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屍の星  作者: 中野南北
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5.スキップ

 石ころを蹴り飛ばす。

 ころころと転がって、側溝へ落ちる。

 あの石ころが誰かの目にとどまることはもうない。

 私の手で終わらせた。


 命を奪うのは、多分、それと同じ。


 銀は旅の成果を偉い人へ渡しに行っている。

 残された私は、軍の施設の前の石段に座ってお留守番。

 石ころを見つけては、脚を伸ばして蹴り飛ばす。

 無意味な遊び。

 時間潰し。

 まるで人生。


 二人の軍人がニヤニヤしながら私に近付いてくる。

 私は遊びを続ける。

 目の前に立たれると、無視するのが難しくなる。

 私は笑顔で挨拶する。

 軍人も笑う。


「嬢ちゃん、暇なら相手してくれよ」

「申し訳ないですわ。主人がおりますので」


 私が施設を指さすと、二人は怪訝な顔をする。

 丁度、扉が開いて銀が現れる。

 軍人二人の顔から色が消える。

 私は立ち上がり、丁寧にお辞儀をしてから、銀のもとへ小走りに近付く。


「旦那様」


 大声。

 銀は眉間に皺を寄せて、小声で「ふざけるな」と怒った。

 私はくすくすと笑った。


 ふざけてなんかいないわ。


「酷いわね。妻に対して、そんな態度」

「その馬鹿な冗談をいつまで続けるつもりだ」

「死が二人を分かつまで」


 銀はため息をついて、歩く速度を上げた。

 私は気分が良くなる。

 死が二人を分かつまで、言ってみたかったの。

 こんなに素敵な冗談(ジョーク)、寝かせておくのは勿体ないでしょう。


 どうやら、銀は町の外へ向かって歩いている。私は話しかけた。


「ねぇ、もう町から出るの?」


 銀は無視する。私は懲りない。


「ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ」


 銀は顔を歪めた。耳の傍を飛ぶ蠅を鬱陶しがるみたいに。


「次の仕事だ。これを届ける」


 銀は背負っているバッグを叩いた。

 私は「あら、そう」と答えた。

 かまわないわ。

 町より外の方が面白いもの。


「で、何を届けるわけ?」

「興味もないのに聞くな」


 へぇ、よく分かったわね。

 私は少し嬉しくなる。

 嬉しい時は?

 上機嫌に口笛を吹いて、スキップでもしてみようかしら。


 飢え、乾き、目から光を失った人々が散らばる町の大通り。

 今にも雨粒が下りてきそうな曇天の下。

 私は弾むように歩いた。


 

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