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屍の星  作者: 中野南北
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4.共食い

 警戒。

 それが彼等のお仕事。

 鉄の柵の前に立ち、私達に向き合う。

 肩には大きな銃。

 人の命を奪うため?

 人の命を救うため?

 矛盾。見る度、不思議に思う。


「証明書を見せろ」


 彼がポケットから取り出した紙切れを見て、警備兵は鼻で笑う。


「あんたが銀か」

「そうだ」

「噂通り、()()()()()()()だ」


 警備兵は、銀の後ろに立つ私をちらりと見る。

 私は、目を合わせて、笑顔を作る。

 警備兵達が下品な笑みを浮かべる。

 銀は、無表情。でも、きっと怒ってる。


 この時代に、16歳の女の子を、危険な外へと連れ回す。

 女の子はセーラー服を着せられていて、おまけに、すごく美人。

 いつしか銀の評判は地の底に。

 私は、笑わずにはいられない。


「だが、腕は確かだ。さっさと入れ」


 銀は不服そうに「どうも」と呟く。

 私は、開いた扉へ入る前に、一番近くにいた警備兵へ向き直る。


「いつもお仕事お疲れ様です」


 とびきりの笑顔。

 彼等は戸惑い、喜び、照れくさく頷く。

 私の評判は上々。

 銀の額の皺が深くなる。


 壁の中は窮屈。

 朽ちかけた家、ボロボロのテント、配給の列、生気を失った人々。

 私が歩くと、皆、私を見る。

 でも、大抵は直ぐに興味をなくす。

 どこの町も、ほとんど同じ。


 町の外れに鉄の檻がある。

 檻の中には男が二人、女が一人、気力なく倒れてる。檻の外には兵隊が二人、暇を持て余してる。

 檻の中の三人は弱り切っていて、もう間もなく、この地獄から解放される。

 つまり、死ぬってこと。


 死刑。

 

 昔は、色々な方法があったとか。

 身体に電気を流したり、首を吊ったり。毒に、断頭、頭を撃ったり、燃やしたり。その他、色々。

 残念だけれど、今は、手間をかける余裕がない。貴重な資源は温存しなくちゃいけない。

 だから、一番簡単な方法で死を贈る。

 一番簡単で、残酷。答えは、何もしない。


「気の毒だと思わない?」


 銀は無視する。歩調は変わらない。


「私は思うわ。だって、こんな最期、面白くないもの」


 私はそっと道を逸れ、檻に近付く。兵隊が警戒する。

 私は檻から少し離れたところで、膝を折って、檻の中の三人を見詰める。


「離れろ」


 兵隊が命令する。私は、檻の中の女と目を合わす。

 一瞬、時が止まったみたい。奇妙な瞬間。

 女は痩せこけている。肌は乾燥しきっていて、年齢も分からない。

 でも不思議。目だけはらんらんと光ってる。


「ねぇ、気の毒ね、あなた」


 女は何かを懇願するみたいに、私へ手を伸ばす。

 なぁに?

 生きたいの?

 駄目よ。


「あなたは終わるの」


 私は笑顔で頷く。

 突然、女の目が見開く。食い縛った歯。溢れる涎。うめき声を上げながら、倒れている男に覆い被さると、男を食べ始めた。


「あら、元気になったのね」


 という私の声は、兵隊達の慌てる声と、食べられている男の叫び声にかき消される。

 

 男の腹から血が溢れる。内臓が溢れる。

 女は男のお腹の穴に顔を突っ込んでもぐもぐしている。

 兵隊は驚き、恐怖し、檻へ銃を向ける。


 パン・パン・パン。乾いた音。


 私は、最後まで見ることができなかった。

 何故?

 銀が私を抱きしめて、その場を離れたから。


「何をしてるんだ」

「何もしていないわ」


 銀は青筋をたててる。私はくすくすと笑う。

 

 良い物が見られた、そうでしょ?

 飢えた人間の最期の抵抗。

 そのまま終わるより、よっぽど健全じゃない。


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