7.変な顔
ああ、まったく、酷い天気。
温かい日差し、穏やかな風。
私は雨が好き。
身体に叩き付けるぐらいの風が好き。
私の好みはともかく、今日は酷い天気で、私は錆だらけのベンチに座って、水の出ない噴水を眺める。
かつて公園だった広い空間。遊具は何もなく、雑多に伸びた草木が不揃いに生えている。
人は一人もいない。
町も静まりかえっていて、音もしない。
世界を独り占めしたような気分。
空を見上げる。
眩しい太陽、青い空、白い雲が泳いで、どこかへ流れていく。
足音。
限りなく微かな足音。聞き馴染みのある足音。
「今度はどんな依頼?」
空を見上げたまま尋ねると、銀は、私から五歩前の位置で止まった。
「人だ」
「え?」
「人を運ぶ」
「遠いわ。もっと近付きなさい」
銀はため息をついて、私に近付く。
私は勝ち誇った顔を向ける。
銀は、私から二歩前の位置で止まった。
「人を運ぶ」
「へぇ、大切な人?」
「さぁな」
「今度は死なないといいわね」
「また嘘か」
私はふふんと笑った。
嘘じゃないわ。
生きていて私を楽しませてくれるのなら、死ぬ必要はないもの。
あなたみたいに。
銀が歩き出す。私は鞄を背負って、後ろについて歩く。
人通りのある道を歩けば、直ぐに悪臭が強くなる。
人間の匂い。相変わらず酷い。
道には、配給に列をなす人、意味もなく通りに座っている人、寝そべって死を待つ人。
けれど、この町は、少しだけ、ほかの町と違う。
「不思議ね」
歩きながら呟く。銀は無視する。
「そう思わない?」
放っておくと、しつこく詰められると思ったみたい。銀は「何がだ?」と答えた。
「町の人。ほら、皆、暗い顔をしているようで、瞳の中に、光が残ってる」
「気のせいだ」
「絶望してない。まるで、明るい未来が待っていることを信じているみたい」
「俺には他の連中と同じに見える」
「あなたは鈍いから気付かないの」
私は考えて、「ああ、そうか」と気付いた。
「町を歩いていたら、教会があったの」
「ほとんど人はいなかったけれど、今時、取り壊されていないなんて、おかしいでしょ?」
「この町の人々は、神様を信じているんだわ」
銀が足を止めたので、私も足を止めた。
「なに?」
銀は私を見詰めた。変な顔。今まで見ことのない顔。
私の記憶にある限り、彼は無表情か、怒りの顔しか見せない。
驚いている顔なんて、珍しい。
ああ、カメラを持っていたら良かったのに。写真に撮って、持ち歩きたい。
「正解だ」
「なにが?」
「この町には宗教が残っている。布教のために使者を別の町へ送る」
「ええ」
「俺達が運ぶのはその使者だ」
「そう。それはいいわ。どうだって」
「何を驚いているの?」
銀は再び歩き出した。
「お前が、人間の機微に気付くとは、思わなかった」
なに? 変なの。
私は、あなたより鋭くて、頭が良いの。
今更それに気が付くなんて、笑っちゃうわ。