで出ることは許さないと、アラスターを監禁した。




(まさか――そこまではしてないわよね?)


 目の前で穏やかに微笑んでいる侯爵様から“狂気”のようなものは感じない。


 だからといって監禁されていないという確証はないし、何より私にはアラスターの人生を歪めてしまった責任がある。


「私の能力については信じていただけたかと」

「もちろんでございます」


 年齢を感じさせない眉目秀麗な顔が瞳を細め、口角を上げた。


「では、もう一つ。アラスター様は成長するにつれて吸収の許容量が膨大に増え、いずれはあなたを超える立派な侯爵になります。だから優しく見守ってもらいたいのです。そして、アラスター様が覚醒した後、すぐに爵位を譲り、侯爵様は領地でゆっくりと過ごしてください」


「……何ですと?」


 侯爵様の顔から笑みが消え、真顔に変わる。


 小心者の私は内心穏やかではない。今すぐにこの場から逃げ出したいという気持ちを何とか堪えた。


「それが私の視た未来。クオーツ侯爵家の繁栄の要件なのです」


 侯爵様の美しい真顔からわずかに力が抜ける。


「わかりました」


 私はホッと胸を撫で下ろした。


(これできっとアラスターは幸せになれるわ!)


 私は舞踏会で出会ったアラスターを思い出す。


 彼がアイリーンを見つめる瞳が忘れられない。あの瞳の先にいるのが私だったら……


 そんな幻想を思い浮かべて、「あれ?」と首を傾げた。前にもあの瞳を見たことがある、と。


(そうだ……! あの時の――彼の瞳だ!)


 前の世界で死んだ時、私の二つ前に並んでいた人。あの人が私の彼だったらな、と羨ましく思っていた。

 彼が隣にいる彼女を愛おしそうに見つめる瞳。それと同じだった。


 もしもこれでアラスターを救えたら、アイリーンはどうなるのだろう。

 レオナルドと婚約しているけど、彼はクオーツ侯爵家のアラスターであるわけだし。そのまま婚約を継続することは不可能だろう。


(もしかして――)


 そこまで考えて、それを断ち切るかのように、私は首を振った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
物語を知ってるはずのなのに父親のクズっぷりを知らない? まじでなんで?
考えの浅さで迷惑行為しかしてないですが、もともと高校生なので仕方ないんかな。
わーーー! ディアーナさっさとザマァされて欲しい! すごくうまくヘイト稼いでるな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ