謝罪の真相は?
「これは一体どういうことなのか、ご説明いただけますでしょうか」
禍々しいオーラを纏いながら謁見を申し込んできたロードナイト伯爵に、ジュエライズ国王は今にも震え出しそうなのを何とか取り繕いながら、口元に蓄えられた髭を一撫でする。
「フレデリックの行動については随時報告が上がっている。ちょうど私からも諭告するつもりであった」
「諭告、とおっしゃいましたか? いや、私の聞き間違いでしょう。まさかそんな生易しい注意喚起だけで終わらせるなんてこと、ございませんよね?」
ロードナイト伯爵から漏れ出る漆黒のオーラが一層大きくなる。彼の柔らかい外見からはとても想像できないような狂気。正反対であるほどにその恐ろしさが何倍にも増幅されてみえる。
何とか保っていた国王としての威厳もガラガラと音を立て、崩れ落ちてしまいそうだった。
「陛下。私の娘に対する彼らの態度、これ以上黙認しがたいのです。私が直接介入する許可をいただきたいのですが」
ジュエライズ国王はガタリと立ち上がり、慌てて首を振る。
「ロードナイト伯爵! それだけは……! フレデリックとジルコニア公爵令息、そしてジェイド伯爵令息には正式に謝罪させよう」
ロードナイト伯爵は仕方がないというように小さく息を吐く。
「承知しました。しかし、次はありません。その時はすでに許可を得ているものとして、私が直接お話しさせていただきます。よろしいですね?」
国王は何度も首を縦に振った。
◇
「まったく……アイツは!」
ロードナイト伯爵が下がった後、謁見の間の椅子に大きくもたれかかり、天を仰いだ。
これからすべきことは一刻も早くジルコニア公爵と連絡を取り、彼の息子と彼の家で従者をしているジェイド伯爵令息を連れて登城させること。そして、フレデリックとともにロードナイト伯爵令嬢に謝罪させること、である。
仮にこれがロードナイト伯爵の娘でなかったとしても、彼らの取った行動は未来の王太子となる者やその側近となる者の行いではなかった。
しかし、ロードナイト伯爵の娘であったからこそ、諭告だけでは済まなかったのも事実。
(何故よりによってロードナイト伯爵令嬢なのだ)
フレデリックの素行は悪くなかった。むしろ、王子の鑑といっていいほど模範的な息子だったと自負している。
良い噂のないジルコニア公爵の一人娘のことも気にかけ、自分の周囲にも気配りのできる心優しい青年に育ってくれたはずだった。
フレデリックの婚約者を決めることになったとき、ロードナイト伯爵令嬢も候補の一人に挙がったことはあったが、フレデリックはすでにジルコニア公爵令嬢に決めていたようだったし、ロードナイト伯爵も娘を社交に出していなかったため、互いに望んでいないことはわかっていた。だから、打診する前に候補からは外れている。
それなのに今回、初対面のはずのロードナイト伯爵令嬢にフレデリックたちが失礼な態度をとった。何の関係もない、何の落ち度もない御令嬢に王族と公爵という高位の立場である者が複数で取り囲むなど。ロードナイト伯爵の怒りもわからなくない。
どれだけ彼女は怖い思いをしただろう。ただでさえ、社交に慣れていないというのに。
ロードナイト伯爵家は、ジュエライズ王国にとってなくてはならない家門だ。それゆえ、その娘が王家に嫁いでくれたらいいと思っていたこともある。
学園に入ったことで接点ができ、婚約までいかなくとも、学友くらいにはなってくれたら、と淡い希望を抱いていたのだが、脆くも崩れ去った。
それどころか事態はもっと深刻だ。
「王族、公爵家、そして、それに仕える側近として、相応しい行動をしなさい」
国王の声がどこまで響いているのかはわからないが、頭を垂れる三人には自覚があるようにもとれた。
(頼むから……もうこれ以上、事を荒立てないでくれ)
次はない、と言われている。
国王は三人が下がると大きな溜め息を吐いた。
ロードナイト伯爵の外見は薄桃色の髪、瞳は赤に近い桃色でアイリーンと同じです。アイリーンはパパ似!