2.お花
緑色の髑髏。
廃墟から、少し離れた所。林を横切る小川の傍に、うち捨てられている。
花柄のTシャツ、水色のスカート、背丈は私と同じぐらい。苔に覆われて、半分地面に埋もれている。
片方の真っ黒な眼窩から、鮮やかなピンクの花が咲いていて、私は、趣があると感心する。
「素敵。ねぇ、そう思わない?」
彼はふと目を向けて、直ぐに前をむき直し、進む。
意地悪。
私はその子の傍に寄り、腰を下ろして、緑色の頭を撫でた。
苔に覆われて、ふわふわしていて、少し押すと、硬い骨を感じる。
「あら、あなた、まるで、生きているみたいね」
私はクスクスと笑う。
彼女のスカートのポケットを探る。何もない。傍を見渡す。何もない。
残念。あなたがどんな人なのか、少しだけ興味があったのに。
「遊んでいる暇はない」
いつの間にか戻ってきた彼は、プンプンしながら言った。
遊んでいるなんて、とんでもない。
「見て、この子。こんな場所に一人でいるなんて、不思議だと思わない?」
「何が言いたい」
「少女が、人里離れたところで、たった一人」
きっと、ドラマがあったの。
心震えるドラマ。
聞く人が涙を流す、そんなドラマ。
真面目に聞いて損をした、という顔を彼がするものだから、私は、一層、愉快になる。
「行くぞ。日暮れまでには町に着く」
「そんなに急いでどうするの? もっと旅を楽しみましょう」
「仕事だ。忘れるな」
彼は歩き始める。
私は彼女に向き直る。
「せっかち。ねぇ、あなたもそう思うでしょう?」
答えはない。
そうね。これでお別れなのも、寂しいわ。
彼女の眼窩の花を摘む。
彼女から生まれた花。
彼女の心? 彼女の魂?
「そうだ。このお花は、あなたの生まれ変わりね」
私は、私の髪に彼女の花を飾る。
「喜んで。この世界の続きを見せてあげる」
私があなたに飽きる、少しの合間だけ。