表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/105

不穏な日々の継続③


「それでも。すべては私があの場に玲音くんを連れて行ったからだよ。玲音くんまで巻き込んでしまった。本当に……ごめんね」


 美麗な顔に苦悶の表情が浮かぶ。レオはブンブンと大きく頭を横に振った。


「そんなこと言ったら、そもそもあのイベントを見つけた僕のせいだ」

「でも――むぐっ」


 突然彼に口を塞がれる。


「あー、もう! そんなこと言ってたらキリないってわかってるでしょ? やめ、やめ! この話はこれでおしまい。わかった?」


 口を塞がれたまま、コクコクと頷くと、それに納得したレオの手のひらが離れた。


「確認したかったのはそのことじゃないんだ」

「ん? それなら、何?」

「僕らはあれできっと死んだんだよね」

「うん、多分……」

「一緒に死んだから、一緒に転生した」


 私の心臓がドクリと脈打つ。


「もしも、あの時、僕ら以外にも死んだ人がいたとしたら?」


 私の身体から血の気が引いていくのを感じる。ガタガタと震えそうなほど、急速に身体が冷えていく。


「ディアーナが転生者じゃないかと感じてから、他にも転生者がいる可能性は考えていて。だから、愛莉もいるかもしれないと思って探してた。本当に愛莉と出会えたことで、ますます確信に近づいた」


 彼の言いたいことが理解できた。


「玲音くんは、何を見たの?」


 あの時、私は玲音くんの声だけを聞いた。だから、何があったのか、なぜ逃げろと言ったのか知らない。私は彼に背を向けていたのだから。


 彼は静かに目を伏せた。そして、ゆっくり息を吐き出し、瞼を開くと話し始めた。


「さっきも言ったけど。僕らの後ろに並んだ人の様子がおかしくて気にしていたんだ」


 私たちの後ろに並んだ人は、ずっと何かをつぶやいていたそうだ。


「僕たちが終わって、()()の番が回ってきてから、割とすぐに危険だと思った」


 彼女は作家さんの目の前に、綺麗に包装された箱を置いて、こう言った。


『私の方が()()()()を愛してる』


 作家さんの表情が驚きに変わり、何かを言いかけたところで彼女はニタリと笑った。


「箱の影で隠していた手元にスイッチのようなものが見えて、慌てて『逃げろ』って言ったんだけど、間に合わなくて……」


(だから、あの時。何かに包み込まれた感覚があったんだ。玲音くんが私を護ろうとして後ろから抱え込んでくれてたから……)


「ごめん、そんなつもりじゃなかった」


 レオは私の顔を見ると、唇を噛み締め、私の頬に手を伸ばす。レオの指が私の頬を伝う雫を拭った。


(あ……私、泣いてたんだ)


 いつもいつも、私は護られてばかり。彼は幼い頃の約束をずっと守り続けてくれている。

 前の世界でも、この世界でも。


「王妃様がアイリーンに言った“この世界”という言葉で思い出したんだ」


 私は顔を上げて、レオの瞳を見つめた。


「だから、あの時のことを確認しておきたかった。愛莉がどこまで覚えているのか」


 私はふるふると首を横に振った。

 私の知っていることなど、ほとんどない。あの時、私は自分のことしか考えていなかったのだから。浮足立っていて、周りなど見えていなかった。ふわふわして満足感でいっぱいの状態で伝えられることなどあるわけがない。


 自分が本当にどうしようもなく情けなくて、両手で顔を覆った。


「……ごめんなさい……」

「何に対して?」

「え……?」

「何で謝ってんの?」


 私が覆っていた手を下げると、目の前には赤い瞳がまっすぐこちらを見つめていた。


「愛莉もアイリーンも、何も悪くないでしょ? 謝る必要なんてないよ」


 レオはそういうと、突然私の頭をグシャと撫でた。そして、ニヤリと笑い、ちょんちょんと私の前髪を指差す。

 馬車の窓に映った姿に私は思わず「うわっ……」と声を上げた。いつかのように反り立った前髪を慌てて直し、ジロリと彼に視線を送った。


「大丈夫、大丈夫。気にするな。アイリーンはどんな姿でも可愛いよ」

「うん、わかってる」

「うわぁ……自覚してる!」


 二人で見つめ合うと、プッと吹き出した。


 もう、あの時とは違う。生きている世界も、私たち自身の姿も。私たちはこの世界で、これからのことを考えて生きていけばいい。


 それには――まず王妃様の件をどうにかしないと。


 こんなところでまた主人公チートなんて発動させたくない。本の中の王子様は、あのお話の世界の王子様であって、今、この世界を生きている私の王子様ではないのだから。


 馬車が速度を落とす。そして、ゆっくり止まった。ノック音が聞こえ、老執事が扉を開けた。


「おかえりなさいませ。お嬢様、坊ちゃま」


 レオがした渋い顔に、私と老執事は顔を見合わせ、クスクスと笑ってしまったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ