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充足の日々の回想③


「「え……っ?」」


 母の口から思いもよらない言葉を聞いた私たちは、思わず同時に反応してしまった。


「……あなたたち、二人とも『テンセイシャ』が何か、知っているの?」


 両親に見つめられ、瞳が揺れる。


「こちらに来なさい」


 父は私たちをサロンへと誘導し、侍女に茶の用意をさせると、全員を下がらせた。


 人払いの済んだサロンが静寂に包まれる。


 部屋の中央に飾られた黄色い大輪の花が月明かりの差し込む窓に向かって、心なしか俯くように咲いている。まるで太陽の光を待ちわびるかのように。


「発言をお許しいただけますでしょうか」


 その静寂を破ったのはレオだった。

 私は隣に座る彼に視線を送る。レオは対面に座る父と母にまっすぐ視線を向けていた。


「構わないよ」


 父が小さく頷くと、レオは頭を下げた。そして、私に視線を移すと、ほんの少し口角を上げた。


 まるで「大丈夫、僕に任せて」と言っているかのように。


「僕が幼い頃の話です」


 レオは両親に向き直ると、意を決したように話し始めた。


 ディアーナと初めて出会ったパーティーでの出来事や、彼が父に隠蔽してもらったアラスターであった頃のこと、そして、レオナルドになった経緯など、すべてを包み隠さずに話した。


 もちろん、馬車の事故で前の世界を生きていた記憶を思い出したことも。


「伯爵夫人がおっしゃっていた『テンセイシャ』というのは、僕のことです。そして、恐らくジルコニア公爵令嬢も」


「リニーは、それを知っていたのかい?」


 ずっと黙って話を聞いていた父が口を開いた。


「はい。すべてを話した上で婚約の承諾を得ました。僕の真実を話し、アイリーン嬢がそれを受け入れたらという条件でしたから」


 私はレオの袖口を摘んで引っ張る。レオは私に目を向けると、小さく頷いた。私は姿勢を正し、両親をまっすぐ見つめる。


「私も、『転生者』なの」


 驚き、目を見開いて固まる両親に、胸の奥がズキッと締め付けられた。


「前の記憶を思い出したのは、つい最近のことなのだけれど」


 私もすべてを両親に打ち明けた。

 もちろん、この世界が前に生きた世界で読んでいた本の中の世界であるということも、その主人公がアイリーンで、本来はフレデリック殿下と結ばれる物語であったことも。

 そして、同じく転生者であろうディアーナが物語とは違う行動をしたために、今の状況になっているということも。


「なるほど」


 父は今までの不可解な出来事の原因が判明し、納得したようだった。


 しかし、こんなにもすんなり受け入れられるものだろうか。

 そもそも、なぜ母が『テンセイシャ』という言葉を知っていて、父は母がそれを知っていると確信していたのだろう。


 私が母に視線を移すと、目が合った。


 どんな反応をされるのか、ビクついていると、母の顔がみるみるうちに綻んでいく。


「私の娘が物語の主人公なんて……素敵!!」


「……へっ?」


 母は胸の前で拝むように両手を合わせると、瞳をキラキラと輝かせた。

 そんな母を、隣に座る父が愛おしそうに見ている。


(ちょ、ちょっと待って? そんなに簡単に受け入れていいわけ? 結構、普通には受け入れがたい話をしている気がするんだけど……)


 夢や妄想と言われてもおかしくないし、むしろこの世界が誰かの手によって創られた世界だと言っているのだから、にわかには信じられないのが正常な反応だと思う。


 確かに前の世界を思い出した私たちも、この世界の魔法石や魔法具を普通に受け入れてしまっているけれど、それとはまた話が違う気がする。


 私と同じ疑問を抱いたのか、レオが質問した。


「伯爵夫人は、なぜ『テンセイシャ』の存在を御存知だったのでしょうか」


 すると、母はレオに向かってにっこり微笑んだ。




「だって、私――『転移者』なんだもの」



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