だから、なんで集まってくるの?
本編に戻ります!
――どうして、こんなことに……
入学早々カイルスに問題児発言されたせいもあり、クラスでの人脈作りが見込めなかった私は、昼休みのカフェテリアを利用して、新しい人脈作りをしようと考えていた――というのに。
今、違う意味で注目を浴びている。
さっそく仲良くなれそうなグループを見つけ、一緒のテーブルに着くことができた。しかし――
「君たち。申し訳ないのだけれど、席を譲ってもらえるかな」
自己紹介を始める前に私の背後に立った人物たちによって、皆席を立ち、去っていった。
「では、わたくしも……」
「ロードナイト伯爵令嬢、君の席はここだ」
一緒に移動しようと上げた腰は、そのままストンと落とされた。今、私の前には眉目秀麗な面々が柔和な笑みを浮かべている。
(ナニコレ。どういう状況? この前、無視してくれって伝えたよね? それはどうなった? なんで囲まれてるの? 私、何かしたー? それに……あの笑顔、ちょっと不気味なんだけど)
フレデリック殿下は笑みを浮かべたまま、私の正面に座る。その両隣にディルクとカイルスが腰掛けた。
私の困惑が伝わったのか、私が疑問を口にするより先に殿下が話し始めた。
「先日は相手のことを知ろうともせず、一方的にすまなかった。私は……君のことが知りたい」
フレデリック殿下が真剣な眼差しを向けた。その隣に座るディルクも頷いている。
「……知った上で、君が妹に不安を与える存在なのか、自分の目で判断したいのだ」
カイルスの微笑みにはぎこちなさが混ざっているが、あれが精一杯なのだろう。確か物語の中では表情を作るのが苦手だったから。
「あなたと一緒にいれば、そのうち本性を現すかもしれませんし……」
(――え? 知ってほしいと思わないし、ディアーナ様と関わりたいとも思わないし、何より皆様と一緒にいたいとも思わないんですけど!)
「まずは友好を深めることも必要でしょう?」
(だから、私は関わりたくないんだってば!)
こうなったら、もう邪魔でしかない。
せっかく新しい人脈作って、“たった一人の人”探しをしようとしていたのに!
「あれ……? アイリーン?」
思い通りにいかず、悔しくて唇を噛み締めていた私の耳に聞き慣れた声が入ってきた。
私はハッと顔を上げる。
そこには昼食のトレーを持ち、席を探していたであろうレオの姿があった。
「レオ……! 席を探していたのよね? 私の隣が空いてるわ。どうぞ!」
通りがかっただけのレオも一緒に、と無理やり引き入れた。彼の返事も聞かず、私は隣の椅子を引き出して、座るよう促す。
明らかにレオは困惑していた。
(ごめん、レオ! この埋め合わせはきっとするから!)
正面に座る美形三人衆はやや眉を顰めたがそれ以上追及してはこなかった。そもそも私の邪魔をしているのはそちらなので。
(それにしても――レオは存在をうまく消せるのに、私はなぜ彼らに見つかってしまうのだろう? もしかして、これも主人公チートの一部なのかしら?)
そんな主人公チート、いらないよ!
友好を深めるのなら他の人たちがいい。それに――
「私と友好を深めることをディアーナ様は望んでいないのではないですか? 今、こうして皆様が私と一緒にいるところを万が一、ディアーナ様が目撃されれば誤解を招くのではないでしょうか?」
私にしてもあらぬ疑いをかけられて、恨まれるのも怯えられるのも正直勘弁してほしい。
三人は驚いたように固まる。
そこまでは考えていなかったのだろうか。私は追い詰めるようにたたみかけた。
「皆様がなぜ初対面の私にあのような対応をされたのかは存じ上げませんが、先日も申し上げました通り、興味も関心も持ってはおりませんので、皆様のような高貴な方がわたくしごとき知る必要もないかと」
だからね、ほっといてください。
私は楽しみにしていた昼食を味わうこともできず、黙々と流し込んで早々に席を立った。
◇
ムッとした表情を隠しもせずに、無言で食べ進めたロードナイト伯爵令嬢は早々に席を立つと、同席していたガーネット伯爵令息とともに教室へと戻っていった。
同じクラスのカイルスに急いで後を追わせる。
「ディアの憂いを少しでも取り除くために彼女の動向は知っておく必要がある」
「学園内では過剰な護衛を入れるわけにもいかないしな……」
学園外では公爵家の護衛が彼女の行動を監視すればいい。問題は学園内で彼女を見張る手立てがなかったことだ。
だったら、自分たちが彼女を直接監視すればいい。ただそれには行動をともにするだけの友好関係が必要だと思ったのだが、彼女に逆効果だと指摘された。
彼女がいかにこちらに関心がないとしても、それを鵜呑みにして信じるわけにもいかない。
そもそも伯爵令嬢である彼女が、なぜ今まで社交の場に出てこなかったのか。我々がまったくの初対面というのも本来珍しいことだ。貴族であればいち早く顔を売っておきたいもの。特に王家や公爵家、ましてやその子どもが同じくらいの歳なら、なおさらだ。
彼女に限らずロードナイト伯爵家自体、あまり社交をしていない。
それには、何か理由があるのだろうか――?




