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屍の星  作者: 中野南北
11/12

11.酷いひと

 お鍋をかき混ぜると、半透明の液体がぐるぐると渦を巻く。

 ガスコンロで作ったスープ。野草と、コンソメの素を入れただけの簡素なもの。

 階段を下りる音が聞こえる。開いたままの扉から牧師さんが姿を見せる。


「おはようございます」

「おはよう」


 私の声。銀は窓から外を眺めたまま何も返さない。

 挨拶もできないなんて、幼いひと。

 牧師さんは寝ぼけ眼でお鍋を見付ける。


「朝ご飯?」

「そうよ。力の源」


 三つの器にスープを入れる。

 不平等に取り分けられた中身を見て、牧師さんは気まずそう。


「銀さんの分」

「彼は小食なの」


 嘘。

 でも、このスープの素を見付けたのも、作ったのも私。

 彼も文句は言わず、器を受け取ると、一口で飲み干した。


 銀が地図を広げる。古く、黄ばんだ紙は、文明が存在していた頃に描かれ、情報が書き加えられた物。

 元の持ち主は、とうの昔にお空の上。


「ここから先は巣が多い」

「巣?」


 牧師さんが呟くと、銀は答えた。


「外の連中。特にこの辺は野蛮だ。周りのビルから監視している。回避するには、下水道を利用するか」

「嫌よ。汚いでしょう」

「迂回して、住宅街の間を抜けるか」

「一択ね」


 私がうんうん頷く。銀の視線が飛んでくる。


「両方とも隠れている連中がいる。住宅街は気配に気付きにくい」

「なら、挨拶しないとね」


 銀はため息をついた。

 牧師さんは戸惑いながら、銀と私へ視線を往復させる。


 仕方ないわ。下水道は嫌いなの。

 初めは探検している感じが、楽しかった。

 でも、お気に入りの制服に匂いが染み付いて困ったの。

 たまに転がっている死体にも、ドラマを感じなかったし。

 何より、旧時代の建物には、素敵な出会いがあるもの。


「住宅街で決まりね」



 梯子を下りるカン、カンという音。

 銀が最初に下りて、牧師さんが続く。

 最後に私が下りているとき、最後の段の梯子が、ガタンと外れた。

 私がよろめいて倒れそうになると、牧師さんが大げさな声で「危ない!」と叫んで、私の身体を支えた。

 とても紳士的。

 牧師さんは私を抱きしめて、直ぐに離れると、「大丈夫かい?」と頻りに繰り返した。


 優しいのね。


 私はお礼を言った。

 銀はというと、壊れた梯子を見て舌打ちをし、ネジを締め直している。

 人間性の差、かしら。それとも、好感度の差?

 どちらにせよ、酷いひと。

 銀が直した梯子を建物の影に隠している間、牧師さんの視線を感じた。

 私が笑いかけると、彼も笑った。


「言いにくいんだけど」

「なぁに?」


 助けてくれたお礼に、何でも答えてあげる。


「君は、どうして、清潔でいられるんだ? すごく、良い匂いがする。甘い、花みたいな」

「ああ」


 そうね。

 確かに、疑問かもしれない。こんな生活をしていたら、お風呂にだって、滅多に入れないものね。

 答えは簡単。


「生まれつきなの」


 私は、生まれついての、美少女。

 いい女からは、いい香りがするもの。

 誰が定めたのか知らないルール。

 私は、それに従って生きているの。 


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