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屍の星  作者: 中野南北
3/6

3.駅の下

 静寂の世界。

 無人の駅。


 改札に入ると、直ぐに線路。高速で動く鉄の塊も、騒々しい人の群れもない。

 電灯も、券売機も、ただそこにあるだけ。電気を失って、沈黙している。

 私には見慣れた景色。

 あなたにとっては?


「乗ったことはある?」


 彼は感慨もなく辺りを見渡す。


「ある」

「どうだった?」

「何も。昔は、それが当たり前だった」


 そう。

 良かった。

 人の群れなんて、怖気がするもの。


 線路に下りる。

 鉄のレールが、遙か先まで続いている。

 ふと、ホームの下にある空間へ目を向ける。

 私は微笑む。


「こんにちは」


 死体。

 骨に黒い皮が張り付いているだけの、男の死体。

 大きな空の瓶を傍に、身体を丸めて、毛布に包まって、じっとしている。


 彼も駅から下りて、死体へ目を向ける。

 続けて、視線を私へ。

 無言。


「なぁに? あ、もしかして、したくなっちゃった?」


 私は自分の身体を抱きしめる。彼は私の言葉を無視する。


「今度は興味をもたないのか」


 私は、何の話か考えて、納得する。


「ああ、この子と比べて?」


 私は頭のお花を指さす。彼は無言。


「だって、ドラマを感じないもの」


 逃げて、隠れて、生き延びようとした。

 飢えと孤独で、亡くなった。

 とてもありきたりで、つまらない。


 私は、物語が好きなの。

 悲劇も、喜劇も。

 心揺さぶられる物語を愛しているの。


 レールに沿って歩き出す。踏切を越えて、さらに先へ。

 喉が渇いたから、川で汲んだ水を飲む。

 味のしない水。

 この世界にはぴったり。


 少し先に壁が見えた。

 白い壁。

 町を囲む壁。

 外の脅威を阻む壁。

 まるで檻のよう。


 壁に近付く度、嫌なにおいが鼻につく。

 このにおいは?

 勿論、ひとのにおい。

 命のにおい。

 なんて、品のないにおいだろう。

 面白みのないにおいだろう。


「今度は余計なことを言うな」


 彼のぼやきに、私は心外だ、という顔をする。


「余計なことなんて、言ったことがないわ」


 彼の舌打ちに、私は笑う。

 レールにお別れを告げ、門へと向かった。


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