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はじめまして、が失礼ですよね?


「そこまでして我々と接点を持ちたいのか? なんと浅慮な……」


 私は今、大好きだった物語の登場人物たちに囲まれている。

 本来なら美しいものに囲まれ、気分が高揚する場面であるが、この状況はどちらかというと“蛇に睨まれた蛙”といったところか。


 中庭の大きな木の幹を背にして、三方向を美形三人衆が私の行く手を阻むように立ちふさがっていた。


 なぜ、こんなことになっているか。


 昨日、レオにプレゼントされた眼鏡をかけてきた私は、早速その効力を実感していた。

 教室に入るときの視線や同じクラスにいるカイルスの睨みを受けずに席に着くことができたからだ。


「おはよう、アイリーン」


 すでに後ろの席に座っていたレオが口角を上げた。


「似合ってるね。効力も問題ないみたいだ」

「そうなの。とても快適な登校だったわ。本当にありがとう!」

「どういたしまして」


 黒い前髪で隠れた眼鏡の奥の瞳が細くなったのを感じた。


 昼休みまでは順調だった。

 気候も天気も最高なので中庭で昼食をとることにし、空いているベンチに座った。春の木漏れ日が降り注ぎ、そよそよと風が頬を撫でる。

 私はバスケットから持参したサンドイッチを取り出し、小さく「いただきます」と呟き、食事を始めた。


 中庭に咲いている花を眺めながら、ゆっくりととる昼食は、学園の中で初めて心が休まる時間になった。

 悲観的になっていないと自分では思っていても、異世界に転生したことで、知らないうちに緊張していたのかもしれない。

 それにこの世界は、知っているはずの物語とは違っている。それもきっと原因の一つかもしれない。


 ゆったりと昼食をとれたことで抗えないほどの睡魔に襲われた私は、ゆっくりと瞼を閉じた。


 ――少しだけ。ほんの少しの時間だけ。


「え……? なぜあなたがここにいるの!?」


 突然、悲鳴にも似た声が聞こえ、遠くなりかけていた意識が、一瞬で引き戻された。


 見たことのある美少女。彼女を守るように背に隠した三人の美麗な青年たち。


 私は俯いたことでズレてしまっていた眼鏡をぐいとかけ直した。


「その眼鏡は……認識阻害の魔法具か?」


 美形三人衆の一人、ディルクが眉間にシワを寄せる。


「そこまでして我々と接点を持ちたいのか? なんと浅慮な……」


 ディアーナを背に隠していたフレデリック殿下が苦虫を噛み潰したような顔をした。


「そういえば、今日は気配を感じませんでしたね。あやうく騙されるところでした」


 カイルスは顎に手をかけ、唇を引き結んだ。


 何やら好き放題に言ってくれてるけど、カイルスとフレデリック殿下はまだしも、ディルク様もディアーナ様も初対面だからね。まあ初対面だった二人も同じように失礼だったけど。


 私は立ち上がって、制服を整えると、スカートの端をちょんとつまみ、淑女の礼をとった。


「ご機嫌麗しゅうございます、フレデリック殿下。ジェイド様。初めてお目にかかる方がいらっしゃいますのでご挨拶させていただきます。わたくし、ロードナイト伯爵家アイリーンでございます」


 初対面ですよ、と強調してみせたけれど、あまり響いていないみたい。


 ディアーナは私を見て、ぶるぶると震えているし。そんなディアーナを美形三人衆は心配そうに気にかけている。


 殿下、カイルスといい、ジルコニア兄妹といい、初対面なのにその態度、失礼じゃない? いったい私が何をしたっていうの?


「ロードナイト伯爵令嬢。君がどんな手段を使おうと、私が君に心奪われることはない」


(――ん? えっと? 何を言ってるの?)


 急にそんなこと言われても……頭が追いつかない。そもそも初対面であんな態度をとっておいて好感なんてもてるはずもない。


「私の心にいるのはディア、ただ一人だ」

「そうですか。どうぞお幸せに」

「「「えっ……?」」」


 美形三人衆が同じような反応をした。驚いたように呆気にとられている。


 物語を知る転生者の主人公ならどうにか軌道修正をしようとするのが王道かもしれないけど。――あ、私が主人公だった。

 

 でも、私は気がついたのだ。昨日、レオから聞いた噂の内容といい、今日のディアーナの反応といい、美形三人衆の言葉といい、すべてが一つの結論に至っている。


 それは、悪役令嬢ディアーナもまた転生者だということだ。



 

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